ローゼンメイデンO.S.T

音楽は光宗信吉さん。「ナースエンジェルりりかSOS」や「少女革命ウテナ」が有名です(僕の中では)。
光宗さんの音楽は、凛々しいヒロインが戦うシリアスアニメにおいてその真価を発揮するように僕は思います。まばゆい光がまっすぐ照らすように穏やかで純真な旋律や、可憐で気品ある雰囲気が嫌味なくにじみ出る編曲、特に涙腺が緩んでしまうくらいやさしいピアノ曲など、そのいくつかは今でもたまに聴きたくなったりします。「ナースエンジェルりりかSOS」の「雨のあとの虹のように」や「少女革命ウテナ」の「光差す庭」とか。
だから「ローゼンメイデン」の音楽を光宗さんが担当していると知ったとき、僕にとってはまるで当然のことのように感じられたし、事実、作品内容を美しく彩る澄みやかなトラックスが並んでいると思います。とはいえ、光宗さんの音楽といえば「ナースエンジェルりりかSOS」だし、代表作といえば「少女革命ウテナ」だし、残念ながら今回の「ローゼンメイデン」のサントラは、悪く言えば「少女革命ウテナ」音楽の美学(コアの部分)を子ども向けに聴き心地よいものに"翻訳"したような印象を免れえませんでした。
ああ、これはただの仕事なのだな、そういう当たり前の事実にがっかりしてしまう僕がおかしいのでしょうけど。「これまで自分が蓄積してきたもの」の「最新バージョン」とやらに、「このCDを買って良かったな」と心底思える類の目(耳?)を見張るようなオリジナリティが、少なくとも僕には見出せなかったのが残念でなりません。
大体、主人公のジュンが「ひきこもり」であるという設定に対して、せいぜい「親切すぎない音」を「作ろうとしていたのかもしれない」というあたりが、光宗音楽の限界のように思われます。ひきこもりの精神状態をそもそも"メロディ"で表現しようとしている時点で、それは既に「親切すぎる」のであって、たとえば徹底的な不協和音とか、ヒステリックに千切れるような弦、鍵盤を叩きつけるピアノなど、前衛的な音楽、あるいは声楽やアンビエントなどの音楽ジャンルにも大胆に果敢に取り組んで欲しかったものです。
まぁ作品的にそこまで突っ込んだ音楽を望んでいなかったのでしょうけど。
光宗信吉音楽の既出の良さが味わえ、けれどそこはかとなく味気ないサウンドトラックでした。いや、好きなんですけどね。
物質的な重みを踏みあげて、弦楽のしなやかな律動に気品香る戦闘曲「Battle of Rose」、軽快に疾走するバイオリンの旋律、勇気づけるように確かな手ごたえで刻むリズムが心強い、戦闘曲「宿敵」。無機質な短節をひたすら繰り返すハープシコード、濃い不穏と深く沈む悲しみを奏でるチェロとの異様なハーモニーが強く印象に残る、「暗闇より来たるもの」。これで"内省"って曲名つけるその甘っちょろいセンスはどうかと思う、やさしいピアノ曲「内省」、同様一通の気品あるハープシコード曲「臆病」。
しんみりと温かく、おぼろげに貴い、誰でも自分の大切な思い出の前では誠実になれる、そんなピアノ曲「淡い思い出」。淡々と音符をこなすハープシコードの旋律が、哀切そそるバイオリンの調べによって高鳴り、切なくも儚い「薔薇の呪縛」。ローゼンメイデンの温かみはどこかオルゴールのそれと似ている気がします、櫛がシリンダーを弾き、契約者(マスター)の機微が彼女の心を弾く、無垢な愛らしさを奏でる「おもちゃの国」。
バイオリンのむせぶ悲嘆に暮れたメロディがたまらない、重厚な弦楽曲「Bright Red」。そして最終12話「真紅」の終盤を音楽的になぞった「氷解」「小高い丘にて」「Change」。「氷解」はもう光宗さんらしいとしか言いようがない珠玉ピアノ曲、まっさらな心情の鮮やかな陰影にはっとするほど惹かれます。癒されます。「小高い丘にて」もまた光宗さんらしいとしか言いようがない楽曲。感動のエンディングをいっそう清々しく、いっそう幸せに満たしてくれる、あどけなくも真摯なフルート・ピアノ・バイオリンの奏でる旋律はまるで天使の贈り物。
とはいえ、選曲順に並べるくらいならいっそ組曲にでもしやがれですぅ。
……いや、まあなんだ、「どこが味気なかったんだ?」というツッコミは無しの方向でw