福島原発事故賠償の不条理

東京電力ホールディングスのHP上で毎月「賠償金のお支払い状況」がアップデートされていることをご存知でしょうか。ここから、2018/2末までに累計約8兆円の賠償金が支払われていることが分かります。あと4日であの東日本大震災から7年が経ちます。東日本大震災という天災地変の人災という側面を浮き彫りにしたのが福島第一原発事故でした。原子力行政の驕りが被災者だけではなく膨大な被害者を生み、新たな社会問題を引き起こしていることを忘れてはなりません。

3/7付け朝日新聞朝刊の<原発賠償の不条理>と題する記事が、この3月に打ち切られることになる避難者への「精神的苦痛」に対する賠償金について触れています。ひとり当たり一律月10万円の賠償金打ち切りは、精神的苦痛に対する金銭的償いが終わることを意味します。多くの避難民の胸中は複雑に違いありません。未だ帰宅を許されない故郷は壊されたままなのですから。精神的ストレスが癒えることがない以上、賠償金の支払いを継続すべきとの主張がなされるのも道理です。

記事のなかでインタビューを受けたのは被害者のひとり北村さん、元日本原子力発電の理事で加害者である原子力業界に身を置いた経歴を持ちます。無念と深い反省に苛まれてきたといいます。その北村さんが指摘する金銭賠償がもたらした二次災厄とでもいうべき負の側面に唖然とさせられました。

2011年3月以降、賠償金を誰が負担するのかについては散々議論されてきましたが、テレビや新聞は賠償金を受け取る被害者側の問題には固く口を閉ざしてきました。被害者ひとりひとりに支払われる決して少なくない賠償金が、予期せぬ社会問題を引き起こしていることに記事は言及しています。賠償金格差の問題だけではなく、新生活へと舵切りさせるモチベーションを賠償金が奪っている点は看過できません。世帯主の口座に賠償金がまとめて支払われるため、夫婦間や親子間で諍いが生じるケースもあるようです。避難生活に終止符を打つと、賠償金の支払いがストップされるのでいつまでも避難生活を継続したり、賠償金を遊興に費消する強者もいたりして、被害者の生活ぶりも様々です。初めは団結していた被害者の間で無数の分断が生じたのです。避難者への偏見や誤解がこうした分断を助長しているという側面も見逃せません。

生活インフラを支える東電を潰すわけにはいかず、東電管内の電力消費者と復興税の国民負担で賄われる賠償金の行方に思いを巡らしてみると、原発事故がもたらした不条理と不幸に慄然とさせられます。除染問題や廃炉という困難な課題に対して、確たるロードマップはおろか解決の糸口すら見いだせない以上、これまで政府・電力会社は一体となって推進してきた原子力発電からは期限を決めて撤退するしか道はないと痛感します。