児童書読書日記

2016-06-30

[]『すべては平和のために』(濱野京子) 『すべては平和のために』(濱野京子)を含むブックマーク

「あなた方は、平和を望んでいますか?」

「いったいなんだい? その平和って。」

(p125)

グローバル企業が世界各地の紛争の調停を行い、世界平和を目指しているという近未来を舞台にしたディストピアSFです。そのグローバル企業の系列会社である〈平安コーポレーション〉の社長令嬢平井和菜が主人公を務めます。彼女は南洋の島国アイロナ共和国からの独立を目指すマナト特別市の要請を受け、紛争の調停に乗り出します。正体不明のテロリスト〈モロフ氏〉が暗躍するアイロナで彼女が目撃したのは、日本にいては想像もつかないような光景でした。

この世界における平和の白々しさを即座に読者に印象づける導入がうまいです。白々しいタイトルを掲げ、〈平安コーポレーション〉の白々しい企業理念を冒頭に配置することで、この作品世界の〈平和〉がいわゆる〈平和〉ではないのだということがすぐに理解できるようになっています。主人公の名前も意味深長で、〈平井和菜〉の名前を並びかえると〈平和ない〉、その兄〈平井和也〉を並べかえると〈平和いや〉となります。ここで父社長の願望を暗示しているあたり、芸が細かいです。また、令嬢がご学友と語り合う序盤の場面で、この近未来は格差社会を取り越してもはや身分制になっているということをさりげなくほのめかしているのもいやな感じです。

この作品は、上野瞭の「ちょんまげもの」をひっくり返したような構造になっています。上野瞭が現代を過去のディストピアに仮託して語ったのに対し、『すべては平和のために』は現代を近未来のディストピアとして語っています。この手法が高い娯楽性を持つということは、上野瞭が証明しているとおり。徐々に明かされる世界のディストピア感におののきながら、読者は先へ先へとページをめくることになるでしょう。

2016-06-23

[]『くらやみ城の冒険』(マージェリー・シャープ『くらやみ城の冒険』(マージェリー・シャープ)を含むブックマーク

英国動物ファンタジーの傑作が、渡辺茂男の名訳そのままで岩波少年文庫入りしました。

ご存じのように、ねずみは、囚人のよき友です。あなかがすいていなくても、囚人といっしょに、かわいたパンくずをかじったり、さびしい時間をすごしている囚人を、ほがらかにしてやるために、自尊心の高いねずみなら考えもしないような、ばかげた悪ふざけのお相手をつとめたりするのです。

(p11)

〈囚人友の会〉なるねずみたちの秘密組織の会議の場面から、物語はスタートします。ねずみが囚人を助けるためのボランティア活動をしているという、まことしやかで魅力的な嘘の世界に瞬く間に読者を引きこんでいく導入部の、なんと巧みなことか。

この会議の議題は、〈くらやみ城〉というおそろしい牢獄に閉じ込められたノルウェーの詩人の救出作戦でした。この作戦を成功させるためには、まずノルウェーに赴きノルウェーのねずみをスカウトして、囚人と意思疎通する手段を得なければなりません。そこで白羽の矢が立ったのが、大使のぼうやに飼われている高貴なねずみミス・ビアンカでした。ちょうど大使が飛行機でノルウェーに発つところだったので、ミス・ビアンカも旅行かばんに入って同行することになりました。

この作品の魅力は、なんといっても個性的なキャラクターにあります。ミス・ビアンカは気位が高くてナチュラルに口が悪いという欠点を持っていますが、そのかわり勇敢さと機知もふんだんに持っています。仲間のねずみが凶悪なねこにとらわれている緊迫した場面が一番の見せ場で、彼女は舌先三寸でねこをだまして危機を脱してしまいます。

その脇を支える実直な家ねずみバーナードと、〈あらくれ第一級〉の船乗りねずみニルスも、物語を盛り上げます。

冒険小説としてのおもしろさも一級品です。ぼうやのミニチュアのモーターボートでの船旅の爽快さ。近づけば近づくほど髑髏の数が増えていく、〈くらやみ城〉への道の不気味さ。なかなか事態の打開の糸口を見つけられない、〈くらやみ城〉潜入後の焦燥感。場面場面で読者の感情を的確に煽り、冒険の世界の楽しさを満喫させてくれます。

ということで、この傑作が岩波少年文庫に収録されて新しい読者を獲得することは大変喜ばしいです。ただ旧読者として一言だけ、ハードカバー版のデザインはものすごくかっこよかったのだということを申し添えておきます。

2016-06-16

[]『ふしぎ古書店2 おかしな友だち募集中』(にかいどう青) 『ふしぎ古書店2 おかしな友だち募集中』(にかいどう青)を含むブックマーク

「ふしぎ古書店」シリーズの第2弾。孤独な文学少女東堂ひびきが、謎のイケメン福の神レイジさんから与えられた「誰かをしあわせにする」という試練をクリアして、ついでにキラキラ女子擬態文学少女の秋山絵理乃という無二の親友を得たのが1巻までの内容です。2巻では、福の神の弟子(仮)の(仮)がとれ正式な福の神の弟子になったひびきが、またも不思議事案がらみの面倒ごとに巻き込まれます。

第1話のネコマタの人捜しの依頼を受けるエピソードは、少量のミステリ要素もある小粋な美談としてうまくまとまっています。第2話は死に神(見た目イケメン青年だが、実年齢は不明)に片思いしている貧乏神(見た目中学生女子だが、実年齢は不明)の恋の悩み相談を受ける話です。こちらも、ほほえましくて心温まる話になっています。

問題は第3話です。他人の悩み事を解決していたひびきが最後に自分自身の問題を突きつけられるという構成は1巻と共通しており、なかなか胃が痛くなります。ひびきは友だちを得てしまったために他人から向けられる悪意への耐性が低下してしまい、以前ならなんとも思わなかったはずの陰口が原因で寝込んでしまいます。孤独な人間が救われることは、なんと難しいことか。人類なんか戦争で滅亡すればいいと願っていたネコマタや、自分のことが嫌いで「わたしが、わたしじゃなければ、よかったのに」と思っていた貧乏神と同じ心性を自分も持っていたということを、ひびきは自覚してしまいます。

しかし、ひびきの性格で一番よくないのは、天然のタラシ体質であることです。「東堂ひびきのまえでは、じょうずに、かっこつけていたい」と身構えている絵理乃に、「絵理乃ちゃんは、ちゃんと、かっこいいよ。いつも、かっこよくて、かわいい」とナチュラルに言ってもてあそんでしまう空気の読めなさが怖いです。この2人は1回、本気で痴話喧嘩をすべきだと思います。

2016-06-09

[]「くるみの冒険」全3巻(村山早紀「くるみの冒険」全3巻(村山早紀)を含むブックマーク

くるみの冒険1魔法の城と黒い竜

くるみの冒険1魔法の城と黒い竜

くるみの冒険2万華鏡の夢

くるみの冒険2万華鏡の夢

くるみの冒険3竜の王子

くるみの冒険3竜の王子

風早の街を守るローカル魔女っ子天野くるみの活躍を描いたファンタジー「くるみの冒険」が完結。1巻は2009年、2巻は2010年にフォア文庫童心社)から刊行されており、しばらく新刊が出ていませんでしたが、今年になって既刊と新作がハードカバー版で刊行され、めでたく全3巻でフィナーレを迎えました。

この作品の魅力は、作中に頻出する言葉を借りれば、「魔法っぽい」ところにあります。トランクの中の妖精国、たくさんの命を持つ妖精猫、風早の街を滅ぼそうとする巨大な闇色の竜、願い事を叶えてくれるという17年周期の彗星、それから、おいしそうなお茶とか、様々な植物でいっぱいの庭園とか。非日常の世界への憧れを体現するようなきらびやかなものがたくさん配置されている、宝石箱のような世界になっています。

そして、「科学という名の翼」も村山ワールドの「魔法っぽい」ものとして忘れてはなりません。世界中の魔女が人間のテクノロジーを介して秘密のネットワークを作っているという状況など、魔法にほかなりません。文明の負の側面は指摘しながらも、科学技術のすばらしさ、科学技術を発展させた人間のすばらしさをうたいあげるところも、村山作品の魅力です。

そうした「魔法っぽい」世界の楽しさ美しさをちりばめつつ、シリーズは祈りと幸福の物語としてきれいに完結しました。

正直なところ、これだけのシリーズがたったの3巻で終わってしまったことを残念に思う気持ちはあります。しかし、不思議とあまり寂しさは感じません。それは、風早という街が確固とした存在感を持っているため、語られることがなくても、くるみやケティが風早のどこかで活躍しているということは容易に想像できるからです。

2016-06-02

[]『逃げてゆく水平線』(ロベルト・ピウミーニ) 『逃げてゆく水平線』(ロベルト・ピウミーニ)を含むブックマーク

東宣出版の叢書「はじめて出逢う世界のおはなし」のイタリア編は、現代イタリアを代表する児童文学作家ロベルト・ピウミーニのショートショート集です。奇想天外な発想で軽妙に社会を風刺するような作品がたくさん収められています。

「ナバラの決闘」は、禁止されてる決闘をしていた貴婦人が、これは剣を使って編み物をしてるのだといいわけをしたことから、《編み物式決闘》が貴族の間で大流行するという脱力ギャグ。「数の勉強」は、指を使った数の数え方を大人が子どもに教えているうちに、実は子どもの指の数が多かったということが明らかになるという、かなり危険な発想で差別者をバカにした作品になっています。

このように、奇抜だけど想像しやすい視覚的イメージでナンセンスを突破し、ファンタジーの底力を見せつけるのがピウミーニの持ち味のようです。

そういった意味で一番面白かったのは、「トウモロコシの中の老人」です。これは、トウモロコシの山のはいった納屋に立てこもってトウモロコシのパワーを吸い取ることで不老不死を手にした老人の物語です。老人を殺せないことに腹を立てた死に神が八つ当たりで暴れ回ったので、老人は周囲のみなさんにたいへんな迷惑をかけてしまいますが、それでも不死を手放そうとしません。しかし、難攻不落のトウモロコシの要塞が、まさにそれがトウモロコシであったために崩壊の時を迎えてしまいます。このあざやかな崩壊劇の爽快なこと爽快なこと。

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