児童書読書日記

2017-02-21

[]『ジョージと秘密のメリッサ』(アレックス・ジーノ) 『ジョージと秘密のメリッサ』(アレックス・ジーノ)を含むブックマーク

ジョージと秘密のメリッサ

ジョージと秘密のメリッサ

クローゼットに秘密を隠している子どもの物語です。主人公が隠しているのは、女子向けのファッション雑誌。主人公はみんなから男子だと思われていますが、自分も雑誌に出ている女の子のような格好をして、その仲間に加わりたいと願っていました。学校でおこなう『シャーロットのおくりもの』の演劇でシャーロット役を勝ち取ることで自分が女であることを周囲に認めさせようとしますが、さまざまな困難にぶちあたります。

多数派の善意は少数派にとっては暴力でしかないということが、この作品を読むとよくわかります。学校の先生は「あなたは、きっとすてきな男性になれるわ」と、感受性の鋭い主人公を褒めます。母親は子どもがなにか悩みを抱えているらしいことを察して相談にのろうとしますが、「なにがあっても、ママに話してだいじょうぶよ。(中略)あなたはいつまでも、わたしのかわいい息子よ。それは絶対変わらないわ」と、事情を知っている読者からみれば最悪の発言をしてしまいます。

がさつなようで気のいい兄のスコットや、女子の親友のケリーの存在は救いになっていますが、それでもなかなか本質的な問題は理解されません。スコットは主人公が隠しているのは"やらしい雑誌"だと早合点して、母親には秘密にすると約束します。ケリーは悩んでいる主人公の助けになると思ってフェミニズムの話をしてあげますが、これも的外れです。

主人公は自分が女であるということには迷いを持っておらず、医術的な措置を受けたいというはっきりとした希望を持っています。物語の序盤でテレビに出ている女性の「わたしはトランスジェンダーの女性で、わたしの足のあいだになにがあるかは、わたしとわたしの恋人以外の人には関係ない」という発言を出すことで、作品のPC的立場も早い段階で明確にしています。そのため、いかに自分が自分であるということを身近な人たちに認めさせるかというところに、物語の焦点は絞られます。あれもこれもやろうとせず、シンプルに物語の道筋を打ち出したことが、作品の成功の大きな要因になっています。

小説ならではの演出で主人公を祝福したラストシーンは、解放感に満ちていて読者の心を強く揺さぶります。

このようなテーマの優れた児童文学はまだまだ少ないので、小中高の学校図書館にはぜひ入れておいてもらいたいです。

2017-02-14

[]『ひいな』(いとうみく) 『ひいな』(いとうみく)を含むブックマーク

ひいな (創作児童読物)

ひいな (創作児童読物)

カバーの、紫色に光る題字が目を引きます。

寂れた駅に飾られ、ほとんど人から顧みられない雛人形の物語。官女のタエはこれ以上零落しないように、女雛の濃姫に雛人形の本来の役割を果たせと迫ります。雛人形の本来の役割って……。

人間の身代わりになるように迫るタエと、「いーやーじゃー」「ムリじゃ、ムリムリ」とだだをこねる濃姫の主従コントが楽しいです。なんやかんやあって濃姫と契りをかわすことになった小学4年生の女の子由良は不幸体質で、川に落ちたり釘を踏んだり。その痛みの大部分は濃姫が引き受けることになります。

誇り高い濃姫が由良を見守るために憑依するのはハエ。ハエは身体能力が高くどこにいても怪しまれないので憑代としては優秀なのですが、ハエたたきを持った人間に追いかけられたりといったひどい目にもあわされます。中盤までは濃姫の受難っぷりに笑わせてもらえます。

由良の方は家庭にいろいろ事情を抱えていて、中盤からは雛人形を介した家族再生の物語に発展していきます。

基本的に物語はドタバタだけど、どこかもの悲しさもあるところ、往年の児童向けユーモア小説のような味わいで好ましいです。

ただし、人格を持ったひな人形が人間に奉仕する存在として設定されていることと、「必要とされて、愛されることで、満たされる。人も、人形も、同じ」という共依存的な思想は、若干危ういように感じられました。

2017-02-07

[]『消えたスクールバス』(ダグマール・ガーリン) 『消えたスクールバス』(ダグマール・ガーリン)を含むブックマーク

1977年に刊行された西ドイツの児童文学。邦訳は1982年に佑学社から刊行されました。中部フランスの、10軒ほどしか民家がない小さな村プルメリ村で、子どもたちを町の学校に連れて行くスクールバスが行方不明になるという集団失踪事件が起こります。

物語は、どうということのない村の夜明けの場面から始まります。陶器工場で働く男クサビエがいちばんに目を覚まして家の外に出て子どもの学費のことに思いをはせつつ、村の厄介者バルタザールが自転車で朝霧に包まれた橋を渡っていく様子を見送るといった、生活感のある描写に引きこまれていきます。しかし、村の人間が大人も子どももダメ人間クズ人間ばかりだということがすぐに明らかになり、読者のプルメリ村に対する印象は、絶対行きたくない限界集落だというところに落ち着きます。

村に住んでいる外部の人間は小学校の先生だけでした。この先生は村に知性のある人間は自分だけだと思い上がっていて、都会の学校に異動したいと切望していましたが、村の人間が教育委員会に先生を残すよう嘆願書を毎年出すので異動できず、10年以上不本意な生活をしていました。村の人間は村の人間で、別に先生を尊敬しているわけではなく都合のいい飼い犬扱いしていて、逆らうと村の商店で食料を調達できないようにして兵糧攻めで従えるという鬼畜な所業をします。

こんな村の夏休み明け、数人の子どもが上級学校に上がって、スクールバス通学をすることになります。すると村の学校の生徒数が激減し、先生はこれ幸いと勝手に廃校を宣言してしまいます。学校がなくなると子どもたちが暇になり、好き勝手に遊び始めます。すると……と、玉突き事故方式・風が吹けば桶屋が儲かる方式で騒動が拡大し、スクールバス失踪という大事件に発展していきます。

人間の描き方・コミュニティの描き方・社会の描き方がシニカルで辛辣で、読み応えの作品でした。

2017-01-31

[]『怪談収集家 山岸良介と学校の怪談』(緑川聖司) 『怪談収集家 山岸良介と学校の怪談』(緑川聖司)を含むブックマーク

霊媒体質を見込まれて怪談収集家山岸良介の助手にされた少年高浜浩介の受難の物語「怪談収集家」シリーズの第3巻。今回浩介は、山岸良介不在のなかで学校の怪談に立ち向かうことになります。

今巻で登場する怪異のひとつ傘女は、「赤い傘がいい? 青い傘がいい?」という選択を迫ってきます。赤い傘を選べば傘で刺され血まみれになって死に、青い傘を選べばやはり傘で刺され失血により青くなって死んでしまいます。両方の傘をもらって自分が傘女に成り代わるという選択肢もあらかじめ怪談のかたちで提示されていますが、もちろんこの回答は間違っています。

第3巻の浩介はすでにある程度怪談のパターンを学んでいるので、いままでの経験から対処法を考え出そうと苦心します。それは、怪異側の仕掛けるルールの裏をいかにかくかという、頭脳戦となります。その思考の過程を楽しむのが、第3巻のポイントです。

ただし浩介は、いままでの経験で間違った学習もしてしまっています。第2巻で「バケモノにはバケモノをぶつけるんだよ」という策を山岸良介から学習した浩介は、それを実践しようとしてしまいます。

第2巻の刊行は偶然『貞子VS伽椰子』の公開時期と重なっていたため、ちょっとおもしろいことになっていました。浩介も『貞子VS伽椰子』をみて、策に溺れた者の末路を学習しておけばよかったのに。

さて、この「怪談収集家」第3巻のもっとも大きなサプライズは、次回予告にありました。「本の怪談」シリーズとあわせて長いシリーズとなりメタにメタを重ねてきた緑川聖司の怪談は、優れた怪談論であると同時に、優れた物語論にもなっています。この次回予告により、緑川聖司の壮大な試みへの期待がさらに高まりました。

2017-01-27

[]『あしたがひっこし』(新冬二) 『あしたがひっこし』(新冬二)を含むブックマーク

『あしたがひっこし』

風がびゅうびゅう吹いて窓ガラスががたがた音を立てる何となく寂しい冬の朝、小学4年生のキヨシの家に黒いレインコートを着た二人組の男が突然訪問してきました。刑事だと名乗る男は、この家がキヨシの父が転勤中の友人ヤスイ君から借りているものだということを聞き出し、「そのヤスイさんっていう人が、もしもどってくると、こまりますね」と、意味ありげなことを言います。そして、先月《ミニー》という洋菓子店でケーキを買ったかという、意図のわからない尋問をして去っていきます。

この、一気に日常を揺さぶってくる導入に引き込まれます。この3日後、男が予言したかのように、ヤスイくんからもうすぐもどるという手紙が来て、一家は引っ越ししなくてはならなくなります。

その後休日は家探しに奔走することになりますが、父親にやる気がなく、家を探すために出かけたはずが海を見に連れて行かれたりして、なかなか落ち着き先が見つかりません。そうこうしているうちに不審者に家をのぞかれるという事件が起き、だんだんと不穏な空気が高まってきます。

都市にはいくらでも家があるのに、自分たちが住めると家はどこにもないという孤独感。物語の要所要所で冷たい風が吹き、不安を煽っていきます。

ホラーじみた超常現象や大きな犯罪が起こるわけではありませんが、作品世界の不穏さは尋常ではありません。当たり前のように享受している「住む」という営みが失われてしまうかもしれないという不安、現代を舞台にした児童文学ではあまり見られないテーマが、とても味わい深く料理されている作品です。

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