Diary For Paranoid @ hatena

思いつくまま書くブログ。最近は窪田正孝出演作品感想に特化してます(笑)。

『4号警備』その2 こういう終わり方、嫌いじゃない。けどね……!



 『4号警備』最終話を視聴。毎回、見どころやキラーフレーズがある作品の最終話だけに、やっぱりいろいろありました!

 金沢さんの心尽くしの御守りを自ら手を伸ばして受け取った朝比奈。金沢さんに「かわいい」と驚かれてましたが、本当にかわいい! 朝比奈の仮面の下の顔は、バラエティ番組などで拝見する窪田さんの素の表情に近いのですね。ざわつくGK(ガードキーパーズ)メンバーズが正直すぎて、好感度が一気にアップしました(笑)。

 そして、石丸さん! 虫歯があるから、ちくわみたいな柔らかいモノしか食べられないとかないよね。C3がふたつもあるとか細かく覚えていないで、早く歯医者に行ってください!

 楓の飲み物を勝手に注文し、朝比奈には注文させない。石丸の社長時代のワンマンぶりをこういうちょっとしたところで見せて、楓の「いつも一方的だよね」というセリフに深みをもたせる。この作品の真髄ですね。

 朝比奈をカフェに呼んだのは、「あのときから変わってない」と絶望的な殺意を告白した彼に、変わろうと決意して、変えていこうとする自分を見せたかったのでしょう。でも、もじもじムーミンっぷりが絶好調だから、朝比奈を家族に紹介する図にしか見えません。ちんまりコクコクする朝比奈がかわいい×2。



 帰宅途中の上野を呼び止めたときの朝比奈の目の動き、まさに「目は口ほどに物を言い」ですね。「オッス」という軽い挨拶とは裏腹に、「聞いてほしいことがあるんだ!」という眼差しの圧の強さ。

 石丸の“変わる”宣言だけではなく、楓が石丸に投げた「いつも一方的」という言葉にも自分を省みることがあったのか。嫌いな自分しか見ていない、投げやりだった発言を「言い方を間違えた」と謝り、きちんと相手を意識した話し方に変えた朝比奈。自分嫌いに凝り固まった彼は、言葉を通じて相手と心をやり取りするような会話をしていなかった。それが「ちゃんと生きようとしてなかった」ってことなのかな、と。

 「小林を殺して、自分も死ぬ」から「ちゃんと、みんなのそば、行くから」へ。憑きものが落ちたような朝比奈は、冴え冴えと孤高を感じさせ、恐くも見える男から、その片鱗を残しつつ地に足の着いた普通の青年へと変わります。第6話の荒川土手で石丸に見せた表情から始まった、この変貌の鮮やかなこと! それに「待ってるから」と答える上野。初めてふたりがお似合いに見えました。



 人身売買組織の情報提供者と渋谷弁護士の取引が行われる朝。第1話では石丸が離脱したためひとりで装備していた朝比奈が、同じ朝の光のなか、石丸とふたりで装備していく。この繰り返しの効果は絶大で、私にはここがウルウルのクライマックスでした。

 ちなみに興奮のクライマックスは、取引現場でショットガンをぶっ放す、佃井皆美扮する殺し屋と窪田さんの本作屈指のアクションシーン! 体温が上がりましたね!!



 ちょっと残念だったのはここからで、小林の登場が唐突に過ぎたこと。「え、朝比奈の会社を見張って、車の跡をつけてきたの!? それ、なんてストーカー!!」とびっくり。

 最終話が、弁護士警護と小林との対決の二本立てになると知ったとき、まず思ったのは、舞台移動の時間がないということでした。とにかく小林を取引現場に存在させないといけない。ここで考えられる策はふたつ。ひとつは小林を人身売買組織と関係させる。もうひとつは小林に渋谷弁護士を操らせる。私のなかで結構有力だったのが後者で、渋谷弁護士は小林に言葉巧みに騙され、悪気なく朝比奈たちを採石場に呼び出す役割を担ってしまった、という筋立てにすれば、後味の悪いことにもなるまいと思いました。

 人身売買組織と関係させる場合は、組織を信用させる道具として、あるいは「弁護士についている凄腕のボディーガードを鎮圧する人質」という触れ込みで、楓を利用。石丸を足止めし、自分と朝比奈の対決に持ち込む。小林が海外マフィアにどう接触できたのかという点に無理がありますけどね。

 まあ、こんなふうに小林の有効活用をいろいろ妄想してたんですよ。ドラマが妄想の斜め上を来てくれることを期待して。それなのに、ただ朝比奈たちの跡をつけて、隠れて取引現場を見ていただけとは……。「お前には、ちょっと、がっかりだよ!」(笑)。



 それにしても、賀来賢人の一見そうは見えないからこそ凄みのあるサイコパスっぷりはインパクト絶大でしたね。賀来さんは役者としての幅を広げられたのでは。だからこそ、もっと小林という人物や朝比奈との因縁を理解したうえで、「ああ、この感情芝居なんだ」と納得したかった。賀来さんの演技がよかっただけに、心残りです。

 そして、窪田さんね。どういう芝居をさせても上手い方なんだけど、瀕死の演技は特に迫真なので、助かると確信していても、「もしかして」とハラハラしました。



 いつも夜だったジムと石丸の部屋に、昼間の光があふれているのが印象的。江本会長の語りも、石丸が朝比奈のライトを感慨深げに見るのも、一瞬でも視聴者を騙そうとノリノリだったんだろうな、と(笑)。おかげで、朝比奈の後頭部が見えたときには心底安堵しましたよ。大団円こそ、この短すぎる連続ドラマにぴったりだと思います。





 私、この作品には自分でも不思議なくらい甘くて、最終話がどうなるにしろ、第6話までがあればいいと思ったし、いいと思っています。

 『4号警備』は物語として成立するギリギリまでセリフやシーンが削られていて、他のドラマなら描くであろう警護対象者が身辺を脅かされた事情の解明……犯人が誰でどうなったかなどが一切描かれない。それこそが、契約期間だけ警護対象者に関わるという仕事のシビアさを感じさせ、この作品をちょっと他にない「仕事ドラマ」に昇華させた。28分間という制約を逆手に取った手腕、本当に見事だと思います。

 仕事の描写はそれでいいんです。スピーディーにも程があると思いながらも、毎話、警護の顛末や変化していく朝比奈と石丸、上野との関係もきっちり描かれ、緊迫感と充実感が途切れることはありませんでした。このスピードに演技を乗せていける俳優陣の実力を見せつけられたことも大収穫でした。



 問題は、登場人物の心的変化まで点描で描こうとしたことでしょうか。それでも、石丸と楓の確執は現在進行で、事情も家庭問題だっただけにわかりやすかったし、どちらの思いにも共感できました。しかし朝比奈と小林の確執は、第7話を観終わった今でも謎のままです。

 見えている事実は、小林が朝比奈の恋人を死に追いやり、その死の現場で茫然とする朝比奈を見下ろして笑った。その事件は世間に「ストーカー殺人」と報じられた。小林は服役し、3年半で仮出所してきた。朝比奈の携帯番号を知っていて、彼女は息絶えるまで朝比奈の名を呼んでいたが、そのとき彼女を見ていたのは自分だと挑発。……というくらい。

 ストレートに考えたら、小林は朝比奈の彼女に恋をしたが、彼女には朝比奈の存在を理由に拒絶された。彼女の気を引こうと近づくが逃げられ、追ううちに彼女が転落死。茫然とする“恋敵”の朝比奈に、「恋人を守れず、その死を看取ることもできなかった」と嘲笑を浴びせる。彼女が勝手に落ちたという事実で罪には問われないはずが、朝比奈に「ストーカー」と訴えられ、傷害致死罪で刑務所に。「彼女を手に入れたくてアプローチしただけなのに、なぜストーカー扱い!? 自分は彼女に拒絶されたのに、なぜ朝比奈ばかりが恋人を殺された被害者扱い!? なぜ自分が刑務所に!?」と朝比奈に恨みを募らせ、「自分の(つきまといの)せいで大切な人(彼女)が死んだ」という思いを、朝比奈にも味わわせようとする。……ということになるのでしょうか。

 ただ、そうストレートに解釈するには、小林の表情や行動がいちいち思わせぶりなんですよ。ファジィさを徹底的に排除しているこの作品で、唯一ファジィで、それが過ぎるのが小林。最終話で決定的な言葉を吐いてくれるのかと思ったら「ゲーム」とか言い出すし、思い込みが強く悪ぶりたいだけのただの人なのか、サイコパスなのかさえわからず終わってしまいました。



 朝比奈の過去はこの作品において、裏のキモだと思うのです。

 いちばん守らなければいけない人である彼女をどのように失ったのかが描かれなければ、朝比奈の絶望はただ彼の言葉にあるだけで、視聴者にはその深さを納得することができません。たとえば、彼女に恋した小林が、強引に振り向かせようと追い回した挙句に死なせたのと、何かの理由で朝比奈に恨みを持った小林が彼の恋人につきまとって死なせたとでは、朝比奈の絶望の度合いが変わります。何が起こって、お互いに何を思い、お互いをどう思っているのか。そこがわからないままでふたりに対峙されても、朝比奈と小林の気持ちの落としどころが不明なので、カタルシスを感じたくても感じられないのです。

 小林の「こいつさえいなければな、俺はストーカーなんて呼ばれることはなかったんだよ」という言葉ひとつ取っても、「朝比奈という恋人さえいなければ、彼女は自分を受け入れたはずで、ストーカーと呼ばれはしなかった」ということなのか、「彼女が好きで近づいただけなのに、警官である朝比奈がストーカー事案にしたから、彼女の死後も自分は世間からストーカー扱いされている」ということなのか、「あの日あの時あの場所で朝比奈に出会わなければ、自分は彼女に関わることなく、ストーカーにもならなかった」ということなのか、幾とおりも解釈ができ、それぞれに対処法も変わってきてしまいます。

 それでも、たとえば朝比奈の目には小林が嗤っているように見えたけど、小林は動揺のあまり笑ったような顔になったとかの描写があれば、本田社長の「私はあなたを許します。あなたも自分自身を許してあげなさい」も響いたと思います。でも、あの表情は本当に「してやったり」な嗤いにしか見えないので、本田社長や池山部長の言葉が上滑りして聞こえ、むしろ「今、お前が涙を流す意味がわからないよ!」と当惑するしかありませんでした。

 ここさえなければ、一点の曇りもなく「いい作品だった!」と言えたのですが……。そのあたりはノベライズに書かれるかもですが、見たいのは映像。小林がストーカーになった経緯と朝比奈が警察を辞めた前後、そこからの「守る人ができました」の朝比奈と「家族紹介もすみました」の石丸の現在を、小林も絡めて描く続編をお願いします!



 朝比奈隼人は、窪田さんが演じてこられた役の中で5指に入る好きキャラになりました。窪田さんの得意とする表情芝居やアクションや多面性の表現がいい塩梅で発揮されて、朝比奈という人物に自然に引き込まれました。

 対して石丸賢吾は、北村さんがさえないおじさんを演じるという意外性から、獅子丸呼びにいちいち反応したり、ちくわ好きだったり、どんどんかわいくなってきて、「あれ、配役で見ると、朝比奈がカッコかわいく、石丸が大人の男の魅力になるはずじゃ!?」と困惑するうちに引き込まれていました。北村さんのおどおどもじもじが来週から見られないなんて、信じたくありません!

 鶴太郎さんやゲストのキャストさんもすばらしかったのですが、楓役の久保田紗友、GKメンバーズの大川役の横田大明、山本役の浦野博士、朝比奈のジムでの同居人・山田役の神戸浩は、『4号警備』の日常風景になくてはならない存在で、まだまだ見ていたい人たち。そして最終話で強烈な印象を残した殺し屋役の佃井さん! 俳優陣の28分間の作品だからこその瞬発力と凝縮感のある濃い演技、スタンディングオベーションを贈りたい! これっきりというのはあまりにも惜しいです。


 視聴満足度が高かったのに、これほどいろいろ書くことがあるのは、やはり30分ドラマではカットされた部分が多くて、そこを妄想ででも埋めたいという欲求に抗えなかったから……。見ごたえも噛みごたえもある作品でした。



(5月21日のTwitter投稿を加筆修正)

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