考察


 インターネット広告史を概観して得られる結論としては,インターネット広告は,本質的にレスポンス広告だということである。今日の広告主は自分たちのコンテンツ露出のためにインターネット上の広告枠のスペースを買うのではなく,そこにリンクを貼ることで得られるレスポンス効果のために,インターネット広告を利用するのである。したがって,レスポンス「広告」とするよりも「レスポンスを喚起するメディア」と呼ぶほうがより適切であろう。


 インターネット広告に関する理論形成においても,旧来のマスメディア広告のそれを下敷きとしたものが多く見られるが,インターネット広告単体で見た場合は,むしろ販売促進活動と不可分であるような広告をさすSP広告としてとらえるべきである。その内在する本質を明らかにしたのがクリック保証型広告の登場であり,成果報酬型メニューの存在が従来型広告と本来のインターネット広告との分水嶺になったと言うことができる。


 インターネット広告の登場,インターネット利用の一般化によって,与えられる情報を受容するよりも,自ら情報を探しにいくというメディア接触スタイルが広がり,必然的に受動的接触態度を前提とするディスプレイ型広告が衰退していった。従って,インターネット広告市場の伸長により,マスメディア広告の売上が奪われたという理解は誤りで,広告の役割そのものがレスポンス重視へ変化していったのに伴い,従来型のディスプレイ型広告のニーズが減少していったととらえるべきである。


 一般家庭への光回線の普及による本格的なブロードバンド化によって,動画サイトを受動的に,テレビと同様にダラダラ見るという利用スタイルも増えている。こうした媒体接触スタイルであれば,興味のない情報であっても目に入りインプレッション効果は発生し,ブランディングに影響を及ぼすと考えられるかもしれない。これはインターネット広告のごくわずかな一面を取り上げた場合には確かなことでもあるが,決して本質的な効果ではない。インターネット広告は本質的にレスポンスを求めるものである。閲覧者による反応の形態と度合いが,目を向け認知することに留まるのか,クリックするのか,購入に結びつくのかの違いはあれども,閲覧者から積極的に選択されなければその広告は存在していないことと同義である。


 言い方を変えると,インターネット広告は選択されるために存在している。そのことは,広告を掲載する「枠」を含む媒体の力よりも,広告自体が持つコンテンツとしての力こそが,インターネット広告においては重要であることを意味する。インターネットの世界では,広告であっても,本編や記事であっても,コンテンツが勝負の鍵になるということである。


 ディスプレイ型広告は掲載媒体の媒体力に依存しており,その広告効果は媒体の力量に左右される。一方,様々な掲載枠が存在し,検索連動型広告のように露出スペースを管理,コントロールできないものすらあるインターネット広告では,広告のメッセージすなわちコンテンツそのものの力が,広告効果を決定する最大の鍵となる。いわば,媒体力の時代からコンテンツ力の時代へと,パワーバランスが変化したのである。


 これからのインターネット広告の主体は,メディアではなくコンテンツである。広告は媒体から切り離され,コンテンツというパーツになって,それ自体が自由に様々なメディア間を流通するものとなっていくであろう。媒体接触者は,そのコンテンツが記事であるか広告であるかを意識することなく,より魅力的なコンテンツを自ら主体的に選択し,接触を深めていくことになる。



目次および出典