ミクロ経済学の新しい教科書
- 作者: 林貴志
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2007/04
- メディア: 単行本
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を頂いた。薄いけれども、痒いところに手が届くような議論がいろいろあって、結果的には読みやすい一冊になっていると思う。日本の一般の教科書と比較して(日本の教科書が一冊も手元にないが...)特色を挙げるとすると、こんな感じ。
1.選好へのこだわり
行動経済学や、「非合理的」な選好がメインストリームに出てきた今日この頃、経済学はいろいろな種類の選好であふれかえっている。そんなときこそ、スタンダードな選好が何であるか(というより何でないか)をきちんと理解しておくことは大事だろう。その点、この教科書では、効用の序数性/基数性、顕示選好、期待効用への公理的アプローチなどに関する記述が特に充実している。もちろん、ちょっと変わった選好の例にも事欠かない。ちょっとチェックしただけでも、偶然選好、習慣形成、ハイパーボリック・ディスカウンティング、最大後悔最小化、Kreps−Porteus*1、プロスペクト理論と盛りだくさんだ。
2.完全競争へのこだわり
完全競争についての、かなり丁寧な議論を読むことが出来る。他の教科書に出てくる「完全競争」に違和感を持った人には、ここでの記述が参考になるかもしれない。
3.非分割財へのこだわり
いきなり第1章の2節から、非分割財の話が出てくるのが凄い。と思うと、22章でゲール・アルゴリズム、ゲール・シャープレイ・アルゴリズムの二連発に度肝を抜かれる。ここら辺の話は、普通の教科書じゃまず読めないだろう。最近は結構ホットになってきている分野だ。腎臓交換の話もチョッと出てくる。
4.最近のトピックへのこだわり
本の一番最後で、この教科書を読み終えた人のために、最近の専門的なトピックを少し紹介している。Universal Type Space, Rationalizability, 学習、進化ゲーム、メカニズム・デザイン、不完備市場、サーチ理論、限定合理性と、一つ一つへの言及は限られているものの、こちらも盛りだくさんの内容だ。
というわけでこの本はとてもお勧め。
一つ注文をつけるとしたら、クールノーの完全競争への収束の話かな。この話は完全競争と余り食いあわせが良くない気がして、自分だったら使わないかな、と思う。
*1:これと、Kalai-Lehrerは参考文献から抜けてるもよう。