ベートーヴェンの散歩道・2

 ベートーヴェンの晩年の弟子で身の回り世話人ともいうべきシンドラーの「ベートーヴェン伝」の中の記述からうかがうと、1823年の4月半ば、ベートーヴェンシンドラーはウィーン郊外のハイリンゲンシュタットからグリンツイングへ向かう谷間の道を散歩していた。谷間は良く草や灌木が生い茂り、流れ落ちる小川のせせらぎの音が心地良かった。

 ベートーヴェンは、たびたび歩を休めまわりの景色にうっとりと見入っていた。楡(にれ)の木の根元で休み、幹に
背をもたせかけて、シンドラーに、「ここで、<小川のほとり>(注:交響曲第6番ヘ長調・田園の第2楽章のこと)を作曲したんだよ。ウズラやナイチンゲールカッコウなどがさかんに鳴いていたんで、それを曲の中に取りいれたんだよ。今も鳴いていないかい?」

 シンドラーは耳は澄ましたが、森はし〜んしていて何も聞こえなかった。交響曲第6番・田園の第2楽章のコーダのところで、いろいろな鳥の鳴き声が描かれているのは有名な話という。

 当時、ウィーンの郊外にあったハイリンゲンシュタット村の一帯は、現在は第19区としてウィーン市内に編入され、昔日の面影は全くといっていいほどなく、今は高級住宅地になっているが、ベートーヴェンが毎日散歩した、小川に沿った道は、”ベートーヴェン・ガング”(ベートーヴェンの小道)として保存されいる。小川の両岸がコンクリートで舗装されているので、殺風景な感じもあるが、今も変わらないのは、小川に沿って植えられたマロニエの並木と梢でさえずる鳥たちという。写真は、”ベートヴェン・ガング”で画像検索したものの一つ。