児童書読書日記

2017-04-25

[]『封魔鬼譚2 太歳』(渡辺仙州) 『封魔鬼譚2 太歳』(渡辺仙州)を含むブックマーク

封魔鬼譚(2)太歳

封魔鬼譚(2)太歳

北宋の道士が妖魔と戦う「封魔鬼譚」シリーズの第2弾。福州の大富豪周得達の屋敷で、七日おきに人が頭の中身を抜かれて怪死するという不可解な事件が続きます。周得達は肉塊にたくさんの目玉のついた妖怪太歳の呪いだと思いこんで、高名な少女占星術師碧紫仙子に祈祷させますが、その際中に密室で同じように殺されてしまいます。1巻の事件で白鶴観の道士となった李斗と先輩同士の花蘭は、この連続殺人事件の解決のために福州に派遣されます。

道士たちは、実体のない霊的なものの存在を認めていません。周得達の息子たちも合理主義者で、呪いの存在を信じていません。碧紫仙子の性格占いがパーナム効果を利用したインチキであることを、先輩道士の花蘭はすぐに見抜いてしまいます。登場人物は近代的な合理主義者ばかりで、世界には不思議なことはない設定になっています。このシリーズは〈ホラーファンタジー〉と銘打たれていますが、このような設定から、むしろ本格ミステリに近い楽しみ方もできるようになっています。

ところが、先輩道士の花蘭は冷め切っているのに、李斗はおもしろいように碧紫仙子にたぶらかされてしまいます。やがて李斗の純粋さに心を打たれ碧紫仙子も改心しますが、物語は悲劇の方向に加速していきます。このあたりのベタな悲恋の描き方もうまいです。このシリーズ、ホラー・SF・ミステリに濃密な衒学要素をまぶしている盛りだくさんの内容なのに、各要素が不調和を起こさず、きれいなエンタメとしてまとまっています。この匙加減は絶妙です。

ここで、設定まわりを簡単に確認しておきましょう。この北宋では、朝廷の軍事機関が開発した生物兵器が脱走したものが妖魔として暴れ回っていました。それを退治する(というより、葬り去って軍事機密を隠匿する)のが、道士の役割となっています。道士も好きで朝廷に従っているわけではなく、なんらかの弱みを握られている者が多いようです。

李斗は、人間の人格や記憶や肉体をコピーする能力を持つ〈封魔〉という妖魔に殺されています。そしてその〈封魔〉が李斗をコピーして、李斗になりかわっています。この李斗は、はたして本当の李斗といえるのでしょうか。パーフィットの火星電送装置の思考実験のような、難解な設定です。この難問がどう処理されるのか、シリーズの今後を注意深く見守る必要があります。

〈封魔〉としての力を解放すると、人としての李斗の意思ではそれを制御することができず、暴走してしまいます。そんな力を使って、李斗は自分と同じ立場の朝廷につくられた怪物たちと戦っていかなければなりません。ダークヒーローとして非常においしい設定を、李斗は持っています。ヒーローものとしての今後の展開も楽しみです。

2017-04-18

[]『封魔鬼譚1 尸解』(渡辺仙州) 『封魔鬼譚1 尸解』(渡辺仙州)を含むブックマーク

封魔鬼譚(1)尸解

封魔鬼譚(1)尸解

渡辺仙州による北宋ゾンビSFです。主人公は超人的な記憶力を持つ天才少年李斗。豪商の第二夫人の息子で、正妻の子である弟との跡目争いで面倒くさい立場になっており、家出しようかと悩んでいました。町中では死んだはずの人間が人を襲うという事件が起きていました。李斗も被害にあってあっさり死亡、ゾンビ化(?)してしまいます。

李斗はゾンビ現象を、仙人が霊胎となって肉体の外に出る〈尸解法〉のようだと考えます。しかし、未知の寄生生物を利用した強化兵士をつくる実験が事件の背景になったことがわかり、物語はSFの様相を呈してきます。また、死体から人格のコピーを生成したらそれは本人になるのかという、SF的な問題も浮上していきます。

尋常でない博学さを背景に、中国ゾンビや東洋の導士と西洋の錬金術師の対決といった大ボラを展開する豪腕は、渡辺仙州ならではです。

キャラクターの造形もおもしろいです。味方になる少女道士の花蘭は、奸計で敵をはめたりピンチになったらを自分を巻き込んだ李斗を呪い殺してやるとわめいたりする考えが読めない危険人物で、読者をおびえさせてくれます。李斗と同じくゾンビにされてしまった少年楊月はすっかり性格がひねくれてしまってトリックスター的な暗躍をするようになり、こちらも予想しがたい行動で楽しませてくれます。

元は2001年の第1回エニックスエンターテインメントホラー大賞で佳作をとり出版に至らなかった作品ですが、時間がかかっても優秀な娯楽作品が世に出たことは喜ばしいです。

2017-04-11

[]『水の森の秘密』(岡田淳『水の森の秘密』(岡田淳)を含むブックマーク

1994年の『ふしぎな木の実の料理法』から始まった「こそあどの森」シリーズが、全12巻で完結。森の地面から水がわきだして、森全体が水没するという大事件が起こります。

大洪水というエピソードですが、悲壮感や終末感はあまりありません。むしろ、それぞれの家や森が新たな相貌をみせる楽しい面の方が強調されています。

まるでこうなることが最初から想定されていたかのように、それぞれの家が大活躍します。スミレさんとギーコさんのガラスびんの家は、コルク栓をはめられることで水中要塞と化し、さらに水没した森の様子を一望できる水中ミュージアムにもなります。

そしてスキッパーのウニマルは、本物の船となり浮上します。回想シーンのバーバさんは、洗面器と陶器のボウルと小石を使った簡単な実験で、ウニマルが浮上する仕組みをスキッパーに説明します。ここのわかりやすさとワクワク感、岡田淳は小学校の先生としてもとても優秀だったのだろうということをうかがわせます。

冒頭部分のプニョプニョタケというキノコの料理法が開発されるエピソードは「ふしぎなキノコの料理法」であり、第1巻をなぞったものになっています。そしてラストは、スキッパーの今後の生き方の方向性が確定したように読めます。このあたりをみると、きれいに幕が引かれた感じはします。とはいえ、森や住人たちに大きな変化があったわけではなく、続けようと思えばいくらでも続けられるラストでもあります。あくせく生き急がないことがこのシリーズの美点ですから、実に「こそあどの森」らしい終わり方であったように思います。

2017-04-04

[]『ふたりユースケ』(三田村信行『ふたりユースケ』(三田村信行)を含むブックマーク

ふたりユースケ

ふたりユースケ

「あたしは、おとなの勝手な思い込みと願望で子どもがおもちゃのようにいじくりまわされるのがいいとは思わないのよね」(p182)

三田村信行が現代を舞台にした不条理ホラーを出すのは、けっこう久しぶりな感じがします。父親の仕事の都合で上須留目という集落に引っ越すことになった11歳の少年小川勇介の受難の物語です。

この集落は昔は栄えていましたが50年前の地震がきっかけで衰退しており、過去の栄光にすがってプライドだけが肥大した住民が幅を利かせていました。そこに大川雄介という神童が生まれ、集落に再び栄華をもたらす救世主として期待を一身に浴びていました。ところが大川ユースケは川で溺死してしまいます。その二年後に大川ユースケに外見も名前もそっくりな小川ユースケが現れたので、住民たちは神童の生まれ変わりであるとあがめ、小川ユースケを大川ユースケの身代わりにするため英才教育を施す〈大川ユースケ化計画〉という、地域ぐるみの児童虐待プロジェクトをはじめます。

小川ユースケがはじめて上須留目にきてバスに乗っていると、老婆たちがユースケを指さしてぺちゃくちゃうわさ話をします。この場面で、たいへんなところに来てしまったということがすぐに印象づけられます。さすが三田村信行、こういう薄気味悪い演出はお手のものです。

ユースケも期待されることには悪い気はせず、すこしは周りの大人を喜ばせてやりたいという善意も生まれてきます。そこにつけこむ大人たちのいやらしいこと。大人の身勝手な教育欲が暴走すると、それは洗脳や児童虐待と同じになってしまいます。

実は虐待被害者は小川ユースケだけではく、初代ユースケもひどいプレッシャーに押しつぶされていたのだということが、だんだん明らかになってきます。その初代ユースケが自分だけの秘密の退避場所を〈ほっとスポット〉と名づけていたことが不穏で、このあたりを掘れば作品の闇がさらに深まりそうです。

2017-03-31

[]その他今月読んだ児童書 その他今月読んだ児童書を含むブックマーク

森の石と空飛ぶ船 (偕成社ワンダーランド)

森の石と空飛ぶ船 (偕成社ワンダーランド)

「カメレオンのレオン」シリーズとリンクしていたり、『選ばなかった冒険』を思わせるモチーフが出てきたりと気になることが多く、考え始めると深みにはまりそうです。

少年Nの長い長い旅 02 (YA! ENTERTAINMENT)

少年Nの長い長い旅 02 (YA! ENTERTAINMENT)

「少年Nのいない世界」1巻を読んでいる読者はこの異世界の姿や音色の運命をすでに知っているわけですが、こっちも意外と早く物語が動いたという印象を与えられます。この異世界について野依が、「かつていた世界と〈同じ〉」であると感じる場面が何度もあるので、これが人工的な異世界である可能性が浮上してきました。

若者を不健全図書の沼に引きこむというたいへん意義深い活動をおこなっている「文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション」シリーズ第3弾のテーマは恋。編者の東雅夫広辞苑の恋の定義を引いて、恋の対象は本来身近にいない人、死んでしまった人であり、さらに恋の相手は人間でなくてもかまわないのだと説明します。ということで、鯉や片腕(収録作はこちら)が当たり前のように恋の対象となる、自由な世界が展開されます。

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