87 善通寺五重塔(香川県善通寺市)

善通寺五重塔香川県善通寺市
 善通寺は、お大師さま御誕生の聖地である。
 唐より帰朝した空海が、父の寄進した四町四方の地に、師である恵果和尚が居住する長安青龍寺を模して建立した。弘仁4年(813年)6月15日に落慶し、父の諱「善通(よしみち)」をとって「五岳山善通寺」としたといわれている。
 鎌倉時代になって、空海の生まれた佐伯家の邸宅跡に「誕生院」が建立された。
 江戸時代までは、善通寺と誕生院のそれぞれに住職をおく別々のお寺だったが、明治時代に至り善通寺として一つのお寺となった。
 善通寺は、このため「屏風浦五岳山誕生院善通寺」という長い山号を有し、真言宗善通寺派の総本山となっている。
 総面積約45,000平方メートルに及ぶ広大な境内は、「伽藍」と称される東院、「誕生院」と称される西院の東西二院に分かれている。「伽藍」は、金堂、五重塔などが建ち並び、創建時以来の寺域である。「誕生院」は、空海が御誕生した佐伯家の邸宅跡にあたり、御影堂を中心としている。
 五重塔は、創建以来、倒壊・再建をくりかえし、現在の塔は4代目である。江戸時代・弘化2年(1845年)、仁孝天皇の御綸旨により再建がはじまり、明治35年(1902年)に完成した。基壇から相輪の頂まで、約43mあり、国内で3番目の高さを誇る総けやき造りの木造塔である。国登録有形文化財に指定されている。
 塔の中心を貫く心柱は地震などの揺れを緩和するため、5層目からつり下げる「懸垂工法」を採用。初層では、心柱が礎石から6センチ浮いている。
 平成5年の五重塔大修理以来、毎年ゴールデンウイークに初層と2層の内部を特別公開している。年に1度の特別公開には、普段は非公開となっている仏像や特異な建築様式を見学するため、おおぜいの家族連れや観光客、遍路たちが訪れる。
 善通寺は、四国八十八ヶ所霊場の75番札所である。
 四国八十八ヶ所霊場は、弘仁6年(815年)、空海が42歳の時に開創されたと伝えられているが、いまのような形となった時期は明確でない。
 一番札所の徳島県霊山寺から八十八番の香川県大窪寺まで、東京―大阪間を往復してもまだ余る約1400km。世界遺産に登録されているスペイン北部、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路800kmを凌ぐ、世界最長の「祈りの道」である。
 昨年は、八十八霊場の開創1200年。四国4県も「節目の年」を観光の目玉にすべく各県、あるいは4県合同でさまざまなエベントを展開した。多くの寺院も秘仏や宝物を公開し、印や御影(おみえ)に特別バージョンを揃え、寺をライトアップするなど旅行者の獲得に努めた。それらの試みが奏効し、昨年の四国観光は好調だったようである。しかし今では、観光バスやタクシー、自家用車で早回りする遍路や観光客が多い。
 四国4県では、「四国八十八箇所霊場遍路道」の世界遺産登録に向けて一体となって取り組んでいる。遍路の歴史や文化を味わうことができるよう、昔ながらの遍路道の整備を進めるとともに、「歩き遍路」には、サンティアゴ・デ・コンポステーラのように、巡礼証明書もしくは、巡礼手帳を発行し、帰りの飛行機及び鉄道料金が割引となるサービスがあってもよいのではないかと思う。