殺処分の牛に症状が見られた(疑患畜)事について

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100714-OYT1T01291.htm

 宮崎県の口蹄疫(こうていえき)問題で、県の家畜保健衛生所の職員らが先月、同県新富町の農家で口蹄疫が疑われる症状の牛1頭を発見しながら、検査や国への通報をしないまま殺処分していたことが14日、わかった。
 県は「口蹄疫ではないと判断した」としているが、農林水産省が殺処分に関与した獣医師らから事情を聞いたところ、「明らかに口蹄疫の症状で、検査を求めたが県側に拒否された」と証言。家畜伝染病予防法は疑似患畜を発見した場合、国への通報を義務づけており、同省は同法違反の疑いもあるとみて近く、県に事情を聞く方針。
 口蹄疫のような症状が出ていた牛が見つかったのは先月25日。この時点で同町では同12日を最後に感染が確認されておらず、県全体でも同19日以降発生がなかったため、県は7月1日に「非常事態宣言」を一部解除した。農水省では「解除を遅らせたくないための“感染隠し”と受け止められかねない。検査すべきだった」としている。
 農水省によるとこの牛が見つかった場所は、感染が集中した移動制限区域内にある同町内で、約500頭を飼育する畜産農家。5月24日にワクチン接種を終えていた。
 6月25日には県家畜保健衛生所の家畜防疫員と獣医師ら計約40人が殺処分を進めていたところ、1頭に口蹄疫のような症状が見つかった。
 この症状を確認した獣医師らはその場で、「口蹄疫の典型的な症状」として、口内の写真撮影と血液の採取を求めたが、現場責任者で獣医師の資格を持つ県の家畜防疫員が「必要ない」として、その日のうちに殺処分と埋却を終えたという。
 読売新聞の取材に対し、県畜産課の児玉州男(くにお)課長は、現場で異議が出たことは認めたが、「軽微な症状だったので、口蹄疫ではないと判断した。殺処分と埋却の権限は県の防疫員にあり、対応に問題はない」としている。
 しかし、農水省が現場に居合わせた獣医師ら3人に聞き取り調査を行ったところ、「牛の舌には水疱(すいほう)ができ、鼻や歯茎などにただれと潰瘍(かいよう)が複数あった」「典型的な口蹄疫の症状で、獣医師らで家畜防疫員に検査するよう何度も迫ったが、聞き入れられなかった」などと話したという。
 家畜伝染病予防法は、疑似患畜を発見した場合、獣医師や農家に対し、速やかに県を通じて国に報告することを義務づけている。
 同省は「軽微な症状でも、まず検査するのが防疫の鉄則。仮に感染していた場合、人や車を介してウイルスが拡散した危険性もあった」として県から事情を聞く方針。
(2010年7月15日03時03分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100714-OYT1T01291.htm

問答無用で県の対応が間違いです。
 
殺処分は殺処分として続けておいて、検体を検査にまわすことは絶対に『やらなくてはならない(MUST)』仕事です。
何故、そうしなければならないのか?
それは、口蹄疫の感染区域を正確に把握する『必要』があるためです。
 
患畜がどこまで広がっているかでもって、移動制限区域などが決まり、この移動制限でもってウイルスの封じ込めを行っています(実際には区域内での消毒で、など)。
そういった感染拡大を『防ぐ』目的の行動として、『疑わしい』場合には全て検体を取り、検査にまわす『慎重さ』が必要です。
これから殺処分を行うからとか、症状が軽微だから(軽微でも出ていれば感染でしょうに)、は検査を行わない理由になりません。全くなりません。
 
この件は明らかに県職員の落ち度です。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100518-296281/news/20100715-OYT1T00145.htm
http://www.asahi.com/national/update/0715/TKY201007150209.html

 県によると、6月25日の殺処分中に、獣医師が上あごに赤い発疹がある牛を発見した。現場には10人の獣医師がおり、一部から、検査を求める声も上がったため、現場責任者を務める県家畜保健衛生所の家畜防疫員が確認したが、口蹄疫の特徴的な症状ではなかったこと、前日の健康検査で異常が見つからなかったこと、他の牛に異常が見つからなかったことから、県の現地対策本部と協議した上で、予定通り殺処分を行ったと説明している。
 同県畜産課は「疑われる症状が見つかった場合の通常の確認作業をし、口蹄疫ではないと判断した。農水省の担当課にもその後、対応を説明し『問題がない』と回答を受けた」とした。そのうえで「対応は適正で、今後、改めて調査する考えはない」とした。

http://www.asahi.com/national/update/0715/TKY201007150209.html

やはり適切な対応とは思えません。獣医師の判断を考えれば、「軽微」や「特徴症状ではない」を理由に検査しなかったのは、落ち度だと考えます。

種牛を生かすか殺すか

語りたいメイン。

http://alfalfalfa.com/archives/409670.html
http://www.asahi.com/national/update/0715/TKY201007140595.html

 家畜伝染病、口蹄疫(こうていえき)のため28万頭以上の家畜を殺処分した宮崎県で、家畜の移動制限解除を目前に、民間の種牛をめぐって県と農林水産省との対立が深まっている。感染多発地域で、畜産農家がワクチン接種と殺処分を拒み、6頭の種牛だけが生き残っていることについて宮崎県は、農家の要請で延命方針に転換した。しかし農水省は例外を認めず殺処分を求め、県に対し地方自治法にもとづく初の是正指示を出す方針を示した。
 是正指示を出しても宮崎県が殺処分に応じない場合、農水省は代執行として殺処分に踏み切るとも明らかにしている。山田農水相は13日、「今日中には文書で指示する」と述べ、指示をできるだけ早く出す意向だった。
 だが、14日になっても指示は出なかった。記者会見で、担当者は「複数の省庁がかかわる初めての作業で、調整に時間がかかる」と説明したが、幹部の1人は「もう少し相手の出方を見た方がいいという声がある」とも明かす。
 農水省が殺処分にこだわる理由は「将来似た流行が起きた場合、ワクチンによる防疫が成り立たなくなる」からだ。ワクチンは地域全体で接種して意味を持つ。山田農水相は「特例を認めると『うちの家畜は健康だから』『家族同然だから』と打たない人が出る」と話す。「まだ一帯の家畜の糞尿(ふんにょう)の処理が終わっておらず、ウイルスが飛び出す恐れがある」とも主張する。
 一方、東国原知事は「今後ワクチンを打つような状況を作ってはだめ」と反論する。延命を求めるのは、県管理の種牛が5頭しか残っていないためだ。知事は「貴重な遺伝子資源を守りたい。6頭の周りに家畜はいないから、蔓延(まんえん)の可能性はゼロ」ともいう。
 両者の対立で、宮崎県東部で予定されていた16日午前0時の家畜の移動制限解除の見通しも不透明になった。
 移動制限は、新たな発生が3週間なく、家畜に感染のおそれがない場合に解除できる。県は種牛6頭に異常がなければ解除する方針だが、農水省は「感染の危険が残り、解除は認められない」との立場だ。県が国に従わず解除に踏み切る場合、国は家畜伝染病予防法にもとづき、解除しないよう指示する方針だ。
 解除されないと、農家が畜産を再開する時期が遅れる。日本は口蹄疫の「汚染国」と認定され、肉などの輸出の大半が止まっている。再開には国際獣疫事務局(OIE)に「口蹄疫発生の恐れがない『清浄国』に戻った」と認定される必要がある。
 農水省は「ワクチン接種対象地域の真ん中に種牛が残った状態では、OIEに認められない」という立場だ。幹部の一人は「6頭の健康を確認して申請すれば認められる可能性はゼロではないが、ワクチン対策を徹底できない国として国際的信用をなくすため、申請できない」と話す。
■県、一度は処分勧告
 殺処分を前提とするワクチン接種を拒否しているのは、同県高鍋町畜産農家、薦田長久(こもだ・ながひさ)さん(72)。種牛以外の牛約160頭へのワクチン接種と殺処分には同意したが、種牛6頭は「人生をかけて作り上げた貴重な遺伝子資源。県の畜産復興にも貢献する」として同意を拒否した。
 知事は29日、口蹄疫対策特別措置法に基づき、今月6日までに殺処分するよう勧告した。薦田さん側は法的手段に訴える意向も示したが、8日、県有化して延命させる方針で知事と合意した。県が県管理のエース級種牛を特例で移動制限区域から避難させ、1頭が発症しながら残り5頭を延命させ、国も認めた事情も背景にある。
 地元の意見は割れている。発生地域のJAの畜産関係者は「涙をのんで家畜のワクチン接種を受け、殺処分された生産者は、民間種牛を残すことに納得できない」として、県に殺処分を求める要望書を出した。一方、宮崎県市長会は「県財産として種牛を守りたい」として14日、山田農水相に延命を要請している。

この殺処分願いを出したのは、確か養豚業者だったと記憶。別のニュースで。
はっきり言いますが、典型的な『足を引っ張る』行為です。
しかもはっきりと明言します。『無知』です。

何故、殺処分を行うのか?

まず一番最初に確認しておかなければならないのは、『口蹄疫に罹患した患畜が出た場合、何故、同舎の家畜全てを殺処分しなければならないのか?』です。
これは、
口蹄疫にかかると『経済動物』としての価値が下がるため
口蹄疫は感染力が強く、同じ舎に居る全ての動物はすでに罹患したと推測されるため
このため『殺処分が「経済的に」一番現実的な感染拡大を防ぐ答え』となります。
だから殺処分を行っています。

何故、ワクチンを使って生かせないのか?

次に、ワクチンがあるのに、何故、家畜を生かしたままにしておかないのか?です。
これは
・ワクチンを接種すると、キャリアとなった場合に判別が付かなくなる
・このため口蹄疫に罹患したかどうかがわかりにくくなり、感染を広げる恐れがある
と言うのが理由となります。
また、清浄国認定に戻るためには、ワクチン接種の家畜も殺処分する方が早く戻れるため、
・ワクチン接種した家畜は殺処分の対象とする
と言うのが行われることになります。

民間種牛の生殺問題:殺処分を行う理由

以上の前提を頭に入れた上で、最初の問題に戻ります。
民間の種牛は生かすべきか、殺すべきか。
 
さて、殺処分を『おこなわなければならない条件』とは何だったでしょうか?
・同舎内で口蹄疫患畜が出た場合
この1点だけが条件になります。
次点の条件として
・ワクチン接種を行った
があります。
 
ここで問題は、民間の種牛はこの二つの条件のどちらかに入っていたでしょうか?
答えは、どちらも入っていません。つまり、積極的に殺処分を行わなければならない(MUST)の理由が存在しないのです。
 
では、消極的理由では殺処分を行うほうが良い理由があるでしょうか?
これは存在します。
・現地ではまだ地中や糞尿、藁などに口蹄疫ウイルスが存在していると考えられるため、感染可能性のある家畜は全て殺処分しておく方が『予防効果が高い』
と言うのがあります。予防措置として、先につぶしておくと言うものです。
この1点でのみ、種牛であろうと全て殺処分することの、確かに客観的理由と言えます。

民間種牛の生殺問題:種牛を生かす理由

では次に、種牛を生かしたほうが良いという理由を考えます。
消極的理由から上げると
・現在、罹患を防げたのだから、今後も罹患しない可能性が高い。
・それに、周りも全て殺処分されて牛は居ないので、罹患してもリスクは低い。
これらは感情方面での理由ですね。これだけなら殺処分しろの方が優勢と見ます。
 
しかし、積極的理由を考えるとどうでしょうか?
・殺処分は『経済動物』であるため。評価の高い種牛の『経済価値』は、生かすに十分値する。
・そして今回の民間種牛は
・・宮崎牛としての血統の純度が高い
・・件の種牛より高い評価が出ている
・ため、生かした場合の「経済価値」が高い。
罹患リスクと『経済価値』を考えた時、ただの肉牛であれば殺した方が良いですが、スーパー種牛すら上回る評価を得た種牛なども居るという状況、やはり生かす方が『経済的な価値』を生かせます。
殺処分と言う「手段」は『経済価値』を考えた上での手段です。
ならば『経済価値』を考えない『殺処分』は、ロジックとしてあってはなりません。
 
そしてもう一つ、これはFAOも言った理由になりますが
・感染が収まった今は、宮崎県の畜産を立て直す必要がある。
・この時に多系統の種牛が必要となるし、また評価の高い種牛を残すことは、建て直しを早くはかれる。
と言うものがあります。事、ここにいたって必要なのは、どのようにすれば宮崎の畜産を立て直せるか?でしょう。
それに種牛は必須です。

民間種牛の生殺問題:まとめ

『経済価値』としても、少々リスクをとっても痛くない状態となっている。
『復興』を考えた時にはむしろ必須。
なれば『生かす』が正しいと考えます。
ただし、条件が一つだけあります。
・血清検査を行い、罹患がなかったことを証明する
これが絶対条件として必要な措置です。
 
ではここで問題です。
『血清検査』を拒否しているのは誰でしょうか?

余談

6月のワクチン接種家畜での疑患畜の「検査」をしていないことを怒鳴った人間が、「罹患していない事の確認のための検査」を拒否すると言うのは、どう考えても道理の通った行動では無いと考えられるのですが、どうでしょうか?
「罹患していないと証明」されたら、一体何が困るのでしょうかね?