著者の島村さんが亡くなったときき、気にはなっていたけれど、読まずにいた『ロマンチック・ウイルス』を読む。

ヨン様からハンカチ王子まで、中高年女性のファンが殺到したアイドルが話題になった2000年代。こうしたアイドルに夢中になることを、「ロマンチック・ウイルス」と名付けて分析した本。

主な論点は
・ 日本やアジアでは、中高年女性の性欲、恋愛欲のようなものが、タブー視されていた。「ヨン様ブーム」は、こうしたタブーを打ち破り、女性たちのロマンチックな感情に形を与えた。
・子育て期など忙しい時期、ロマンチックな感情をタブー視して過ごしてきた女性たちが、時間・金銭的に余裕が出来た時期に、これらのアイドルに夢中になった。彼女たちは、アイドルへの「ミーハー」については、初心者ないしブランクのあいた状態(「処女」)であったため、追っかけなどがエスカレートし、世間の耳目を集めることとなった。
・ 当初は、「いい年した大人」の女が、アイドルを追っかけることを冷淡に扱っていたメディアだが、彼女たちを消費者とする市場の大きさに気づいてからは、これを持ち上げるような扱いになった(おばちゃんから「マダム」へ)
カップルで余暇を楽しむ文化がない日本では、長い老後を夫婦で過ごすという習慣がない。他方、タブー視されていた性欲という意味では、(出会い系にはまったり、本格的な不倫関係に陥ったりするより)、アイドルの追っかけは安全な性欲のはけ口として機能しているのではないか?

といったあたりでしょうか。
多くの事例を含み、軽いタッチで描かれているけれど、なかなか深いと思いました。
かなり家族論に踏み込んでおられたというか。

疑問点としては、
日本だけでなく、シンガポールなどでも似たような現象があり(F4やヨン様で)、これも、アジア的なものと理解されているのかなと。でも、「カップル」文化が規範になっている欧米では、同種のことは起こりえないのだろうか?

アイドルミーハーということで、3次元に限って分析されている(マンガ、アニメ等を対象とする「萌え」は扱わない)とされている。でも後半、性的欲望の解消については、本田透を引用したりして、生身の恋愛とは異なる欲望として一緒に扱っている。そしたら、3次元の人間に対するミーハーと、2次元を分けるものはなんだろう?

というあたりが気になりました。