漫画ローレンスの匂いを求めて


○2011.04 手賀沼(千葉県柏市


「沼」というものを見たことのない私は、淫靡な匂いをそれに期待していた。なにしろ沼である。「ぬまっ」であるのだから。

いわゆる「男好きのする顔」、そういう女が好きであるのだが、それに気付いたのは伊丹十三タンポポ」の黒田福美によってである。役所広司の情婦役の女である。中学の頃、歳の離れた姉にこういう顔を「男好きのする顔」というのだと教えられて以来、私の女性の好みは「男好きのする顔の女」である。

漫画ローレンス。この雑誌の表1はいつも「男好きのする顔」である。裏切ることなく「男好きの顔」である。現代日本において、この言葉を表象している点で、現代アートといえる。そうだ、沼はきっとこの雑誌の表1と同じ匂いがするに違いない。私はそんなふうなことを想いながら常磐線で千葉県北部へ向かった。

手賀沼。漫画ローレンスの匂いを求めてJR我孫子駅を降りる。 …森に入り、しばらく歩くと足場が悪くなる。そうして抜けた先に「沼」が現れる。なんだかよくわからない種類の小動物の死骸が水辺に浮かび、みかんの皮を灰皿代わりにしている老人がトランジスタラジオで競馬中継を聴いている。…そんな場所を期待していたのだが。

実際はなんと言うことはない。幹線道路沿いにそれはあり、石神井池よりも ずっと健康的な湖である。おまけに家族的ですらあるではないか!