YouTubeがやったこと

今日はYouTubeがやったことの意味について、コンテンツ共有の観点から考えます。
きっかけは、おなじみ『Life is beautiful』の中島さんの今日のエントリです。

by 『Life is beautiful』 YouTubeが違法なら、ソシアル・ハードディスク・レコーダではどうだろう


 米UIE(正式名称 UIEvolution Inc.、 米国ワシントン州シアトル本社)は、200○年○○月、世界初のソシアル・ビデオ・クリッピング機能付きハード・ディスク・レコーダのリファレンス・デザインを発表。家電メーカーに対するOEM提供を開始した。

 ソシアル・ビデオ・クリッピングは、テレビの視聴者が、テレビ番組中の自分が気に入ったシーンを切り出して、YouTubeに代表される映像共有サービスやブログを使って、批評したり、個人的体験の共有をする行為。2006年の前半にYouTubeとともに急激にインターネットユーザーに普及したが、当初から著作権法上の問題点が指摘されており、それを解決するサービスの必要性が叫ばれていた。

 今回、UIEが発表したのは、実際のビデオはユーザーの持つハードディスク・レコーダーに蓄積し、クリッピング情報のみをネット上のサーバーを介して共有することにより、現行の著作権法に触れずに、自分が面白いと思ったシーンを公開したり、他の人がクリップしたシーンのみを見ることを可能にするものである。

 ユーザーは、テレビの番組を見ているときに(タイムシフト中も含む)、面白いシーンに出会ったら、リモコンの「クリップ」ボタンを押すだけで、その前後のシーンを自分のビデオクリップとしてアーカイブできる。EPG(テレビ番組表)を開けば、それぞれの番組が他のユーザーにどのくらいビデオ・クリップがされたかが一目で分かるので、「たくさんの人がビデオ・クリップした番組のみを見る」、「最新の人気ビデオ・クリップを順番に見る」などが可能になる。

※注:これはプレスリリースのプロトタイプで、まだ実際に発表された訳ではありません。


こういった機能はとても素晴らしいと思うのですが、実際は日本の法律ではまだ実現できません。
それは、著作権法で守られたコンテンツを無断で公衆に送信することが禁じられているからです。
参考:Wikipedia『公衆送信権』


この日本の著作権法は世界一進んでいると文化庁が自慢している程の内容なんですが、これは著作権者の側から見て『世界で一番進んでいる』という意味で、逆に視聴者の側から見れば『世界一(無駄に?)厳しい』と言われています。

この著作権法が良い悪いはさておき、法律面以外にもこれまでTVコンテンツの共有が行われて来なかった理由があります。


それは、

  1. コンテンツの中身を把握できない
  2. コンテンツにアクセスできない

の2点です。


『1. コンテンツの中身を把握できない』とはどういう意味かというと、コンテンツの中身をコンピュータが理解できない、ということです。もちろんテキストであってもコンピュータが本当に理解している訳ではありませんが、検索エンジンに代表される様にキーワードをトリガーとして、人が求めるものとコンテンツを結びつける機能は実現できています。
しかし、動画の場合は、動画検索が発展途上である様に、人の求めるものとコンテンツを結びつけるという機能がまだ十分実現できていない訳です。


『2. コンテンツにアクセスできない』とはどういう意味かというと、ウェブサイトの様に、コンテンツにアクセスする手段がないという意味です。TV放送は一旦放送されたらそれで終わりですし、放送局のアーカイブに一般の人がアクセスできる訳ではありません。誰かがビデオやHDRに録画していたとしても、その場所を示す識別しがなかったので、『○○さん家のHDRに入っている○○という番組にアクセスする』ということはできなかったわけです。実際は技術的に不可能ではありませんが、敷居が非常に高かった訳です。


この2点がTVコンテンツ、もっと広く言うと動画コンテンツ共有の課題だったわけですが、YouTubeがこれを部分的に解決していると思います。
『1. コンテンツの中身を把握できない』については、アップロードするユーザ自身がタグをつけることによって、キーワードによる検索を可能としました。
そして、『2. コンテンツにアクセスできない』については、コンテンツ毎にユニークなIDが振られたことで、アクセスする手段ができました。


もうちょっと難しい言い方をすると、YouTubeがやったことというのは、

  1. メタデータの付与
  2. URIの付与

だと言えると思います。


ウェブで情報を整理するためには、情報の情報(メタデータ)と、情報の場所(URI)が必要だと言われています。
動画はこれが難しかったけれども、YouTubeがそれを簡単にした、という見方ができると思うのです。

結局、YouTubeがやったのは、セマンティックウェブで言われている『動画コンテンツへの、コンピュータが理解できる情報(メタデータ)の付与』と『動画コンテンツへの場所情報(URI)の付与』をユーザの力とチープ革命の力を利用して実現した、ということなのではないでしょうか。