奇数句の4字目の音について

 先日、『千字文』の第25行目まで(50句)を終えました。字数でいうと、1000字のうちの200字ですから、ちょうど2割になりますね。暗誦できるようになった方、なめらかに読み上げられるようになった方、まだまだという方、いろいろと事情はおありでしょうが、しばらくここで歩みを止めて、この25行文を振り返り、様々な角度から『千字文』を検討したいと思います。
 まず、韻律・声調について考えてみましょう。
 すでに申し上げたとおり、『千字文』は偶数句の末、そして第1句が韻を踏んでいます。1行目から25行目について見ると、現代北京音で言って、「ang」という音を含む、第1声か第2声の字が使われています。
 これを『千字文』が書かれた時代の音韻、「中古音」で説明すると、すべて「陽」韻か「唐」韻の文字(いずれも平声)ということになります。これだけの音をそろえたというだけでも、たいへんなものです。
 ここで視点を奇数句の4字目に転じてみましょう。第1句末は韻を踏んでいますから除外しますが、第3句から第49句までを挙げてみます。

3「昃」、5「往」、7「歲」、9「雨」、11「水」、13「闕」、15「柰」、 17「淡」、19「帝」、21「字」、23「國」、25「罪」、27「道」、29「首」、31「體」、33「樹」、35「木」、37「髮」、39「養」、41「虜」、43「改」、45「短」、47「覆」、49「染」

 すると、この24字の中に、平声の字が1字もないことが分かるのです。
 まず、現代北京音では区別が出来なくなってしまった、「入声」の文字を日本漢字音を手がかりに分けましょう。「昃」(第3句)、「闕」(第13句)、「國」(第23句)、「木」(第35句)、「髮」(第37句)、「虜」(第41句)、「覆」(第47句)、がそれに当たります。
 そして、これらを除いた文字の声調は、いずれも現代北京音で「第3声か第4声」であることが分かるはずです。つまり、中古音の上声か去声の文字です。平声の字はひとつもありません。
 これはどういうことでしょうか?文章を読み上げた際、音響が単調にならないように、偶数句末と奇数句末とで声調を変えているのです。韻を踏むのが平声の文字なら、奇数句末には上声、去声、入声の文字が選択されているわけです。
 これはますますもってたいへんな技巧です。このあたりを意識して『千字文』を読み上げたり、また子どもたちの暗誦を聴いてみると、また楽しいものです。