9 向上寺三重塔(広島県尾道市)


向上寺三重塔(広島県尾道市

 広島県尾道市愛媛県今治市を結ぶ瀬戸内しまなみ街道が、尾道から因島を経て生口(いくち)島へと陸路でつないでいる。しかし、お奨めは海路である。生口島には尾道や三原からフェリーが出ている。今回は、三原港から。三原港から30分も乗ると、生口島瀬戸田港。
 「瀬戸内の 海にかがやく 生口島 御仏の心 光り輝く」(読み人知らず)
 生口島は、芸予諸島の一つ。平安時代より海路の重要な拠点として開け、その名は、神を祀る島、神をいつき奉る島の「いつき」が「いつき」なったともいわれている。
 瀬戸田の町中の潮音山公園の一角に向上寺はあり、瀬戸田港から徒歩8分ほど。応永4年(1400)に土地の地頭、生口守平が建立した曹洞宗の寺院で、中国三十三観音霊場第十一番になっている。ほとんどの伽藍は、明治6年の大火の際に焼失し、本堂はその後古材で再建したが老朽破損して解体され、三重塔だけが残った。
 三重塔は、永享4年(1432)に建立され、本瓦葺で高さ19.25メートルある、室町時代の代表的な建造物で、国宝に指定されている。肘木の先に見事な彫刻や隅木下の組み物、相輪の水煙も美しい。特に各階層の高覧を支える親柱の飾り付けが逆蓮華となっている。和様、唐様の混合様式で、内部全体にも極彩色が施され、室町初期の最も美しく優れた塔と云われるだけのことはある。
 この向上寺周辺は、日本画壇の巨匠、平山郁夫画伯の幼少時代の遊び場であった。「しまなみ街道五十三次」と題した60点の水彩素描画のシリーズに向上寺は多数登場する。近くには、平山郁夫美術館があり、シルクロードや日本の風景をやわらかいタッチで描く画伯の作品が多数展示されている。
 また、瀬戸田地区には、耕三寺がある。この耕三寺は、生口島出身の実業家 金本福松氏が私財をもって、寺院を建立するとともに、日本各地の古建築を模して堂塔を建て、そのきらびやかさから「西の日光」とも呼ばれる。陽明門を模した孝養門、平等院鳳凰堂を模した本堂など、15の建造物が国の登録有形文化財として指定され、仏像、書画、茶道具などの美術品、文化財を多数所蔵している。寺全体が博物館法による博物館となっており、こちらも一見の価値がある。 
 生口島のサンセットビーチに行くと童心に帰ることができる。「ひょっこりひょうたん島」のモデルになった瓢箪島が、地平線に遠くぽっかりと浮かぶ姿を望むことができる。