児童書読書日記

2016-05-26

[]『みんなの少年探偵団2』(有栖川有栖/他) 『みんなの少年探偵団2』(有栖川有栖/他)を含むブックマーク

江戸川乱歩の少年探偵団のスピンオフ短編集第2弾。こういう企画ですから、そりゃみんなメタに走りたくなるでしょう。少年探偵団シリーズの刊行時からすればかなり未来にスピンオフが企画されているという状況は、どうしてもメタを誘発します。

有栖川有栖の「未来人F」、未来人出してしまったら二十面相が怒るのも無理はありません。歌野晶午「五十年後の物語」も、七代目小林芳雄が出てくる時代の話であれば、そういうチートが出てきてもしかたないでしょう。

メタネタでもっともおもしろかったのは、坂木司の「うつろう宝石」。神様のように小林少年を見つめる明智探偵の目は、おそらく読者の目とも接続されているのでしょう。

ひとのこころは、うつろいやすいものです。そしてうつくしく、またおそろしいものです。

『紅の涙』の首飾りをめぐる事件は、これでおしまいです。けれど少年探偵団の冒険は、まだまだ続きます。

彼らを見つめ続ける、目がある限り。(p192)

大崎梢「闇からの予告状」は、別種の驚きを提供しています。となると、一番素直にスピンオフをしていたのは、平山夢明の「溶解人間」ということになるのでしょうか。

2016-05-19

[]『天と地の方程式』(富安陽子『天と地の方程式』(富安陽子)を含むブックマーク

天と地の方程式 1

天と地の方程式 1

天と地の方程式 2

天と地の方程式 2

天と地の方程式 3

天と地の方程式 3

富安陽子による学園異能SFが完結。これといい佐藤多佳子の「シロガラス」シリーズといい、実績のある作家が、自身が子どものころに好きだったであろうジュヴナイルSFテイストの作品を再現する試みが続いています。さらにあとに続く作家の登場が待たれます。

「天と地の方程式」は、日本の神話をモチーフとして、天ツ神に選ばれた超能力を持つ子どもたちが黄泉ツ神と戦う話です。キャラクターの個性、謎空間に閉じ込められて戦いを強いられる緊迫感、適度なオカルトうんちくなど見所が多く、バランスのよいエンターテインメントになっています。

タイトルに「方程式」とあるように、数学が作品の重要なモチーフとなっています。小学校高学年くらいからならなんとなく理解できるくらいのおもしろ数学ネタを繰り出して、素朴に「数学カッケー」と思わせるレベルに調整しているのがうまいです。その積み重ねの上にある、数学の天才Qと完全記憶能力者のアレイの連携が功を奏するラストバトルの展開には、きっと驚かされるはずです。

2016-05-12

[]『ふしぎ古書店1 福の神はじめました』(にかいどう青) 『ふしぎ古書店1 福の神はじめました』(にかいどう青)を含むブックマーク

新しい学校に転校してきたばかりの小学5年生文学少女東堂ひびきは、普通の人には見えない古書店を営んでいて自分は福の神だと名乗っている風変わりなイケメン青年レイジさんと出会います。レイジさんは惰眠をむさぼること(1日に26時間寝ることが目標)とカレーをそえた福神づけを食べることが趣味で、睡眠導入用に読むのと枕にするために本を集めているというダメ神さま。あろうことかひびきを無理矢理弟子(仮)にして、福の神の仕事を押し付け、3人の人間をしあわせにするよう強要します。学校で完全に孤立していて、前の学校でもなにかあった感じの空気をあからさまに出しているひびきには、大きな試練となりました。

救いを得るためには、まず自分が救いを求めていることを認めなければなりません。それが実は一番難しいことだったりします。日常のお悩み解決ものとしての重さは中の上程度。でも、身に覚えのある人にはかなり突き刺さる内容になっています。

ひびきが最初に手助けをすることになったのは、クラスのキラキラ女子秋山絵理乃。ひびきはストーカーに追われているという絵理乃をとりあえず古書店にかくまいます。そこで絵理乃は、イマジナリーコンパニオンテーマの傑作『ポビーとディンガン』を見つけて本を開かずにその一節を暗唱してしまい、彼女がキラキラ女子に擬態した読書オタクであったことがバレてしまいます。

本性がバレた絵理乃は執拗にひびきにつきまとってきます。絵理乃がオタクともだちにいかに飢えていたということがよくわかり、ほほえましいです。絵理乃はひびきを呼ぶときフルネームで「東堂ひびき」と呼びます。親しくしたいから本当は下の名前で呼びたいのに、まだ距離を測りかねて妥協案としてフルネームで呼ぶ奥ゆかしさも、またよいです。

一言でいえばこの作品は、「ともだちがほしい」というだけのことを語っている話です。それだけのことを本1冊かけて丁寧に描くのは、とても尊いことだと思います。

そしてすばらしいのは、そんな作品の小道具として『ポビーとディンガン』を選ぶセンスです。イマジナリーコンパニオンを持つ病身の子どもをめぐって人々の善意が結集する感動作である『ポビーとディンガン』は、この作品のテーマにも大きく関わってきます。それに、自分が生まれるより前に出たそれほど有名でない本を読んでいるふたりが同じクラスになるというのは、奇蹟にほかなりません。この出会いが運命であったということが、強烈に印象づけられます。

巻末におまけとしてついている読書案内のコーナーもすばらしいです。『ポビーとディンガン』を詳しく紹介しているのはもちろん、そこから辻村深月の『子どもたちは夜と遊ぶ』を紹介する流れのあざやかさ。著作権についての知識とか、ミステリの結末をばらすのは死罪に値するとか、あらためて教えてもらう機会をなかなか得にくい本読みの常識を自然な流れで啓発してくれるもの嬉しいです。

青い鳥文庫に楽しみなシリーズが、またひとつ増えました。

ポビーとディンガン

ポビーとディンガン

2016-05-05

[]『賢女ひきいる魔法の旅は』(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/アーシュラ・ジョーンズ) 『賢女ひきいる魔法の旅は』(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/アーシュラ・ジョーンズ)を含むブックマーク

ダイアナ・ウィン・ジョーンズが亡くなる前に9割方書いていた原稿を、DWJの妹で自身も児童文学作家であるアーシュラ・ジョーンズが完成させた作品。

由緒正しい賢女の家系に生まれた少女エイリーンは、賢女になるための穴ごもりの通過儀礼に失敗してしまい、落ち込んでいました。そんなとき、優秀な賢女である叔母のベックとともに魔法の障壁に囲まれている島に侵入する使命を与えられます。

魔法の障壁を破るという目的は物語のはじめからはっきりしているので、DWJ作品としては話の筋が追いやすい、初心者にも親切な設計になっています。魔法の障壁については、そんなものが実際にあったらどんな事態になるのかということが、わりと理屈っぽく考えられています。島のまわりに障壁があったら川の水が海に流れずあふれてたいへんじゃないかなんていうことを考えてしまう細かさとか、意外な方面から障壁の突破方法を発案する妙な合理性が楽しいです。

旅を続けていくうちに、DWJらしいくせ者揃いのキャラクターがどんどん増えていきます。そのなかでもこの作品では、島々の守護獣らしい動物キャラたちの個性が際立っています。とくに目立つのが、とても不細工なネコ〈ブチブサイク〉。

見たこともないほどみにくいネコが、柱から柱へ元気よくとびうつりながら、こちらへやってくる。毛は白っぽく、灰色のしまや斑点がはいっている脚がひょろひょろで曲がっていて、しっぽもヘビみたいにひょろ長い。平たい三角みたいな顔に対して耳がやたらと大きく見える。目も大きく、こわれた暖炉のところにあったタイルの青と緑がまざったような色をしていた。

(p80)

初登場シーンでここまでねちっこく容姿を描写される愛されっぷり。食い物をむさぼってばかりの無能ネコにみせかけて、ここぞという場面では重要な働きをみせてくれます。

アーシュラが「これは、はじめから終わりまで、まぎれもなくダイアナ・ウィン・ジョーンズの本です」と断言しているので、ファンは素直にそれを信じてよさそうです。(とはいえ、DWJガチ勢がバトンタッチのタイミングを検証してくれるならそれはそれで気になるので、識者の動向が注目されます。)

2016-04-30

[]その他今月読んだ児童書 その他今月読んだ児童書を含むブックマーク

アメリカ大陸の大部分が海底に沈んでしまったために多くの人々が海底への移住を余儀なくされてしまった世界を舞台とする冒険SF。海底人は発光性の魚を食べるため体が光るようになるとか、水圧の影響で超能力を持ったミュータントが生まれるとかいったホラが楽しいです。ただ、次々に繰り出されるSF設定はおもしろいのに、物語の魅力がそれに追いついていないきらいはあります。

平山夢明の実話怪談本からセレクトして児童向けにリライトした本。わざわざ平山夢明を起用するくらいですから、児童向けにマイルドなものを選ぶというようなことはなく、「蝶のバス」や「ロクちゃん」など、ファンであればタイトルを聞いただけで恐怖を思い出すようなインパクトの強い作品が収録されています。

ロシアの動物童話。著者が実際に子どもに語って聞かせた物語を本にしたものなので、ときどき作中人物がメタなことを言い出すのがおもしろいです。

中脇初枝が波多国(高知県南西部)四万十川周辺に伝わる昔話を再話した本。中脇初枝と同じく波多国で育った奈路道程によるイラストも味わい深いです。

中脇初枝が各話の解説で繰り返し、成功者のまねをして破滅するパターンの人に同情的なコメントをつけているところに、優しい人柄が出ていると思いました。

ミランダは古代ローマの貴族の飼い猫でしたが、戦乱の混乱の中で飼い主と離ればなれになり、保護しなければならない30匹あまりの子猫を抱えて厳しいサバイバルを強いられます。過去に生きず、後悔で時間を無駄にすることを嫌う猫らしい気質のミランダの、現実路線で問題を解決しようとする姿勢がかっこいいです。コロッセオの居住権を賭けて雌ライオンと対決する場面の緊迫感といったら。

子どもに身近な職業を題材にした創作童話シリーズの1冊。むかし近所に住んでいて仲良しだったお兄さんが交番勤務のおまわりさんになったので、その様子を目撃することになった主人公。しかしそこで見せられたのは、押し寄せるクレーマーたちにへいこらする過酷な感情労働の現場や、3日に1回は24時間勤務をしなくてはならないブラック労働環境でした。こういう、子どもに現実を突きつけていくスタイル、好きです。

ワンダー Wonder

ワンダー Wonder

顔に障害を持つ少年が普通校に入学したことによるあれやこれやを描いた作品、当事者やそれを取り巻く家族や同級生など多角的な視点から事態を描く手法で、感情の行き違いを感動的に演出する手つきはうまいです。しかし物語の最後で、ジュリアンというもっとも激しく主人公を差別していた生徒を退学させたことが、この作品の致命的な欠陥になっています。このことにより、「みんな本当はいい子、本当に悪いやつはあいつだけ、あいつさえ排除すればみんなハッピー」という結論になってしまい、ジュリアンを除く登場人物に感情移入してきた(ジュリアン視点で語られる章はない)読者を邪悪な差別者とは無縁な安全地帯に退避させてしまっています。この作品は、差別問題を自分のこととして考えたくない人向けの、よくできたエンターテインメントにすぎません。

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