薬師寺・唐招提寺

今日は「ゆく秋の大和の国の薬師寺の搭の上なる一ひらの雲」の西の京へ。高の原から電車で10分。薬師寺は久しぶりで、3年前に大講堂が完成して全ての堂塔が復興されてからは初めて。東塔以外は全て金ピカの伽藍というのは、古色に慣れた現代人の目には何となく違和感はあるが、創建当時にこの姿であったということを考えれば、古さだけに価値を求めるのはおかしいのかも知れない。フランスの作家アンドレ・マルローは文化大臣であった時代に、「建造物は、建造されたときのすがたで見られる権利を有する」と語って、黒く汚れたパリの建築物の大洗浄作戦を行った、と五木寛之が書いていたが、まァ、人の好みの問題ではある。薬師寺の復元を断行した高田好胤管主はサービス精神が旺盛で、暗くて見えない仏像を拝観に供する他の奈良の諸寺と違って、堂内も明るくて仏像も見やすい。金堂・薬師三尊像は藤原京からの移坐説もあるが、最近は天平新鋳説の方が有力なようだ。まことに堂々たる薬師如来とヘソ出し腰ひねりの日光・月光菩薩は、金堂の新しさと明るさもあって、荘厳でありながら親しみやすい印象。世界最高峰の仏像と評されるのも頷ける。東院堂の聖観音菩薩像も美しい。玄奘三蔵院の平山郁夫画伯の大唐西域壁画は何回も見たので素通りして、土塀の道を北へ。10分ほどで唐招提寺に。唐招提寺は今金堂の大修理中で完成は2010年とのこと。8世紀前半はブロンズ像と脱活乾漆像・塑像の全盛期で、日本の仏像史の中で唯一の木彫像の空白期であったが、奈良時代後期に復活したのがこの唐招提寺の木彫像である。中には木彫故に縦に干割れた像も多いが、その中でいやでも目立つのが顔と腕が失われているが、美しい肢体を持つ如来形立像である。さて、どんな顔がふさわしいのであろうか。唐招提寺の境内は奈良の寺では珍しく樹木の多い寺。緑の中の真っ赤な紅葉が印象的であった。