覚え書:「書評:「子どもの自殺」の社会学 伊藤 茂樹 著」、『東京新聞』2014年10月12日(日)付。


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「子どもの自殺」の社会学 伊藤 茂樹 著

2014年10月12日

◆防止に繋がる語り方
[評者]宮淑子=ジャーナリスト
 子どもの自殺のなかで、<いじめ自殺>ほど熱心で過剰な語りを導き出すものはない。語る者は、か弱い無垢(むく)な子どもが理不尽ないじめに耐えきれず、自ら命を絶ったという「ストーリー」に過剰に反応し、加害行為を行った者を執拗(しつよう)に非難する。だが、いじめ問題やそれが引き起こす自殺を、社会学的なアプローチで読み解く本書は、その支配的な物語化、消費されやすい言説こそ、社会にはびこるロジックではないかと批判する。
 著者は、いじめ自殺は語る者が被害者に共感することで、「イノセント」で「フェア」な自分を提示・確認し、語る者のアイデンティティーやカタルシスをもたらすものだと言う。だがそれはいじめやいじめ自殺の解決や解消とは逆の方向へ向かいがちで、問題を温存させるだけだから、語り方を変えようと提唱する。
 「加害者から語る」(加害者側から語る試みの不足)、「物象化して語る」(ドラマ化せず淡々と語る)、「学校観を変えて語る」(いじめは教育を受ける権利の侵害と捉える)、「語られなかった側面を語る」(性的な事柄を語る)など、問題のさまざまな側面に光を当てる多様な語りの提唱は、いままでの教育論にはあまりなかった視座であり、新鮮に思えた。いじめの現場と社会をどう繋(つな)げ、問題のせき止め方をどう共有するかについて、骨太で学究的な本を読んだ。
 (青土社・2160円)
 いとう・しげき 1963年生まれ。駒沢大教授。共編著『現代日本の少年院教育』。
◆もう1冊 
 日外アソシエーツ編『いじめ・自殺問題』(日外アソシエーツ)。いじめ・不登校・自殺などの関連記事や図書を紹介。
    −−「書評:「子どもの自殺」の社会学 伊藤 茂樹 著」、『東京新聞』2014年10月12日(日)付。

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