奥田英朗 東京物語

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あらすじ

  • あの日、聴いた歌 1980/12/9

田村久雄が勤める零細広告代理店での一日。
その日、ジョン・レノンが撃たれて殺された。

浪人生の久雄が東京に来たはいいがその日のうちにホームシックに。
その日キャンディーズは後楽園球場で解散コンサートをしていた。

  • レモン 1979/6/2

予備校で彼女が出来なかった久雄は無事にとある大学に潜り込み、キャンパスライフをエンジョイする。数あるサークルの中でアングラ系の演劇部に入った久雄はそこでの人間関係に悩まされるのだが・・・。
その日江川卓はプロ初登板を経験した。

  • 名古屋オリンピック 1981/9/30

久雄は勤め先で人を使える立場になったものの、イライラしていた。勿論彼の基準で使えないからだ。しかし、それと同時に慢心も芽生え始めていた。
その日IOC総会はソウルオリンピックを決定して名古屋が敗れた。

  • 彼女のハイヒール 1985/1/15

久雄が母親に騙されて連れてこられた先はホテルだった。そう、お見合いだったのだ。しかしそんなことを露とも考えていなかった彼は実にラフな格好で浮いていた。相手も騙されて連れてこられた口らしく誰がどう見たって不機嫌きわまりない。それでも一応きちんとデートをしようとするのだが・・・。
その日ラグビー新日鉄釜石が七連覇を達成し、北の湖が引退した。

  • バチェラー・パーティー 1989/11/10

バブル経済華やかりし時期だけに勤めていた会社から独立した久雄は大したことをしなくても簡単に金を儲けていた。浮かれている世相に潜む病理を彼は嫌でも見せつけられることになる。
また、友人の結婚前の独身最後のパーティーが執り行われるはずなのだが、主賓がどうにも落ち着かない。どうやらマリッジブルーに罹っているようだ。
その日ドイツの東西を分けていたベルリンの壁が崩壊した。

感想

奥田英朗十作目。小津監督の作品である「東京物語」と掛けてるのかな?ま、見たこと無いのでわかりませんが。
内容は端的に言って青春物。ただ、どちらかといえば感情先行型の若さを描くと言うよりも時代性のリアリティを描写することを大事にしているように感じた。故に青春物は青春物でも懐古青春物とでも言おうか。同時代を体感し記憶に留めている人は佳いかもしれないが、そうでない場合同調は難しいと思う。つまり足きりがあるかと。平成生まれは当然ピンと来ないよね。というより昭和五十年代中盤ぐらいの丁度舞台と被っている時期に生まれた人(当然私も含まれる)はなんとなく想像は出来てもピンと来ないかも。江川にしたって今は野球解説者だし、ラグビーには日は当ってないし、キャンディーズはあーそんなのあったねぇレベルだし・・・。流石にベルリンの壁崩壊とか、解らない人が居る方がやばいけど、ジョン・レノンが死んだりオリンピックが名古屋にならなかったなんて言うのはもう古いだけの話なわけですよ。やっぱりこの古さがいけない。なんとも中途半端すぎる古さなんですよね。もうちょっと古いと私なんかは隔絶感が生まれて来て面白がれるんですけど、なんかこう現在と地続きの過去を、しかも生まれてはいたけれど余り意識したことのない過去の話をされてもなんかしらけちゃうんですよねぇ。ま、こういうのは私だけなのかもしれませんが。根底にあるのはやはりバブル期を適当に流していたお前等が諸悪の根源だろ?っていう怨嗟の声でしょうね。安保に負けて、政治に無関心になった挙げ句、放置かまして奇形国家からの脱出が出来なかった責任の一端を考えずにはおられません。安易に「昔は良かった」とか言わないで欲しいですわ。その尻ぬぐいをする側の世代のことを考えろ!とね。
穿ってみれば楽しめるのは三十代中盤〜四十代あたりの読み手かな。ターゲットは恐らくそのあたりでしょうねぇ。
時代が違っても変わらない普遍性がここにはあります。例えば若者固有の理想と現実の格差への悩みとかね。しかし同時に当時の風俗、風潮も閉じこめられています。この時代の波を気にしなければ問題ないでしょう。ユーモアを含んだ軽快な筆で深刻になりすぎず軽く楽しめますから。相変わらず上手いしね。
テーマとしては一時代の終焉、青春のモラトリアムの終了とかかな。漠然とした将来の不安を正直に語っている部分なんかは好感が持てますし。
でもまぁ、結局作者の自分史語り、回顧録ではないかなぁというのが結論かなぁ。愛知ではないけれど岐阜出身だし、東京に出てきてるし、雑誌編集者から広告代理店でコピーライターをやりその後フリーにってあたりまではほとんどそうだわな。
筆者の話が好きなら読んで損なし・・・かもしれない。
70点
うーん、まぁ私は辺境とはいえ曲がりなりとも東京都に住んでますから、なんか首都圏以外の出身者の人が感じるコンプレックスとか理解しにくいんだよなぁ。方言(国言葉)に関してはもう若い世代はほとんど使わないしね。それ以前に使われても解らんわけだけど。そういう地方出身者的コンプレックスとは無縁なのでそこだけ理解しがたかった。まぁ、知識としてはあったけどね。でも知識だけじゃあ駄目だわ。
蛇足:やっぱり地方出身か、この時代に青春を送った人が読んだ方がいいと思う。どちらにも縁がないと厳しいかと。

参考リンク

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