木がらしや 目刺に残る 海の色  

  木枯らしの句をもうひとつ。上のタイトルの句は、歳時記の例句に載っていた作家の芥川龍之介の作品であるが、これにはいさささか衝撃も受けた。この不思議な感覚・世界を短い五七五の中で表現するとは、さすが文豪・天才である。

 加藤楸邨氏の解説によれば、−−「木がらしや」と冒頭に置く発想は、まずはこの句の世界を木がらし一色に染め上げてしまっている。その中でとらえた目刺のいささかの青いかがやきが、いっさいの物を覆いつくした木がらしのかれがれとした中の一点として美しい光を放っているのである、という。また、目刺の上の残っている青さから、作者はこの目刺の生きて泳いでいた海の青さを遠く思いやっている、のだとも。−−

 なお、目刺そのものは春の季語。いわゆる季重なりなのだが。この句に触発されたアンクルの一句。「目刺し食う 独り酒の夜 は龍之介」