覚え書:「絶望の裁判所 [著]瀬木比呂志 [文]斎藤環(精神科医)」、『朝日新聞』2014年05月11日(日)付。

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絶望の裁判所 [著]瀬木比呂志
[文]斎藤環(精神科医) [掲載]2014年05月11日
■「収容所群島」の住人たち
本書がありがちな内部告発本と異なるのは、昨今の司法界を巡って人々が漠然と感じていた違和感に、「複雑明快」とでも言うべき答えを示した点だ。ハードな内容ながら広く読まれているのもうなずける。
近年、袴田事件のような冤罪(えんざい)や有罪率の異常な高さなど、刑事司法の理不尽さが目に余る。取り調べの透明性が確保されないまま自白が偏重される日本の刑事司法は、国連でも「中世」レベルと批判された。なぜ中世のままなのか、本書を読めばその理由が“絶望的”なまで良くわかる。
最高裁での勤務経験もある元エリート裁判官の著者は、現在の大学教員という外部の視点から司法界の内情に鋭く切り込む。
そこには構造的な問題がある。とりわけ重要なのは、事務総局中心体制というヒエラルキーと、日本型キャリアシステムだ。私の見るところ、これは典型的な「タテ社会(中根千枝)」の病理に近い。
排他的で閉じた中間集団(司法界)がある。内部には細分化された序列構造があり、根拠が曖昧(あいまい)なまま出世や人事が決まる(著者いわく「ラットレース」)。人々は強い閉塞(へいそく)感を感じながらも、誰もラットレースから降りられない。日本の裁判官はこうした「収容所群島」の住人だ、と著者は喝破する。
病理に対する処方箋(せん)として、著者は英米流の「法曹一元制」を主張する。弁護士経験者から裁判官・検察官を任用する制度のことだ。資質のある医師が厚労省のキャリア官僚になるような話で、説得力がある。
本書に対する法曹界の反応に注目したい。冷笑と無視だけなら、この業界は確かに終わっている。活発な議論の端緒とすることで、ぜひ「司法界はじまったな」と言わせて欲しい。
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講談社現代新書・821円=6刷6万5千部
−−「絶望の裁判所 [著]瀬木比呂志 [文]斎藤環(精神科医)」、『朝日新聞』2014年05月11日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2014051100002.html
