「魔法少女まどか☆マギカ」巴マミの死と「噛み付き」が持つショッキング性

 

 
テレビアニメ魔法少女まどか☆マギカの第3話「もう何も恐くない」での巴マミの死について徒然と…いつもの「アレやコレや」な感じ以上に徒然と書いてみたいと思います。
 
 

■「魔法少女まどか☆マギカ」と巴マミの死


 
今更ながら、巴マミというキャラクターの死が、何故あそこまでアニメファンに衝撃を与えたのかを考えてみたいと思うんです。
 
青樹うめ先生のデザインによる可愛らしいキャラクターが無残に殺されるという、ファンシーとブルータルが入り混じったビジュアルのギャップ。家族を失い、孤独と喪失感を胸に秘めたまま戦い続けていた少女が、同じ魔法少女として戦う仲間を見つけた直後に死を迎えるというシナリオ展開の衝撃と悲劇性。
観る者に強烈なショックと猛烈な後味の悪さを感じさせる要素に満ち満ちた巴マミの死は、様々な視点から語ることが可能だと思います(その議論に積極的に参加するかしないかとか、倫理や道徳がどうこうとかいった話は、一先ずこの際置いておいて…)。
 
何より、その人生の最期が「噛み付き」による死というのが強烈です。相手に噛み付く、肉食の野生動物ならまだしも、文明社会にいる人間ならば食べ物を咀嚼するために使うべき歯と顎で相手にダメージを与える噛み付きは、シンプルで原始的な攻撃方法であると共に、"禁じ手""禁忌"としての超攻撃的なオーラをも併せ持っている特異な技。
そんな噛み付きによって、一人の魔法少女の生が唐突に終わりを迎えるというショッキングな展開。
 
余り考えたくないことですが、だからこそ自分は強烈に意識させられるのです。
 
もしも、巴マミの最期が噛み付きによるものでなければ、ここまでのインパクトは出せなかったのではないだろうか? と。
 
その死に際を演出する代替案を考えるなんて不謹慎極まりないので、これまた考えたくもないトピックスではあるんですが、それにしたって「噛み付き」の衝撃性は激烈であります。
 
 

フレッド・ブラッシーと老人の死

まどかマギカ」の第3話で、テレビの中で描かれた「噛み付き」と、その後に訪れる「ショッキングな死」巴マミの散り方からは、日本のテレビにまつわる「ある事件」をも連想することが可能でしょう。
 
日本のプロレス史のスタートライン。日本のプロレス界の父である力道山がブラウン管のテレビの中で、巨大な外国人を次々に空手チョップで打ち破り、ヒーローとして全国に熱狂を巻き起こしていたあの時代に起こったその事件は、半世紀以上の歴史を誇るプロレスの中でも未だに一際強烈でギラギラとした輝きを放っています。
 

 
事件の中心人物は、セントルイス出身のヒールレスラー、フレッド・ブラッシー。その美しい髪の色と相反する噛み付き攻撃を得意技とした凶暴なキャラクターから「銀髪鬼」と呼ばれた、この稀代の名悪役は、プロレスの試合で噛み付きによって相手を大流血させ、そしてその凄惨な光景をテレビ中継で観ていた老人がショック死をするという「事件」を引き起こしています。
力道山グレート東郷(本来は、海外マットを中心に活躍をしていた日系人ギミックのヒールレスラー。何故か、日本では力道山とタッグを組んだりと、ベビーフェイス的な立ち位置にいた)組とタッグと対戦をしたブラッシーは、得意の噛み付き攻撃でグレート東郷の額を割り東郷を血で染め、それをブラウン管の中で観た老人が全国で4人も心臓発作で亡くなった。
 
「プロレスを見て、老人ショック死」
 
リングでのフレッド・ブラッシーの特異なキャラクターと凶暴性を垣間見せるこの強烈なエピソードは、現在と違い、プロレスとシュート(真剣勝負)、ファンタジーとリアルの境界線が、当時の世相と同様に混沌としていた時代だったからこそ起こった事件だと言えます。そもそも、この事件の真実自体が虚実入り混じった内容(死んだとされる老人の数にも諸説があったりする)であり、その事実性自体がファンタジーである可能性すらあるのですが、とにもかくにも「銀髪の狂人に噛み付かれ、大流血する日系人レスラー」という「絵」が当時の日本人に与えた衝撃は計り知れものがあったのだと思うのです。
 
それは「テレビ」という映像メディアが、極めてショッキングなビジュアルによって現実世界に攻め込んできた体験でもあった。
 
そして、そこにあったのは、やはり「噛み付き」です。日系人ヒールレスラーの額を割り、血だるまにし、そしてその姿を観た老人をショック死させた。それは、パンチやキックやスープレックス、あるいは凶器攻撃といった技ではなく、原始的な攻撃方法である噛み付きだったわけです。
 
フレッド・ブラッシーと21世紀に作られた魔法少女アニメを同列に並べるのは乱暴にもほどがありますが、両者に共通する噛み付くという行為が世間に与えた衝撃性と攻撃的なイメージに注目してみてみるのもおもしろいんじゃないかと思うんです。「噛み付き」は私たちにとって、テレビが映し出すショッキングなイメージの原体験ではなかったか、と。
  
ちなみに、フレッド・ブラッシーがプロレスというファンタジーのフィールドの中で起こした流血劇が、現実の世界を侵食してから数十年後。ファンタジーを取り払った、リアルな格闘技「MMA」がその歴史の幕を上げますが、その原点である第1回UFCから、他団体化、競技化が進んだ現代に至るまで、各イベント、リングのルールブックは「噛み付き」を重大な反則行為として禁じています。
 
 

■まとめ

徒然と「噛み付き」という攻撃方法が持つセンセーショナルでスキャンダラスな要素について徒然と。
そりゃ、美少女が化け物に噛み付かれて死んだらショッキングだよな〜という極めてシンプルな結論を改めて思うのですが、それにしたって…ねぇ…。
 
マミさん…。