覚え書:「メディア時評 異常、異例の秘密保護法案強行採決=野里洋」、『毎日新聞』2013年12月07日(土)付。

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メディア時評
異常、異例の秘密保護法案強行採決
野里洋 元琉球新報論説委員長、北陸大学客員教授

 前回(11月9日)も書いたが、今回も同じことを書かねばならない。知る権利、報道の自由、民主主義の今回に関わる大問題だからだ。「特定秘密保護法」である。多くの国民が反対している中、安倍内閣は数の力を頼りに強行した。
 法案が衆院を通過した直後(27日)に各紙が社説で「民主主義の土台壊すな」(毎日)、「民意おそれぬ力の採決」(朝日)、「国民軽視の強行突破だ」(東京)、「採決強硬は許されない」(日経)、「数の暴挙は許されない」(沖縄タイムズ)、「世紀の悪法を許すな」(琉球新報)などと取り上げた。「指定絞り『原則公開』確実に」(読売)、「成立に向けた大きな前進だ」(産経)などもあったが、これは少数だった。
 衆院通過直後の社説を調査したところ、地方紙三十数紙のうち、1紙を除いて全部が反対、慎重審議要求だった。民放連、日本雑誌協会日本ペンクラブ日弁連など数多くの団体、市民が反対、慎重審議、徹底討論要求を表明した。
 こうした中で、特定秘密保護法案の成立強行に向かったことは異常、異例だ。特定秘密保護法案に関連して官僚が明言している。「外務省は何でもかんでも『秘密』指定する傾向があり、自分も回ってくる書類の9割に『秘密』とはんこを押してしまう」(共同配信、16日)。毎日にも似た記事が載る。「法案に『知る権利や報道に配慮する』との条文がありますね。これで喜んでいるメディアがあるなら、相当おめでたいなあ」「『配慮』『尊重』『勘案』は独特の官僚語」「『配慮するつもりはない』と言っているのとほとんど同義ですね」(19日夕刊)。政府(官僚)には国民に情報を知らせようと言う姿勢はない。参院審議の中で、森雅子同法案担当相は「公務員と報道関係者の接触に規範新設」と答えたが、法律によって国民の知る権利が侵害され、官僚も監視され、報道取材も自由にできなくなるということだ。森氏の発言はその後、二転三転する。
 自民党の石破幹事長がブログで秘密保護法案反対でもに「絶叫戦術はテロ行為と本質においてあまり変わらない」と批判した。「衣の下のよろい」だ。毎日は12月2日、この問題を取り上げ、「石破氏『絶叫デモ』再び批判、ブログの『テロ』は撤回」と書く。
 国家安全保障会議設置法とともに日本は重大な地点を曲がったのだろう。メディアの正念場はこれからも続く。踏ん張らねばならぬ。(西部本社発行紙面を基に論評)
    −−「メディア時評 異常、異例の秘密保護法案強行採決=野里洋」、『毎日新聞』2013年12月07日(土)付。

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