落語という芸

 それでは、一席ご機嫌をうかがいます。
「芝浜」ってえと、こりゃぁ師走の落語ですゲスね。八五郎がかみさんに急かされて、夜明け前の魚河岸に出かける。ところが時刻を間違え行っちまったもんだから、河岸は真っ暗。で、浜に出て、顔でも洗おうかってえときに、財布を拾う……そこから人情話が始まるって寸法でさぁ。だから噺を掛ける時期は寒いころがいい。肌感覚として噺が理解できますからねぇ。だからブログのネタとしても、こんな暑い時期に持ち出すものでもないんですがね。先日、友人のパセリくんから、志の輔の弟子の志の春がシンガポールで「芝浜」をやったという話を聴いたんでゲス。シンガポールで「芝浜」ってどうなんでしょう。そもそもシンガポールは赤道直下、とんでもなく暑い。そんな場所で「芝浜」を掛けるのはけっこうチャレンジャーではあ〜りませんか。まあシンガポールは年中暑いわけですから、年末でも暑いわけですな。だからいつやってもいいっちゃぁいいわけでして、それでも酷暑の中で、懐まで寒々とした魚屋の風情が、お客に伝わるのだろうか……と心配しておりヤス。

 昨日、仕事が終わってから近くの図書館に立ち寄った。そこで志の春が2年前に出したライブのCD付『誰でも笑える英語落語』(新潮社)を借りた。「転失気(てんしき)」「動物園」「禁酒番屋」の英語の落語が入っている。さっそく聴いた。
 英語で落語が通じるものかいな、そう思っていたので驚いた。ライブなのだが、そりゃあもうドカンドカンと笑いが大爆発。とくによく笑う女の人がいて、その人に引きずられるようにして会場が揺れている。「芝浜」はなかったけれど、英語でも落語は充分におもしろい。

 シンガポールで開催されたのは、インターナショナル・ストーリーテリング・フェスティバルという各国の語り部たちが一堂に介するイベントだった。ここで二つ目の志の春が大うけだった。志の春というよりも「落語」というストーリーテリングの手法と志の春の英語力の勝利だったと思う。それにしても落語の奥は深い。