本エントリーはクルーグマンミクロ経済学 第22章「情報・情報財・ネットワーク外部性」の要約です。
追記(2008/5/14) いまさらながら各要約エントリーへのリンクを貼ってみた。
第22章「情報・情報財・ネットワーク外部性」
1 情報財の経済学
1.1 情報財の生産と販売
1.2 情報財の価格設定問題
1.3 情報財の財産権
2.1 ネットワーク外部性の類型
2.2 ポジティブ・フィードバック
2.3 ネットワーク外部性の下での競争
3.1 独占禁止政策
3.2 標準を設定する
本エントリーはクルーグマンミクロ経済学 第22章「情報・情報財・ネットワーク外部性」の要約です。
第1節 情報財の経済学
情報財とは物的な性質ではなくてそれに体現されている情報で価値が決まる財。
わたしたちの社会は、まだ伝統的な財の生産を多くしているが、情報財の生産も増え、その重要性も年々高まっている。そして情報財は、市場経済に新しい問題を突きつけた。
1.1 情報財の生産と販売
情報財の費用構造は高い固定費用と非常低い限界費用(追加的費用)。
これは第14章で分析した自然独占と同じような費用構造を持っている。
1.2情報財の価格設定問題
情報財の生産は、標準的な独占の理論で説明できる。では、情報財は他の財とどこが違うのだろう?
それはファイル交換ソフト問題を使って明らかにできる。ファイル交換ソフトを使って、フィル交換ソフトの利用者は無料で情報財(たとえばCDやゲーム)を手に入れることができるとしよう。これは経済学的には良いことなのだろうか?悪いことなのだろうか?
それは、情報財の生産者が無料で利用する客がいることを知っていても情報財を生産するかどうかにかかっている。
もし、情報財の生産者が無料で利用する客がいることを承知で情報財の生産を続けるなら、ファイル交換ソフトの利用は総余剰(要約者注:消費者余剰と生産者余剰をあわせた社会全体の便益のこと)の増加をもたらす。
これは第20章で取り上げた人為的な希少財のような財の分析と基本的に同じ。このような財の場合、消費者が支払う価格をゼロにするのが一番効率的。
しかし、多くの人が無料で利用すると知っていたら情報財の生産者は情報財を生産しないかもしれない。これは消費者、生産者とも損をすることになる。よって情報財を生産者に生産させるためには、(一時的にでも)独占利潤が得られるという期待が必要。
情報財については一時的な独占が進歩の代償として必要とされるのが、経済学者の一般的な考え。
1.3 情報の財産権
一時的な独占を許す方法として、特許(Patent)と著作権(Copyright)がある。
イノベーションは多様でありあるイノベーションに対して、特許や著作権が与えられない場合がある(例えば、既知のアイデアの組み合わせで新しいイノベーションを起こした場合)が、こういった場合でも競合企業に対する「先発者」優位によって、独占利潤を得ることができる(特にネットワーク外部性がある場合これはかなり強力に現れる)。
このような「先発者」優位も(著作権や特許のように)一時的にしか独占利潤を得られない。理由は2つ。1つは最終的にはそのイノベーションを競合会社が、マネするから。もう1つは別のイノベーションが、既存のイノベーションを時代遅れにするから。
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第2節 ネットワーク外部性
ネットワーク外部性とは、個人にとってのある財の価値が、同じ財を持っているか使っている人が他に多数いるときに大きくなること。
2.1 ネットワーク外部性の類型
ネットワーク外部性の典型的な例が電話やファクシミリの通信手段。
通信手段のような直接的なリンクが存在しなくても、他の人々がある財を消費することで、その消費によって自分の限界便益が増加するならばネットワーク効果が生まれる可能性がある(間接的なネットワーク外部性)。
間接的なネットワーク外部性の例としては、OSがあげられる。
2.2ポジティブ・フィードバック
ある財にネットワーク外部性が働いている場合、ポジティブ・フィードバックが起こることになる。
ポジティブ・フィードバックが起こることにより、情報産業では「クリティカル・マス」と「ティッピング(なだれ現象)」という「筋書きのあるドラマ」が繰り返される。
クリティカル・マスとは、ある一定気の規模まではじょじょにしか消費が増えないが、ある規模(クリティカル・マス)を超えると、爆発的に消費が伸びる現象のこと。
ティッピング(なだれ現象)とは、2つの競合する財や技術のうち一方が少しだけ「先発者」優位に恵まれたためにそれが自己増幅して、他方を市場か追い出してしまう現象のこと。
2.3 ネットワーク外部性の下での競争
ネットワーク外部性は企業の行動を変える。一般的に企業は自社製品にネットワーク外部性が働くと信じている場合、短期的な利潤を犠牲にしても(時にはタダでばらまいて)、販売ネットワークの構築に力を注ぐ(クリティカル・マスやティッピング(なだれ現象)が起こることを期待するから)。
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第3節 情報財に対する政策
情報財が増えてきているが、それによって新しい政策が必要だと考えている経済学者は少ない。しかし、政策の力点は移ってきている。ここでは独占禁止政策と標準を見ていく。
3.1 独占禁止政策
情報財の重要性が高まるにつれて、独占禁止政策は難しい問題に直面している。
独占禁止法は「意図的な」独占を禁止している政策で、意図しない独占は禁止していない。そして情報財は独占が自然に生じやすい財である。
では、問題がないかというと全然そういうことはなくて、情報財を生産する企業は「クリティカル・マス」や「ティッピング(なだれ現象)」を狙って違法すれすれな「攻撃的」戦略をとることがある。
この違法と適法の境界線はだんだん揺らいできている。
3.2 標準
標準とは、競合財が単一のネットワークとして働くようにする一連のルールのこと。
標準の典型的な例として、鉄道や携帯電話の規格があげられる。
標準の必要性は経済への政府介入を正当化する。
標準で重要なことは、何らかの標準を作ることがしばしばどの標準が選ばれることよりも重要になること。
標準は政府によって強制されるだけでなく、産業界がみずから設定する場合もある。しかし、市場の働きにより成立した標準は適切でない場合もある。
これはQWERTY問題として知られる。QWERTY問題とは他の良い標準があるのに、劣った標準に固定されている問題のことである。
原則論として、政府の介入はある産業をよりすぐれた標準に移行させるのに役立つといえる。