武富士対メリルリンチ 武富士勝訴

既報の通り、武富士(現TFK)が金融取引で受けた約290億円の損失について、リスクの説明が不十分だとしてメリルリンチ日本証券などに損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が8月27日、東京高裁であり、難波孝一裁判長は、メリルリンチの説明義務違反を認め、一審の旧武富士敗訴判決を取り消し、メリルリンチ側に145億円(損害290万円に過失相殺5割)の支払いを命じた。
武富士は2002年に発行した普通社債の元利払いを銀行に引き受けてもらう代わりに、同額を信託する契約を締結。信託銀行に拠出した資金をメリルリンチが組成した仕組み債で運用していたが、米国のサブプライムローン問題の影響で評価が急落し、約290億円の損失を計上した、とのこと。具体的にはどのような仕組みだったのか。
新聞、雑誌記事から推測するに次のようなものだったのではないか。
武富士は、300億円の社債を発行していた。
武富士は、メリルリンチが作った特別目的会社に300億円を信託譲渡。
③この特別目的会社(SPV)が、当該300億円に、他からの融資を加え、仕組み債で資金運用。レバリッジは15倍。
④SPVは③の利益で①の社債の元利払いを行う。
武富士は300億円の元本償還分のみについて劣後的受託権を取得、優先的受益権は融資元が取得。
⑥運用が悪化し、優先受益権の資産を割りそうになると、トリガーが働き、信託終了。
⑥SPVの資産は、優先的受益者たる融資元への返済に殆ど当てられ、劣後的受益者たる武富士には殆ど回ってこなかった。

要は武富士がこの仕組み債のリスクをどの程度理解していたかということだが、武富士がこのスキームから得られる経済利益は大したものではない。だから武富士はローリスク商品と解釈したからこそ、ローリターンに甘んじものと思われる。ところが、メリルは、レバリッジをガンガン効かせ、高収益を目指した。リーマン前の時期だから、社債利回りをはるかに上回る利益を得るのに、さしたる苦労はないと考えてのことだろう。武富士はメリルから出資先がトリプルAと聞かされていた。実際トリプルAではあったのだが、サブプライム騒動で発覚するように、格付けがどんなにいい加減なものか、プロたるメリルリンチは分かっていたはず。
ただ、武富士側の過失が5割で済んだのは意外。武富士は一部上場で、莫大な社内留保を抱え、それなりに資産運用もしていたはず。もっと高率の過失が認められてもおかしくはなかった。

ところで、この難波裁判長。今月で勇退という噂。だからこそ、思い切った判決を書けたのではという評もある。もっとも、退職間際でないと、思い切った判決を書けない裁判所の空気にも疑問を感じる。