新日石と新日鉱が経営統合 さらなる大リストラへ

新日石新日鉱経営統合

石油元売り最大手の新日本石油と同6位の新日鉱ホールディングス経営統合に踏み切った。両社は経営統合で連結売上高が13兆円を超え、世界でも8位の石油会社に躍り出る。
新日本石油エネオス名で、新日鉱JOMO名で、ガソリンスタンドを全国展開し、両社で全国1万3700ヶ所という数になる。他の大手、東燃ゼネラル、昭和シェル、出光、コスモがいずれも4000ないし6000ヶ所程度であることを考えると、その突出度合いが明らかだ。

GSの減少

ガソリンスタンド=GS数は、長期減少傾向にある。96年は5万9615か所あったが、05年には4万7584、年平均1200か所減っている。
http://www.sekiyu.or.jp/topics/data_a.html
GSの業界団体、全石連は08年11月18日、このまま減少を続けると、153町村でスタンドがなくなる恐れがあるとの調査結果を発表している。
http://www.swissinfo.ch/jpn/news/international/detail.html?siteSect=143&sid=9982711&cKey=1227011487000&ty=ti&positionT=4
この原因は、一つには地方の過疎化もあるが、ガソリン需要自体の低迷が大きい。資源エネルギー庁の石油統計速報によると、08年10月の燃料油の国内販売は1589万キロリットル、前年同月比86.9%と5ヶ月連続して前年を下回っている。原油価格は一時期の150ドル近くまで上昇したが、その後価格の低下が続いている。にも関わらず、この有様だ。次回の11月分速報が12月26日にあるが、せめて横ばいで、大きな改善は見込めない。今後もGSの減少は止まらないだろう。
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sekiyuso/result.html

新日石会長の危機感

新日石の西尾進路社長は08年6月2日、ロイターのインタビューに対し、1バレル当たり130ドルを挟む水準で推移する原油価格が日本の元売り業界に与える影響について、「本当に深刻。130ドルは危機的水準といえる。石油燃料が自滅する。とてもではないが、原子力等の他のエネルギーに勝てなくなる」「消費者の節約は当然起きる。自動車台数も減り、これからハイブリッド車や電気自動車が増えてくる。長期的な(ガソリン離れの)問題が心配だ」「2020年頃には、石油を取り巻く環境はかつての石炭のようになるのではないか、という考えを持っている。自動車用燃料の需要は今よりずっと速いスピードで落ちるかもしれない。」と強い危機感を示していた。
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-32063220080602?rpc=112
原油価格は08年7月には147.27ドルまで上昇、一時期は200ドルもありうるとの観測もあった。しかし、その後リーマンショックがあり、以降の原油価格は低下が続き、40ドル台まで急落した。しかしこれは一時的現象だろう。長期的に見ると、中国等での石油消費量増大などで原油価格は2020年には200ドルに上昇すると予測する見方が強い。国内で急速に若者の車離れが進んでくるし、人口も長期低下傾向は避けられず、新日石の西尾会長の心配はなお続くだろう。今回の合併も、短期的にはリストラ、長期的には脱石油に向け経営資源を集中するための布石といえる。

石油精製、GSで進む大リストラ

両社は経営統合後、大リストラを進めるらしい。両社合わせて1万3700ヶ所あるGSのうち少なくとも2000ヵ所以上を閉鎖し、計10ヶ所ある製油所の統廃合も進め2年以内に2割強減産するという。好況期であればともかく、現在のような不況期に、さらなる失業者の増加は日本経済にとって大きな打撃になる。

世界第8位のお寒い現状

今回の経営統合により石油会社としては、売上高で世界8位になる。しかし、世界第8位と言っても、石油製品の中の下流で商売しているため、油田経営、油田開発を収益の中心に据える海外石油メジャーからすると、収益力は格段に劣っている。産業界の一部には、経営統合により企業の経営基盤を強化し、油田開発も視野に入れてほしいという期待もあるようだが、どうだろう。そもそも近年、石油メジャーの地位低下が激しく、かつては世界の採油量の7割ほどを占めていたのが、原産国での民族意識が強まる中で、国営化が進み、現在は1割程度でしかない。むしろ新エネルギー開発に目を向けざるをえなくなっている。

石油元売り業界よりも深刻な石油化学業界

石油元売りに比べ、日本の石油化学企業の将来はさらに深刻だ。日本の石油化学企業は、ナフサを原料として石油化学製品を製造している。しかし産油国は、採油過程で発生するエタンを原料としてエチレンを生産する石油化学プラントの建設を積極的に進めている。これら採油の副産物ともいえるエタンにくらべ、日本の石油化学企業が原料として使っているナフサははるかに高価で、価格競争力では絶対的不利に置かれる。石油化学業界も生き残りに向け、大規模な経営統合が進んでいくものと言われており、ここでも大リストラが行われる可能性がある。
住友化学とサウジの国営石油会社サウジアラムコとの合弁で、サウジに新たな石油化学コンビナートを建設する。早ければ09年末にも着工の予定だ。(日経09.3.12朝刊) 09.4.13追加

プロピレン製造新技術で頭一つ出た新日石

石油化学製品としては、エチレンのほかにプロピレンがある。近年エチレンに比べプロピレンの需要が高まっている。世界のプロピレン生産の30%が、ガソリンの精製過程で生まれるプロピレンによって賄われている。ガソリン精製プロセスで、プロピレンは少量しかとれないが、最近この精製過程から、プロピレンを従来の4倍で収集する技術が開発された。この技術を開発したのが新日石なのである。今後こちらの技術開発も進め、生き残りを図っていくことになるだろう。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jpi/jp/aword/h18/kfupm.html

補遺・RING事業が統合を後押し

 新日石新日鉱経営統合合意の出発点は、06年に始まった水島コンビナートでの両社製油所の一体的操業であったと言われている。そして、これをもたらしたのが、00年5月設立された「石油コンビナート高度統合運営技術研究組合(Research Association of Refinery Integration for Group-Operation, 略称RING)」なのである。
 海外競争の激化から、一刻も早い高付加価値製品開発、生産効率向上が求められている。しかし一社単独での合理化には限界がある。そのため、複数製油所間や、製油企業と石油化学企業間で、一体的運営、共同開発を進め、これらの目標を達成することため、RINGが設立された。お約束事ではあるが、経産省から補助金が交付されることになっている。
 例えば水島地区を例にとれば、第1次計画(00−02年度)でコンビナート内設備の共同運用、操業情報の共有化、生産管理技術の開発などによる省エネ、効率の改善が目的とされた。第2次計画(03−05年度)では主として副生成物の高度利用が目指された。第3次計画(06−09年度)では、新日本石油精製ジャパンエナジー三菱化学旭化成ケミカルズ、山陽石油化学の5社が、コンデンセートを精製処理技術を共同開発することになっている。