エデンの東(上)

エデンの東(上)

 
エデンの東(下)

エデンの東(下)

そろそろ返さなければいけないので、この辺でひと区切りとすることに。これは買いです。値段を見ると躊躇してしまうところが情けないんだけどさ。
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書店のほうには書かなかったけれど、「人間は選択することができ、自由である」という一貫したテーマがある。それがたとえ善であれ悪であれ。文中に、読み継がれる物語の条件について召使のリーの言葉があったけど、スタインベックは自分の作品がこうして読み継がれるようになることを予測していたんだろうか。

人間は自分のことにしか関心がありません。自分についての物語でなければ聞く人はいません。そこで、こういう法則を作ってみました。偉大で生き長らえる物語は、あらゆる人間の物語である。さもなくば忘れられる。いかがでしょう。かかわりのない遠くの話はおもしろくない。身近で見慣れた話だけがおもしろい。

確かに善と悪は人間にとって普遍の問題でありましょう。
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映画を見たのはずいぶん前で、確か名画座で立ち見だったと思う。一緒に見に行ったのは誰だったかな。
映画の中で記憶にあるのは、レタスが腐ってしまうシーンと、アロンが母親に再会しショックを受けて軍隊に志願するシーン。20年以上前の記憶なので定かではないのだけれど、これらは厳密に言えば原作にない場面になる。原作では、「推して知るべし」的な表現に留まっている。それでも充分にグググっと思い浮かべることができるほどの文章なんだからすごいんだ。余計なものは一切なく、大事なところは必要以上に。親切設計。
土屋さんの訳のおかげか、とても読みやすい。登場人物は多いけれど、メモを取らなければ誰が誰だかわからなくなるようなこともなかったし、とても覚えられない長い名前もないし、「翻訳物はちょっと」という方でも安心と言えるでしょう。
とにかく、これは手元に残しておきたい本となりました。いずれ手に入れましょうか。

書店のレヴュー

(上巻)
土屋政雄氏の新訳によるノーベル賞作家ジョン・スタインベックの名作。ジェームス・ディーン主演の映画は、下巻の後半部分に過ぎず、物語は彼の演じたキャルから二世代遡った世代から始まる。旧約聖書の原罪とカインとアベルの話をベースに、人の中にある善と悪の争いと、繰り返される父子の葛藤描く大作。土屋氏の新訳は流れるような美しさがあり、翻訳本にありがちな意味不明に思える表現はなく、どのページを開いても鮮やかに心に染み入るわかりやすさがある。聖書の物語は本文中で語られ解説されるので、知らない人でも大丈夫。◆アダムは妻キャシーの中に潜む邪悪に気づかない。そして妻と生まれてくる子のためにエデンの園の建設を目指すが、本性を現したキャシーに全てを打ち砕かれ絶望の中に沈んでいく。05/10/02 ★★★★★
(下巻)
10年経ってなお失意の中にいるアダム。キャシーが残していった双子が視界に入ることはない。母の愛を知らず、又父にも心に留めてもらうことができなかった双子のアロンとキャル。キャルは自分の中の悪に気づき、常に罪悪感に苛まれ、父に愛される子になるべく画策する。一方アロンは美しい子で、誰からも愛されるがゆえに愛される喜びを知らない。純粋無垢で現実を直視することができずに破滅していく。◆父母の代わりに双子を育てた召し使いの中国人リーは、東洋人的視点で聖書を解釈し、苦悩する人々に救いの手を差し伸べていく賢者でもある。リーの発する言葉はこの物語の主題を客観的にとらえるもの。彼の存在がこの重苦しい物語の中の光明である。『子供にとって最大の恐怖は、愛されないことでしょう。拒絶されることこそ、子供の恐れる地獄です。・・・拒絶は怒りを呼び、怒りは拒絶への報復としての犯罪を呼び、犯罪は罪悪感を生じさせます』05/10/02 ★★★★★