★堕ちた「英雄」

 朝日新聞に「ひと」という欄がある。

 何らかの意味で「偉大な人物」を取り上げて紹介するコラムだ。

 半ば以上冗談だが、私もいつかこの欄に紹介されるような人物になりたいと思っている ^^;
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 その「ひと」欄に、「被災地で「ボランティアの専属医」を務める」医師として紹介された「米田きよし」という人物がいる。
 口癖は「ボランティアの基本は自己責任」。そういいながら、石巻のテント村に3月半ばから住み着き、「ボランティアのボランティアや」と、250人あまりを診察してきたという。

 本業はカナダの大学病院に所属する小児救命救急医。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の派遣医としてアフリカのルワンダで働いたこともある。

 休暇で帰国中に東日本大震災に遭い、NGO 「カナダ医療支援チーム(CMAT)」の代表として、ボランティアで治療を続けてきた。「少なくとも年内は石巻に腰を据えるつもりだ」という。

 なんと「偉大な人物」であろうか。ほとんど「英雄」である。

 だが、2日後の朝刊には、資格や経歴のほとんど(すべて?)がウソであること、そもそも日本の医師免許を持っていないことが報じられた。
 個人的な憶測だが、もちろんカナダ(本人の主張ではアメリカ)の医師免許も持っていないだろう。

 「ひと」欄に紹介されたことで医師ではないことがばれてしまったのは皮肉である。

 コラムの「全文を削除します」とのことだが、もちろん既に数百万部が配られた後だ。「取り消します」ならともかく、「削除」なんかできるんだろうか。
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 持っていた「医師国家資格認定証」は、おそらくは大阪市の住民基本台帳カードをベースに偽造したもの。厚生労働省発行の書類のはずなのに、なぜか大阪市の市章「澪つくし」が入っている。
 そもそも、日本に「医師国家資格認定証」など存在しない。

 本人によると、米田きよしという名前自体も偽名だそうだ。

 突っ込みどころの多い誤報であるのはもちろん、あの「ひと」欄に、ここまでニセモノの人物が紹介されたのは、文字通り「世紀の誤報」ではないだろうか。

 ほろ苦いというかもの悲しいというか、この人がやっていたことはとても立派なことである。
 だが、そもそもどこの国の医師免許も持っていないとすれば、もちろん、かなり悪質だとも言える。

 それでも、行為自体は、あの「ひと」欄に取り上げられるほどの偉大さだったのだ。その内容から言えば、「英雄」だと言っても過言ではない。

 問題の本質は医師免許の有無や経歴詐称にあるのではなく、「患者」に危険や害を及ぼす可能性があったかどうかだとは思うが、通常、免許がない者はその可能性が高いと思われても仕方がない。
 そして、可能性があろうがなかろうが医師法には違反する。
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 この人はいったい、何がしたかったんだろう?

 「米田きよし」氏が代表を務めるNGOは、100万円の助成金日本財団から受けているということだが、まさかお金が目的だったわけではあるまい。
 医師ではないボランティアとしてがんばっていたなら、間違いなく「ほんとうに立派な人物」であったろうに。

 「ひと」欄には載らなかったかもしれないけれど・・・