「博物館」という名の博物館

博物館の誕生―町田久成と東京帝室博物館 (岩波新書)

博物館の誕生―町田久成と東京帝室博物館 (岩波新書)

その昔、「博物館」という名前の博物館があった。現在の東京国立博物館の前身だ。博物館は帝国博物館、東京帝室博物館などと名前を変えながら発展し、現在に至っている。
この本は、町田久成の生涯を辿りながら、日本の近代博物館成立史を叙述したものだ。町田久成は薩摩の上級藩士の家に生まれ、幕末に英国に留学して大英博物館に感動し、帰国後は明治新政府の重要人物の一人となったが失脚し、その後、博物館建設に全精力を注ぎ、とうとう初代博物館長になるが、すぐにその地位を追われ、晩年には出家している。波瀾万丈の人生だ。
伝記としても面白く、博物館建設を巡る謀略めいた駆け引き、そしてあるべき博物館像についての意見の対立など、非常に興味深い話題がふんだんに盛り込まれている。東京教育博物館(現在の国立科学博物館)の扱いがあっさりしていたので、その点は少し物足りなかったが、人物伝を骨格に据えているから仕方がないのだろう。
ところで、この本の最初のページに「特別行政法東京国立博物館」という名称が書かれているが、これはいったいどういうことなのだろうか。現在、東京国立博物館を運営しているのは独立行政法人 国立博物館という団体なのだが……。
それはともかく。
示し合わせたわけではないだろうが、『博物館の誕生』とほぼ同時に『物語 大英博物館―二五〇年の軌跡 (中公新書)』という本も出ている。新書の新刊コーナーに2冊並べられているのをみて、併せて買った人も多いだろう。