「想定外の事が積み重なって、関わった人間どもの想いが凝縮されて、この形に結実したのさ」山口洋



2007年12月7日、渋谷での「MONTHLY AOP SESSIONS Final」にて。撮影=MOMO


———アルバム『land of music』は、レコード会社による既存の制作システムではなく、自分たちでアルバムプロジェクトを立ち上げ、賛同者から資金を募り、それをアルバムの制作資金にし、約1年という長い期間のレコーディング、ミキシング作業などを経て、2007年1月(プロジェクト賛同者には2006年12月26日に一般発売より一足早く届けられた)にリリースされました。
「Dream Harder」という言葉がこのプロジェクトの立ち上げ時に挙げられていましたし、2005年10月22日の「アルバムへの第一歩」と題された日記には、〈きっと困難も沢山あるだろうけど、それも楽しみにしている〉と記されています。アルバム完成から約1年経った今、この「Dream Harder」という言葉の意味、また、〈困難も沢山あるだろうけど〜〉という、これらスタート当時の困難な道のりへの暗示的な予想を振り返ってください。


山口洋 「harder」ねぇ。その文字の通りだったよ。ある意味では。でも、ドリーマーで居る自分も嫌いじゃない。いつだって現実は目の前にある。でも少なくとも、やり残したことは何ひとつない。「no regrets」、それもまた、その文字のまま。ひとつの頂きを超えたと思ったら、また次の頂きが見える。だから、行くだけだよ。多分、生きてる間はそんな感じじゃないのかな。俺、その道を歩いてるのが嫌いじゃない。好きだから、行くのさ。
「the Rising」。最初から予定していてこの形になったんじゃないんだ。ある意味では為すべくしてなったんだろうけど、想定外の事が積み重なって、関わった人間どもの想いが凝縮されて、この形に結実したのさ。それが探してきた「land of music」へのひとつの応えでもある。プロジェクトを始めた時、それは「あって欲しい」っちゅー願望だったんだ。でも、それはあるんだ。人々の心の中に、世界中のあちこちに。「the Rising」はそれを伝えるための大事な形だ。
いつだって、賛同者の気持ちを忘れたことはない。ただ、曲がり角では、思い切り自分たちの行きたい方向に思い切りシフトさせてもらった。迷わなかった。感謝してるんだ。心からありがとう。


———過去の作品の「廃盤」や配信問題など、以前契約していたレコード会社との軋轢もこのプロジェクト立ち上げのひとつの要因だったと思いますが、当時、〈音楽業界の構造改革の嵐の中で、ミュージシャンがいつも音楽バカでいる訳にはいかない時代だと俺は思う〉とも記していますよね。


山口洋 そうだね。確かに音楽業界はヒドいことになってる。それに関しては、ここでは語らない。長くなるから。イマジンして欲しい。みんなが働いて、生きて、感じている矛盾と多分ほぼ同じさ。でも、それは新しいモノを生み出す、新しいシステムを構築するチャンスでもある。ドンヅマリになって、人は本気で、何かを考えるんだよ、多分。
43歳になって、ハイハイを始めたみたいなもんだけど、海原に漕ぎ出すのさ。メイビー、不可能はない、それを諦めない限りはね。
勝手な連帯をしている人たち。それはミュージシャンに限らず。繋いでいるものは「honest」であることだね。「yes!」と云えることだね。本当の意味で。俺にとっては。難しいけど、簡単だよ。


———今回の『land of music / the Rising』は、そのアルバム制作の日々を記録したドキュメンタリーDVDとライヴDVD、ライヴCD、ダイアリーからなるボックスセットですが、当初は旧知の映像ディレクターとの「このアルバムプロジェクトを映像に記録したい」という想いから始まったものなんですよね。


山口洋 これまた、長い応えになりそうだけど。そうだよ。俺もこのプロジェクトを記録しておく意味があると思ったんだ。だって、誰もやってないんだもん。それには確実に困難がつきまとうものさ。頼んでもないのに、まんべんなくついてくる。それを情熱とカラダの大きさだけは人一倍ある越智望が記録を担当した訳さ。まぁ、詳しくは奴のblogを参照してくれ。それをアルバムがリリースされた直後、2007年4月のツアーでDVDとしてユーザーに届けようと思ってた。
でも、奴はあまりに密着しすぎて、客観性を失った。頓挫したんだ。膨大なテープと、情熱と、使った金はゴミ寸前さ。それを渡辺圭一が別の視点から、見事に客観性を保って、仕上げた。ちょっとカンドーしたよ。越智望にはいつか本当のでっかい男になって、奴のストーリーを仕上げて欲しいね。それだけの素材は充分にあると思うよ。
ライヴDVDはね。“land of music”ツアーの際の映像チーム「mood.films」があまりに素晴らしかったから、単なるライヴDVDを超えるものを仕上げてくれるだろうと思ったんだ。予算の関係上、彼等がツアーに同行し、生で映像をコントロールできたのは、東京だけだったんだ。その一回こっきりのチャンスで、彼等の仕事は素晴らしかった。あれを観ることが出来たのは東京のオーディエンスだけなんだ。じゃあ、作品にして、もっと濃密に関わって、今まで何処にもなかったライヴDVDを作って、東京のライヴに来られなかった人たちにも観てもらおうと。仕上がりは素晴らしいよ。彼等の情熱には本当に打たれてる。まぁ、口で語ると陳腐にしかならないから、予告編を観て、イマジンして欲しいんだけど。
ライヴCDはね、当初出す予定はなかった。音は俺がミックスして、細海魚がマスタリングした。映像に触発されて、何度も何度もやり直した。で、最終的なものが出来上がって、車の中で聴いてた時に、映像とは違う風景が見えたんだ。これって凄いことなんだよ。俺たちが辿り着いた場所なんだ。嬉しかったんだ。映像と音だけの世界、そのふたつで違う旅が出来るのさ。
本はね、これまたツアーで「other side of / Land of music」みたいな感じで届けようと思ってたんだ。編集もほとんど仕上がってた。そしたら、信頼してる編集者とデザイナーがほぼ「同時」に病に倒れた。嘘だろ?と思ったけど、本当の話さ。彼等もずっとこの世界で働いていて、多分これまでの自分たちを見直す時期だったんだ。で、恢復して、彼等が「これから」を始める時に、この編集作業を選んでくれて嬉しかったんだ。全てはタイミングなんだよ。俺、ゲラ刷りを読んだけど、素晴らしい仕事さ。言葉を読めるデザイナーと音楽を愛してる編集者なのさ。
俺ひとりじゃここには辿り着けなかった。これらは全て多角的に完成されてる。いつか話したけど、「とんかつ定食」に例えれば、ごはんとおしんこ、味噌汁、キャベツにカツ、じゃなくて、カツ、カツ、カツ、カツ、カツみたいな作品さ。観て、聴いて、読んで、味わって、濃密すぎると思う。でも、最初の質問に戻るけど、今はそんな時期なのさ。辿り着いたのはそこだったって訳だ。後はユーザーがゆっくりと時間をかけて、そのカツを味わってくれればいいんだ。一度に喰うと、疲れる。多分。
本当はパッケージの話もしたいけど、それは後のプロダクト・スーパーバイザーのインタビューに譲ろう。
最後に限定1500部の意味なんだけど。ひとことで書くなら「それができることすべて」だったのさ。以上だよ。じゃ、楽しんでくれ。


Intervews will be continued.