内田樹著「下流志向」をめぐる考察(5) プロセスを学ばない子どもたち
さて、内田樹先生の「下流志向」を読んで、感想を書いてきましたが、今日で終わろうと思います。
この本を買って最初に「文庫版のためのあとがき」を開いたんですね。そしたら、一行目に
>>「下流志向」文庫版お買い上げありがとうございます。<<
って書いてありました。
見た瞬間、内田先生のファンになりました。
内田先生って商売人だな〜と思って。
下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)
- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/07/15
- メディア: 文庫
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今日は最後ですので、子どもたちの学力低下で一番気になっていることを書いてみたいと思います。
子どもたちの学びに対する姿勢だとか、子どもたちが求めている知識と学校で教える知識の乖離だとか、話を大きくしていけばいくほど深刻になっていく問題ではありますが、ここでは、学校で習う勉強ということに範囲を狭く絞ってみます。
そうしてみると、ここ10年くらいで着実に子どもたちの論理的思考力が落ちていること、自分から調べる力がなくなっていること、そして、漢字を繰り返し書くといったような単純な作業に対する忍耐力が落ちたことがわかります。
原因は、ゆとり教育でしょう。
ゆとり教育で大きかったのは
- 授業時間が減って、教える→演習する、という繰り返しに充てる時間がなくなった。
- 宿題を出さなくなったので、漢字練習など単純な作業を小学校から繰り返しやって来なかった。
- 生徒みずからノートを作ることがなくなり、すべてワークブックやプリントの穴埋めになった。
の3点だと思います。
まず、授業時間中に繰り返し練習する時間が減りました。
ですので、生徒たちは、授業中に先生の話を聞いてわかったつもりになり、それで満足するようになっています。この点で生徒たちを責めることはできません。繰り返し解くという経験をさせてもらえなかったのだから。
次に、宿題がなくなったために、家庭学習の習慣がつきませんでした。
たとえ5分で終わる漢字練習でもあれば、家に帰ってからランドセルを開けて「今日やったことは何かな〜」と振り返ることができたのですが、最初から何もないと、まったくそれをやらなくなり、「学校のことは全部学校で終わり」というのが子どもたちの常識になってしまいました。今年からゆとり教育はなくなったといって宿題を出してますけど、小学校からゆとりで育った生徒たちにいきなり勤勉になれといっても無理。宿題の習慣は小学校でつけないとだめですね。
そして、ノートを作ることがなくなりました。
今はどの学校でも、教科書に準拠したワークブックをやらせるようになりました。
先生が独自にプリント教材を作る場合もありますが、どちらにしても、「穴埋め形式」で、英語ならば、あいたところに単語の意味を入れていけば、本文訳が完成するように作られています。
これって、生徒のためというよりは、先生の負担軽減のために作られたシステムだと思うんです。
ワークブックにそって授業を進めていけば、面倒な板書もしなくてよいし、ノート提出させて、生徒が独自に書いたきたないノートを解読する手間も省けます。
何よりも、ワークブックには解答がついているので、極端な話、先生は別に教えなくたってよい。
実際、ワークブックを宿題にして、答えもいっしょにあらかじめ渡している先生もいっぱいいます。
答えを最初から渡してしまうと、生徒は迷ったり悩んだりすることがなくなります。
わからなければすぐに答えを見てしまう。
そして、「わからない問題でつまづいたときに、じっくり考えるのは時間のムダ」と考えるようになります。実際、そういう考え方を教えるのは母親のほうだったりします。
「いつまで同じ問題考えているの。さっさと答え合わせして、正解を覚えなさい。」なんて、賢いお母さんほど言いますから。
進学校なら、ワークブックの問題が難しくて、中堅校なら単語の意味調べから書き込むようになっている、くらいの違いです。
学校の先生はワークブックにそって年間の授業計画をたてるので、授業は
ワークブックの予習→授業で答え合わせ→ワークブックで復習→答え合わせ
の繰り返しですから、想定外の事態で授業がなくなったりするととたんに余裕がなくなります。
今年のようにインフルエンザで休校になったりすると予定がおせおせになりますから、その間の授業分は解答を配って終わりになります。
つまり、学校の授業が年間計画表どおりにすすめていくこと事態が目的になってるんですね。
生徒ひとりひとりの理解度をみながら授業をすすめるっていうかたちになっていません。
だから、意欲のある子はみんな塾に行くんです。
塾なら解き方からくわしく教えてくれますから。
昔は塾のほうが演習中心で学校のほうが説明はていねいだったけど、今は、小学校は学校のほうがていねいですが、中学・高校はむしろ塾のほうがていねいです。
学校は、宿題を出してそれを提出させる管理と、週に一回の確認テストで理解度のチェックをすることに追われていて、生徒が授業がつまらない、苦痛だといって、やる気をなくすのも無理はないと思います。
先生は管理するのみ、じゃやっぱりダメなんです。
生徒にも先生の意欲は伝わりますから、毎回の授業が生徒のためを考えて工夫されたものじゃないと、ついてこないんですね。
ワークブックはとてもよくできていて、英語なら辞書を一切ひかなくても勉強できるようになっています。だから、生徒は「辞書をひく時間がもったいない」って言います。「そんな時間があったらほかのことをするから、さっさと答え教えてくれ」って、よくできる子でも堂々と言いますから。
子どもたちにとって、
勉強=ワークブックやプリントをこなすこと
なんですね。ですから、高校卒業するまで、勉強のプロセスっていうのを学ばないんです。
プロセスがなくって結果だけ覚えているから、忘れるのも簡単です。そしていったん忘れると思い出しようがない。いろいろ試行錯誤して出した結果なら何かきっかけがあれば思い出すけど、最終結果しか知らないから思い出すすべがありません。
学力低下は社会構造の変化とかいろいろ複雑な原因があるとしても、生徒の勉強のプロセスを大事にする授業に変えれば、解決する問題も多いはずです。
大人の責任は大きいと思います。