人はどうして道を失うことの焦燥と脱出への冀求のみを語ってきたのだろうか、と考え始める。壁から壁へ、敷石の起伏と屈折に身をゆだねながら歩き続けているかぎりほとんど無限に歩くことのできる毛細血管のごとき路地のなかに身を埋めることの快楽。これが迷路の悦びなのだ、と心の片隅で誰かが語る。「狂女」四方田犬彦