ハノイの日本人

アイドル、ジャニーズ、サッカーなど。

ROCKすげーな。


(ロックンロール)誕生の直前まで(日本)は、「オキュパイ」されていて、なんと実質的にアメリカ合衆国の直接的な管理下だった。だから、こと「ロックンロール至上主義」の立場から——そこから見てみたならば、これは僥倖と言うほかはない。非英語圏、非西欧圏としては、類例を見ないほどの充実した環境、その連綿たる歴史が、聴き手とミュージシャンの双方にある。今日に至るまでの、日本においての「ロック音楽の文化的蓄積」は、まさに、宝だ。これだけは、誰がどうしようとも、いまさら決して奪うことはできない性質のものだ。(P17 ツイていたロックの国)


日本のロック名盤ベスト100 (講談社現代新書)

日本のロック名盤ベスト100 (講談社現代新書)


この文章を読んでロックを聴きたくなる人はいるんでしょうか? 私はロックを聴けなくなるとしても、平和の方がいいなって思います。もちろん『こと「ロックンロール至上主義」の立場から』とは書かれてありますよ。でも、広島、長崎への原爆投下、数々の空襲を受け、100万単位の死者がでているんです。ツイてた? あまりにも想像力の欠けた文章と言えないでしょうか? たとえば、ロックンロール至上主義者の方々は、ベトナムが戦争に負けてアメリカに占領された方がよかったとか思ってるんですかね? 戦争がなかった方がいいに決まってるじゃないですか。


他にも、アメリカへの憧れを隠せないピュアな文章が書かれています。「おわりに」に書かれた、アメリカの元大統領がローリング・ストーンズを大好きだという文章がそうです。


 たとえば、もしあなたに、ビル・クリントンアメリカ合衆国大統領と言葉を交わす機会が訪れたとしよう。どんな話題から、口火を切ればいいか? もし僕が助言を求められたならば、迷わずこう言う。「ローリング・ストーンズの話題から始めなさい」と。
(中略)
 これがロックンロールの影響力の一部分だ。僕らは容易にこの力の一端に触れることができる。手に触れたところだけを、自分のものにすることもできる。そのことによる自己変革すら、簡単に成し遂げられる。(P292 ピルグリムのひとりとして)


ビル・クリントンと話すためにローリング・ストーンズを聴きたいですか? いや、酷いのが多いなかでマシな大統領ではあったんだろうけど、日本でのイメージはモニカ・ルインスキー事件での「不適切な関係」って言葉くらいじゃないですか? そのあとのスーダンの薬品工場爆撃とか。ヒラリーも含めて疑惑は多いはずですよ。作者は音楽誌『ロッキング・オン』のライターだった人なんですけど、創業者の渋谷陽一も現大統領が就任したとき『オバマはロックで勝ったのか?』なんて特集を組んだりしてましたよね?


さて、この本なんですけど、タイトル『日本のロック名盤ベスト100』というくらいですから、日本のロックの名盤100枚が紹介された本になっています。しかもランク付けされてるんですね。1位は冒頭にあった はっぴいえんど『風街ろまん』でした。ロック以外にも選ばれたアルバムが結構あります。たとえば HIPHOP です。



35位 スチャダラパー『5th Wheel 2 the Coach』
38位 DJ Krush『Strictry Turntablized』
54位 いとうせいこう『MESS/AGE』
63位 近田春夫ビブラストーンズ『Vibra is Back』
68位 高木完『Grass Roots』
74位 キングギドラ『空からの力』
81位 TOKYO No.1 SOUL SET『TRIPLE BARREL』
83位 かせきさだぁ≡『かせきさだぁ≡』



結構な数でしょ? 日本のロックの100枚のなかに日本語のHIPHOPが8枚も選ばれているんです(DJ Krush はラップなしですけど)。日本のHIPHOPの100枚のなかに何枚ロックのアルバムが入るか? たぶん、1枚も選ばれないでしょう。それを考えると凄いことですよね? ロックによる植民地支配とか言わないで、まあ楽しみましょうw とはいえ不思議なチョイスです。いろいろ入ってた方がいいとは思うんですけど、MICROPHONE PAGER『DON'T TURN OFF YOUR LIGHT』が入ってないのはどうなのか? もの凄く影響を与えたグループなんですけど、ロック方面では知られていないのか?



あと、HIPHOP関連でもう一つ気になったことがあります。ノーマン・ジェイによって作られた言葉『レア・グルーヴ』についての箇所です。渋谷系とは一種のレア・グルーヴ運動だったと紹介する流れで登場するのですが、以下の箇所には疑問を持たざるを得ません。


 彼によって発掘された名曲の数々は、「レア・グルーヴ」ナンバーと呼ばれていくことになる。そしてノーマンのように古いレコードを探っては「新しい価値」を発見していく行為が、「クールなもの」として、まずはイギリスの一部で流行していく。
(中略)
 このレアグルーヴという概念はアメリカにも伝播する。そして英米以外で最初に大きく花開いた場所が日本だった。八〇年代までに培った「豊かさ」ゆえのレコード店の充実と、「耳の肥えた」リスナーが多かったからだ。(P262 レア・グルーヴ運動)



レア・グルーヴは HIPHOP から派生した文化だと思っていました。そのネーミングは素晴らしいですし、DJ としてノーマン・ジェイが独自のスタイルを確立したのは事実なのでしょう。でも、それ以前に Chic『Good Times』を使った最初のラップのヒット曲『Rapper's Delight』だってあったんだし。ラップが誕生する前から Kool DJ HERC はレア・グルーヴ的な選曲をしていたわけです。




さて、本題に入りましょう。私が一番語りたいことは、この本の第5章についてです。『日本のロック退潮とアイドル・システム』についてです。この方はアイドルについて『ポルノまがいの「欲望の無制限な肯定」のシステム』と断罪されているんですよね。ジェノサイドは肯定しても、性欲は肯定できないそうです。長くなりそうなので、来週また書きます。(つづく)