日本語練習虫

旧はてなダイアリー「日本語練習中」〈http://d.hatena.ne.jp/uakira/〉のデータを引き継ぎ、書き足しています。

魚偏に岩、木偏に豊

エツコ・オバタ・ライマン『日本人が作った漢字』(isbn:9784523261568)がJIS漢字化を提案してゐた国字と見られる漢字のうち、JIS X 0213:2004にないものが、六文字ほどある*1
このうち、「魚偏に岩」と「留」で《魚岩 留》と書く地名が実存した可能性があることは、金井弘夫『日本地名索引』(asin:B000J7YA00)に記述があることと五万分の一地形図『上高地』昭和二十八年版に《魚岩 留》があり昭和三十六年版に《魚岩 留小屋》があることから、確認できた。金井『地名レッドデータブック』(isbn:9784900358348)や最近の地形図によると、当該地名は漢字二文字で「岩魚」と書く「岩魚留小屋」になったようで、「魚偏に岩」がJIS漢字化されなかったことも頷ける*2
香川県にあったといふ、「木偏に豊」と「木」で《木豊 木(はりのき)》と書く地名がどこにあったのか、何の資料に見られるのか、判らない。
ライマンが参照資料として挙げている金井『日本地名索引』と、人文社『日本分県地図地名総覧』(asin:B000J88FH8)(昭和五十五年版、五十六年版、五十九年版)を三回眺めたが、見当たらない。『和製漢字の辞典』によると現在の坂出市府中町にあった地名だといふのだが、『日本分県地図地名総覧』が坂出市府中町の地名として掲げてゐるのは「鎧木」であり、現在の地形図が府中湖の東に掲げてゐるのが「榿」。『日本地名索引』『新日本地名索引』(isbn:4900358312)にはそれらしい記述が見当たらず、『日本歴史地名大系』や『角川日本地名大辞典』でも探せなかった。柏書房の『正式二万分一地形図集成』で綾歌郡府中村を探して出てくるのは『国分』図中の「榿谷(ハリノキタニ)」のみ。《木豊 木(はりのき)》は、どこにあり、何の資料に見えるのだらう。

*1:加藤弘一『ほら貝』には「イワナなど7字がJIS X 0213(JIS拡張漢字)にはいっていなかった。」といふ記述がある http://www.horagai.com/www/book/read/rd2002a.htm#R022 んだども、2面91区69点「𨺉」(U+28E89)の旁が新字風か旧字風かの違ひを「外字」と見た判断のように思はれる。己の判断は、包摂されてて「JIS内字」。この他、「山冠に葵」、「木偏に菊」、「木偏に豊」、「金偏に芴と木」、「魚偏に岩」、「鹿と鳥」はJIS外字といふ認識で一致。

*2:右横書きで「屋小留魚岩」と書かれてゐた看板を読み取って地形図へ縦書きした際にアタマの部分が一文字の「魚偏に岩」へと化けたんぢゃないかといふ疑ひが湧いてきた己なんだども、確認する術が無い。看板が読み取れる状態の、往事の写真など無いものか。ちなみに、国字の「魚偏に岩」は、「U+29E36」といふ「Vソース」の漢字と衝突してゐる模様。