覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『里山資本主義』=藻谷浩介、NHK広島取材班・著」、『毎日新聞』2013年09月01日(日)付。



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今週の本棚:伊東光晴・評 『里山資本主義』=藻谷浩介、NHK広島取材班・著
毎日新聞 2013年09月01日 東京朝刊


 (角川oneテーマ21・820円)

 ◇バイオマス発電にみる林業再生への光

 多くの人に読んでもらいたい本である。ひとつの中心は、第一章と二章。NHK広島放送局のディレクター夜久恭裕氏の筆になるものである。

 日本の製材業は衰退し続けている。輸入材におされ、国産材は振るわず、日本の森は荒れている。こうした中で、岡山県の山あいにある真庭市の従業員200人の製材所にスポットが当てられる。社長の中島(なかしま)浩一郎さんの奮闘である。

 製材にともなう木くずを利用し、バイオマス発電を試みる。融資が受けられずに苦労するが、10億円を投資し、1時間に出力2000キロワットの発電にこぎつける。これで製材所の年間電力1億円分をまかない、余った電力を電力会社に売る。だが1キロワット3円では採算に合わない。しかし、2002年、法律により9円になり、年5000万円のプラスを生む。今まで木くずは産業廃棄物として処理費2億4000万円を払っていた。その削減分がプラスになる。さらに残る木くずを筒状に固めてペレットにし、石油にかわる燃料にする。町の支援もあって、家庭用ストーブ、農業ハウス用ストーブが普及し、ペレット販売がキロ20円ちょっとで軌道にのる。これは石油に対抗できる値段である。役場も小学校も使う。

 夜久ディレクターは、バイオマス燃料の先進国オーストリアにとぶ。中島氏もしばしば訪れた先進バイオマス国である。そこで見たものは、大きな製材会社がつくる生産量年間6万トンのペレット工場で、驚いたのは、ペレット需要者宅に運ぶ大型タンクローリー車である。車からの一本のホースが各家庭の貯蔵庫にペレットを送り、もう一本で燃えかすを吸い上げる。スイッチひとつでペレットに触れることのない、全自動ボイラーが整備されている。

 注目しなければならないのは、経済面で石油に対抗できることである。同じ熱量当たりにして灯油の2分の1の値段であり、これがバイオマスボイラー等の設備費の高さを補っている。この経済性がオーストリアのエネルギー生産量の28・5%を再生可能エネルギーにし、その比率を高めている。

 また、バイオマスの国オーストリアは、1978年に国民投票原発の稼働を拒否し、99年憲法原子力利用の禁止を明記したという。

 本書を読むとドイツとの違いに気づく。ドイツは経済性のない太陽光発電を高価で買い取り、そのつけを庶民にまわしている。これらにならったスペインでは行きづまり、買取制度を廃止した。日本は、この悪(あ)しき例に学び、より高い価格で買い取り、そのつけを消費者にまわしている。バイオマス発電もキロワット当たり9円でなりたつものを20円をこえる買取価格にした。バイオマス発電に成功した真庭市などは、23億円の融資を受け、出力1万キロワットの発電所の建設に入り、中島氏は高知県限界集落といわれる大豊町に請われて、従業員55人の製材所とバイオマス発電所の建設にむかっている。このような試みの中に、日本の林業の再生の光が見出(みいだ)せるのかもしれない。

 つづく章では、瀬戸内海の周防大島に都会から入った人たちの創意工夫の地域おこしと、広島県庄原市社会福祉法人が、逆転の発想で、デイサービス、保育園、レストラン等を地元の人たちの協力によって複合経営し、生きがいまでつくりだしていく姿が紹介されている。安心のネットワークとお金が地域内を循環する「さとやま」である。これが未来をつくるサブシステムであることを藻谷浩介氏が解説している。
    −−「今週の本棚:伊東光晴・評 『里山資本主義』=藻谷浩介、NHK広島取材班・著」、『毎日新聞』2013年09月01日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130901ddm015070002000c.html


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