コンビニ実験君

僕の勤め先の周りはコンビニ天国というか、ともかくコンビニがたくさんある。サンクスとローソンが隣り合って、その向かいにファミリーマートといった感じだ。
そんな中、路地裏という立地からか、明らかに客が入ってない某大手コンビニがあり、僕は敢えてそこを利用するようにしている。
さすが閑古鳥店だけあって、その活気の無さは特筆すべきものがある。いたずらで「たけのこの里」をひっくり返しておいたら、5日間ひっくり返ったままだった。どんくさい亀か。
結局5日後に僕が買ってしまい、なんだか不毛ないたずらに。
コンビニ、特に大手ともなると明確なマニュアルやら高度なPOSシステムやら、とにかく売るノウハウに関しては人類史上でも最強の部類だと思うのだが、なんだろう、このへっぽこな店舗は。実験か。どうしたら売れないかの実験か。それもまた人生か。いいのか店長。言いたい事があれば聞こうではないか。え?何?あ、はい、温めて下さい。
一般的なコンビニは常時10000点の商品が陳列されていると言われる。その50%が3ヶ月以内に入れ替わるそうだ。
その根拠となっているのがPOSシステムであり、またそれに従った陳列ルールが存在する。いわゆるセブンイレブン方式というやつだ。
例えばセブンイレブンでは、一番の売れ筋商品を棚の一番左120cmの高さに陳列する。その右に二番目、三番目と続くわけだ。これらの売れ筋がPOSシステムによって管理され、本部で集計された後、各店舗に陳列の修正指示がとぶ。そうやって新陳代謝を繰り返し、常に棚の新鮮さを保っているというわけだ。
僕が通っているコンビニのお菓子棚を見てみると、一番売れ筋であるべき特等席には「クランキーホワイトチョコ」。もう、2年くらい一貫してクランキー。それもホワイト。そこまでくると、王者の風格すら漂っている。
対して、末席に申し訳なさそうに陳列されているのがエブリバーガーというハンバーガーを模したチョコ菓子である。これは結構古株で、僕が幼稚園の頃からあるから、かれこれ20年来のキャリアだ。
一見して、どこか昭和を感じさせるイラスト。猫背にすら見えるたたずまい。蘇る僕の幼年期。突き抜ける青空、あの坂を越えれば海が見える。
20年間さほど陽の目を見ず、おそらくこのままひっそりと消えていくであろうエブリバーガー。その甘酸っぱい魅力に取り憑かれ、その実ただ甘いだけのエブリバーガーを、ついつい買ってしまう日々が続いた。
するとどうだろう。
一週間が過ぎた頃、エブリバーガーが最下段から、一段上がったのである。末席で所在なさげだったエブリバーガーが、ちょっとしたステップアップを果たしている。
向かいに座っている鈴本さんに「エブリバーガーは相当うまい!」と力説したら、鈴本さんはバカだから「買いに行きましょう」と乗ってきて、二人で行った。次の日も、鈴本さんと行って二個お買いあげ。さらに小山さんと稲本さんを巻き込んで、その日四個をお買いあげ。
まさに降って湧いたエブリバーガーブーム。まさにバブル。
するとどうだろう。
二週間目には、いきなり王者クランキーホワイトの真横に。最上段への一気呵成のステップアップ。
調子づいた僕たちは、エブリバーガー一日10個乱れ買いという酔狂を繰り返し、3週目、ついにクランキーホワイトを追い落としてトップの座に躍り出る。お菓子棚高さ120cm、一番左の奪取に成功。
まさに恐るべしはPOSシステム。飛び出す僕らのガッツポーズ。やったな、エブリバーガー!お気に入りのホストをナンバーワンにする快感を味わった思いだ。
ということで、やり方によっては、商品の陳列をかなり意図的に操作出来るという事実を発見。実験は成功。
次はポッキーイチゴ味で行ってみようと考えているが、その前に机に積まれたエブリバーガーの山を何とかせねばならない。
またもや不毛ないたずらだった気がして、多少の後悔がある。