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2007-05-24

[][] ミクロ経済学の新しい教科書  ミクロ経済学の新しい教科書を含むブックマーク


ミクロ経済学

ミクロ経済学

を頂いた。薄いけれども、痒いところに手が届くような議論がいろいろあって、結果的には読みやすい一冊になっていると思う。日本の一般の教科書と比較して(日本の教科書が一冊も手元にないが...)特色を挙げるとすると、こんな感じ。


1.選好へのこだわり

行動経済学や、「非合理的」な選好がメインストリームに出てきた今日この頃、経済学はいろいろな種類の選好であふれかえっている。そんなときこそ、スタンダードな選好が何であるか(というより何でないか)をきちんと理解しておくことは大事だろう。その点、この教科書では、効用の序数性/基数性、顕示選好、期待効用への公理的アプローチなどに関する記述が特に充実している。もちろん、ちょっと変わった選好の例にも事欠かない。ちょっとチェックしただけでも、偶然選好、習慣形成、ハイパーボリック・ディスカウンティング、最大後悔最小化、Kreps−Porteus*1、プロスペクト理論と盛りだくさんだ。


2.完全競争へのこだわり

完全競争についての、かなり丁寧な議論を読むことが出来る。他の教科書に出てくる「完全競争」に違和感を持った人には、ここでの記述が参考になるかもしれない。


3.非分割財へのこだわり

いきなり第1章の2節から、非分割財の話が出てくるのが凄い。と思うと、22章でゲール・アルゴリズム、ゲール・シャープレイ・アルゴリズムの二連発に度肝を抜かれる。ここら辺の話は、普通の教科書じゃまず読めないだろう。最近は結構ホットになってきている分野だ。腎臓交換の話もチョッと出てくる。


4.最近のトピックへのこだわり

本の一番最後で、この教科書を読み終えた人のために、最近の専門的なトピックを少し紹介している。Universal Type Space, Rationalizability, 学習、進化ゲームメカニズムデザイン、不完備市場、サーチ理論、限定合理性と、一つ一つへの言及は限られているものの、こちらも盛りだくさんの内容だ。


というわけでこの本はとてもお勧め。

一つ注文をつけるとしたら、クールノーの完全競争への収束の話かな。この話は完全競争と余り食いあわせが良くない気がして、自分だったら使わないかな、と思う。

*1:これと、Kalai-Lehrerは参考文献から抜けてるもよう。

ykatoykato 2007/06/14 02:02 Camerer, Loewenstein and Prelec (2005)によるJELのサーヴェイの第4節の最初に、ミクロ経済学の基礎と関係あると思われる、興味深いことが書いてありましたので、ここにまとめてみます。

(1)人々の経済行動の違いをもたらすと考えられる、人々のheterogenityを表現すると考えられるもので、経済学で研究の対象なってきたのは、(i) time preference, (ii) risk preference, (iii) altruism である。これらは、幼少期に個人のhetetegeneityが形成されてから、個人が死ぬまで、それほど個人の中で変わらないものと考えられる。

(2)ところが、実証研究で、文脈や直面する状況を変えることによって、個人ごとのtime preference, risk preferencealtruismの度合いを測ろうとすると、個人ごとの一貫性を見出すことが困難である。

(3)考えられる方法上の問題として、time preference, risk preferenceやaltruism
と関連していると思われる代理変数が、文脈や直面する状況を変えると適切さの度合いが変わることが考えられる。

(4)例としては、ある個人がたばこを吸うか吸わないかというデータが、個人の時間選好のheterogeneityの代理変数だとして、貯蓄や教育投資の違いをどのように説明するかという実証研究に用いられることがある。

(5)しかし、どのようなタイプのchoiceに直面しているのかに応じて、脳のモジュール機能は、qualitatively difference mixtures of neural systemsをinvokeする。よって、同じタイプの代理変数を用いて推定されたtime preference, risk preferenceやaltruismについてのパラメータの推定値は、文脈や直面する状況によって変わるものと考えられる。

tazumatazuma 2007/06/16 04:29 どうも情報ありがとうございます。いったい何が、適切な代理変数なんでしょうね。そのうち、このときはこれを使え、とかいうマニュアルができたりするかもしれません。このときはタバコだけど、このときはドラッグがいいとか......

ykatoykato 2007/06/19 22:52 コメントありがとうございます。私の本来の領域であるマクロ経済学においては、割引ファクターβ(ミクロの人にとってはδでしょうが。。。)とCRRA効用関数c^(1-λ)/(1-λ)の係数λが、それぞれtime preference, risk preferenceに対応していると思います。パラメータの値を与えて、カリブレートする研究や、パラメータ自体を推定をしようとする研究でも、λの値は、研究によって非常にばらついています。実験によって、λを推定しようとした研究がありますが、それによると、λの推定値は約0.5のようです。が、この研究で、観察可能な情報を用いて、観察可能でない個人のλについてのheterogeneityが考慮されているかどうかは、論文を読んでないので分かりません。

ykatoykato 2007/06/19 23:58 追記しますと、通常のマクロのカリブレーション研究では、λの値としては1.5か2.0が用いられます。Equity premium puzzleの文脈では、それくらいのリスク回避度で足りず、λを10とか、むちゃくちゃリスク回避的にしないといけないと説いたのが、プレスコットとメーラの著名な研究の位置づけかと思います。それらに比べると、0.5というのは随分低いように思われます(念のため、λ=0.0がリスク中立的に対応)。

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