「雨・赤毛」-モーム短篇集を読んだよ

[あらすじ from 新潮社HP]
狂信的な布教への情熱に燃える宣教師が、任地へ向う途中、検疫のために南洋の小島に上陸する。彼はここで同じ船の船客であるいかがわしい女の教化に乗りだすが、重く間断なく降り続く雨が彼の理性をかき乱してしまう……。世界短篇小説史上の傑作といわれる「雨」のほか、浪漫的なムードとシニックな結末で読者を魅了する恋愛小説「赤毛」など、南海を舞台にした短篇3編を収録。

私のオールタイム・ベストの一冊として『人間の絆』がありまして,その作家がこちらのサマセット・モーム氏になります。
映画「セブン」でもちらっと名前が出てきたりする作家です。

本作中の収録作3作品ともに南国を舞台としたお話ですが,観光地的な天国感はなく,あのまとわりつくようなジメジメ感を感じさせるお話でした。

『雨』
いやはや,めっちゃ面白い。
ちょっと長めの短編小説だけど,世界短編小説史上の傑作というのも納得です。
結末に対して誰が何をやったのか具体的なことは一切描かれないんだけど,それだけに妄想が膨らみます。
 「豚」が何を表してるのか。
 宣教師が強化のために訪ねた女の部屋から帰った後,なおも続ける熱心な祈りは何を祈っていたのか。
そんなことをふらふらと妄想してしまいます。

[以下自分妄想のネタバレ(反転)]
宣教師が首元が切られた死体で発見され,教化を受けたと思われた娼婦が元の姿に戻るところでこのお話は終わり。最後に娼婦が「男なんてみんな同じ。豚,豚なのよ」的なセリフを主人公である医師に言って終わることからも,宣教師が娼婦に丸め込まれてしまったことが伺えます。日々の熱心な教化活動の中で少しづつ娼婦に籠絡されていった宣教師はその迷いを断ち切るため,娼婦の部屋を出た後に過度なまでの祈りを捧げていたのかなと。また,娼婦の手に落ちた宣教師は,狂信的に信じた教えに背いたことへの罪悪感(絶望?)から自ら命を断ったのだとも。いや〜怖いね。
[以上ネタバレ妄想終わり]

雨を隠喩的に使うことは映画でも小説でもよくあることだけど,これもとても象徴的に扱っていると思います。
モーム,やっぱ面白い。


赤毛
こちらはうって変わって恋の物語。
と言っても・・・・・なんですが。

物語の最後,主人公であるところの彼がとった行動(or取らなかった行動とも言えるんだけど)に思いを寄せると愛する人と生涯をともにすることについて考えてしまいました。


『ホノルル』
これもまたもや恋がからむお話。
いづれにしても幸せな結末とはいかないところに,モームの抱いていた人生観を感じさせます。

3作いづれも好きなんだけど,やはり,表題作『雨』は抜群でした。