児童書読書日記

2017-05-26

[]『ぼくのとなりにきみ』(小嶋陽太郎) 『ぼくのとなりにきみ』(小嶋陽太郎)を含むブックマーク

ぼくのとなりにきみ

ぼくのとなりにきみ

「朝日中高生新聞」2015年10月4日号から2016年3月27日号に連載されていた作品。中学1年生3人組が古墳で偶然見つけた暗号を手がかりに宝探しをする話です。と、物語を大枠だけを紹介すると冒険ミステリのように誤解されてしまいそうですが、実際語られるのは地味な日常のエピソードの集積です。その地味さが実によいあんばいなのです。

主人公のサクは、いままであまり関わったことがなかったけど一緒に暗号を解くことになったチカのことがだんだん好きになってきます。でもなかなかあだ名で呼べなかったり、勉強を教えると物覚えの悪いチカにいらだってしまったりと、微妙な感情の揺れをみせます。

サクが振り返るちょっと昔の思い出も味わい深いです、宝探しのメンバーである親友のハセとの小学校時代のあれこれとか、低学年のころ才能がないのに元水泳選手の父親に水泳を習わされていていやだったことか。中1という現在の年齢と小学校時代の距離が近いようで遠くて、その距離感が切なさを感じさせます。

宝探しグループ以外で魅力的なキャラクターは、サクが所属する美術部の竹丸先輩です。あまり絵がうまいわけではないけど、好きな文房具の絵ばかり描いている変わり者の先輩です。キャンバスを張るが好きでキャンパスを張って剥がすのを繰り返すという謎の作業の楽しさをにこにこしながら教えてくれます。しかし、こんないい先輩がいるのにサクはすぐに幽霊部員になってしまいます。気の合う人がいても集団から離れてしまうこともあると、まあそんなものだよねというリアリティのあるエピソードです。

サクの名は「正太郎」というちょっと古風なものでした。そこに「ハセ」というあだ名が並び、さらに山にある古墳を探索しているので「山中」というワードも出てくるので、ハカセのことが思い出されるなあと考えながら序盤を読んでいました。すると、三人組が結成されたときに「なにかをするときはだいたい三人組って決まってんだ。ズッコケ三人組しかり、ハリー・ポッターしかり」とハセが口走る場面に遭遇しました。こうなるともう、ハカセのことを意識してこの設定がつくられたとしか思えなくなります。サクは勉強はそこそこできるけどこれといった取り柄のない子で、ちょっと考えすぎてしまうハカセ的な心性を持っています。この作品は、ハカセ(及びハカセに肩入れするような心性を持った子ども)に捧げられているのではないでしょうか。

2017-05-23

[]『ふしぎ古書店5 青い鳥が逃げだした!』(にかいどう青) 『ふしぎ古書店5  青い鳥が逃げだした!』(にかいどう青)を含むブックマーク

「ふしぎ古書店」シリーズ第5弾。今回は短編が2本収録されています。

ひとつめの「しあわせは、青い鳥とともに」は、本の中から逃げ出した青い鳥を探す話です。ひびきはその様子を、「ぎっしりと文章がならんでいるなかに、かわいらしい青い鳥ののイラストを発見した。「青い鳥」っていう文字ではなく、イラストなんだなって思った」と、冷静に報告しています。文章がぐちゃぐちゃになっているなかを青い鳥が動き回る様子にワクワクさせられます。本の中身が暴走し文字が躍るという妄想は本好きなら必ず一度はするものですが、そういうところを拾い上げるあたり、やはりこのシリーズはよくわかっています。

ひびきは青い鳥の行方を捜すにあたって、そもそもなぜ物語の結末で青い鳥は逃げてしまったのかという疑問を抱きます。レイジさんは、ひびきにこのような助言を与えます。

メーテルリンクが、なぜ、青い鳥を逃がす結末をえらんだのか、ぼくには、わかりません。ただ、作者の意図したことだけが、作品のすべてではないと思うのです。読んだひとの数だけ、物語は生まれます。ですから、作品の解釈に正解はないんじゃないでしょうか。」

つまりレイジさんは解釈合戦をうながしているわけです。青い鳥の行方探す推理は、『青い鳥』の解釈をでっちあげる遊びに発展していきます。まったくこのシリーズは、子どもに悪い遊びばかり教えてけしからんですね。

第2話の「月曜日が来ない!?」は、タイトルからわかるようにループものです。ここで思い出されるのは、タイムリープが起きていた番外編の『七日目は夏への扉』です。「ふしぎ古書店」シリーズの読者は、この物語世界には神様もアヤカシも存在することを知っているので、そういう超常現象が起こること自体には疑問を感じません。しかし、誰がこの現象を起こしたのかということは謎のままになっていました。

この短編で、この物語世界のアヤカシはわりとカジュアルに時間操作をおこなえることが明らかになります。となると、でタイムリープを起こした容疑者が無数にいることになってしまうので、犯人を特定するのが難しくなってしまいます。困ったことになりました。

2017-05-19

[]『大林くんへの手紙』(せいのあつこ) 『大林くんへの手紙』(せいのあつこ)を含むブックマーク

クラス全員で不登校の子の家に押しかけて手紙を渡すという、正気とは思えない地獄イベントが序盤に発生します。このインパクトで、一気に作品世界に引きこまれてしまいました。

小学6年生の文香は、「ウソの作文」を書くのが得意で、さほど苦労せず先生を喜ばせることのできる読書感想文などをでっちあげることができる子でした。しかし、ある作文で苦労させられることになります。それは、不登校の大林くんに宛ててクラス全員で書くことになった手紙です。ほかの子は自分の気持ちを書けているのに自分だけウソしか書けなかったと思った文香は、とりあえず「いつかちゃんとした手紙を書きます」とだけしたためたたった1行の手紙を郵便受けに入れ、その後しばらく大林くんについて思い悩むことになります。

文香は別に薄情な子だというわけではないのでしょう。同年代の子よりも高いものを求めているがゆえに自分は劣っていると思いこんでいる、そんなタイプの子のようです。そもそも文香と大林くんにはほとんど接点はなく、ただたまたま同じクラスになったというだけの他人でしかありません。手紙を書く義務はあっても義理はないのです*1

この物語は、「大林くんが学校に来なくなった理由が判明して問題が解決してみんな仲良くなってハッピーエンド」という方向には進みません。大林くんの内面は不可視なので、文香はそのわからなさに向き合うしかありません。

そこで手がかりになるのが、演技であり、真似をすることです。文香の母親は歴史マニアで、文香は母親につきあって「ござる」口調で話したり聖地巡礼に行ったり戦国時代の茶菓子を試食したりしています。そこから学んだのか、文香は大林くんの席に座って、大林くんが見ていたのと同じ「景色」を見ようともくろみます。ここで非常に即物的でささやかな発見が生まれます。このささやかさが絶妙です。他人のことを理解することはできないけれども、かすかな共感を持つことはできるという希望が説得力を持って描かれています。

文章もものすごく研ぎすまされている感じがします。175ページの短さで、ほぼ1文ごとに改行されているので、ボリュームは少ないようですが、密度が濃いです。たとえば、児童が書いた手紙を先生がチェックする場面はこうなっています。

「はい、いいですよ」

先生が言うと、言われた子はほっとしたように自分の席に戻った。先生が手紙を大きな封筒にしまう紙の音が、ぱさり、と教室に響く。

ぱさり、ぱさり、という紙の音。そして、席に戻る子たちの足音。

先生が怖いとはっきり書かれているわけではないのに、この描写で先生が支配的で教室が静まりかえっている寒々とした様子が、的確に伝わってきます。声高ではないのに饒舌。これは並みの筆力ではありません。

派手なわけではないのに、奇妙な迫力を持っている作品です。

*1:この距離感が作品を成功に導いているようにも思えます。クラスには大林くんに片思いをしていて、毎日はがきを送りつけるというストーカーまがいの行動をしている女子がいるのですが、こちらを主人公にせずこのような熱情を客観的に冷静に見られる立場の人間を主人公に据えたことにより、ほどよい作中の温度が成り立っているようです。

2017-05-16

[]『七時間目の怪談授業(新装版) 』(藤野恵美『七時間目の怪談授業(新装版) 』(藤野恵美)を含むブックマーク

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

オカルト現象を楽しく語りつつ科学リテラシーに目を向けさせる作風で00年代児童文学に大きな成果を残した「七時間目」シリーズの新装版が刊行されることになりました。第1巻の『七時間目の怪談授業』に続き、第2巻『七時間目の占い入門』第3巻『七時間目のUFO研究』も2017年中に刊行される予定になっています。

期限内に転送しないと呪われる呪いのメールを受け取ったはるかは、そのケータイを学校の先生に没収されてしまいます。はるかは事情を先生に話しますが、先生は呪いをまったく信じず、取り合ってくれません。それでも抗議を続けると、先生に「こわい」と言わせるような怪談をクラスの誰かが披露できれば返すという条件を与えられます。こうして、放課後の怪談授業が始まります。

子どもの考える怪談に対する先生のみもふたもない対応が笑えます。自分には霊感があってオーラがみえるのだと吹聴している女の子に対しては、視力が落ちているから眼鏡を買えという、まったく正しい教育的指導を行います。

怖い話を考えるうちに、はるかの興味はお話を作ることやお話で人の心を動かすことの楽しさに移っていき、呪いのメールへの恐怖は次第に薄れていきます。「こわい」を「たのしい」に変換する手つきがみごとです。こうした構成で、さりげなく合理的に物事を考えることの楽しさに子どもを導いていきます。

そして、「たのしい」に導いたあと最後に本当に怖いものを子どもに突きつける容赦のなさも、この作品の魅力です。あまり語られていませんが、死の恐怖を直截に語っているところが、「七時間目シリーズ」の児童文学として大きな成果です。『怪談授業』におけるそれはまだ「他人の死」ですが、第3巻『UFO研究』では、「自分の死」という本質的な問題に踏み込んでいきます。

00年代児童文学最高の収穫のひとつであったこのシリーズが、新装版の刊行を機にさらに読者を増やすことを期待します。

以下、新装版の修正点について簡単に触れておきます。

新装版と旧版を手に取ってみるとすぐにわかりますが、ページ数が30ページほど減っています。本文はかなり削られています。漢字も新装版の方が開かれているので、より低学年の子どもにも読みやすいように配慮するという方向で改稿されているものと思われます。

内容に関わるような大きな変更点はありませんが、宿題のページ数が変わる*1といったような意図が予想しにくい細かい改稿もあり、相当熟慮して改稿したのであろうことがうかがわれます。

新装版では2巻の主人公のさくらがはるかの塾の友達であったという設定が追加されているので、そこに関する加筆がいくつかあります。

新装版74ページあたりの、学校図書館で怪談をよく読んでいる子を見つけるシーン、旧版ではニューアーク式の貸し出しカードを手がかりにしていましたが、ここが修正されています。この貸し出し方式はプライバシーの観点からいまでは不適切であるとされているので、この修正は妥当でしょう。

*1:新装版では10ページ。旧版では「四三ページから四六ページ」だった塾の宿題が、新装版では「二十六ページまで」になっている。

2017-05-12

[]『牛乳カンパイ係、田中くん 天才給食マスターからの挑戦状!』(並木たかあき) 『牛乳カンパイ係、田中くん 天才給食マスターからの挑戦状!』(並木たかあき)を含むブックマーク

「牛乳カンパイ係、田中くん」第2弾。田中くんが給食マスターを目指している理由が亡母の遺志を継ぐためであったことが明らかになったり、失敗すると永久に受験資格を失ってしまう給食マスターになるための試験を受けることになったりと、一気にシリアス度が増してきました。

3回の試験のうち1回だけでもクリアできれば合格なのに、田中くんは2連続で惨めな敗北を喫します。田中くんが優秀な給食の達人であることは1巻ですでに証明されていますが、焦りやプレッシャーのせいで本来の力を出し切ることができなくなっています。ここまで田中くんを追い込むとは、1巻のおバカ展開からは予想できませんでした。

物語が重苦しいだけに、随所に入れられるギャグの役割もさらに重要になってきます。試験に失敗したあと田中くんが牛乳を飲んだくれてくだをまくギャグなんかは、シリアスをうまく緩和させてくれます。一方で、上履きのにおいをかいでキレた難波ミナミが田中くんを叱りとばすギャグは、シリアスを引き立てる方向に機能しています。

食を提供する者は思いやりを持てというメッセージ性は明らかなので、説教くさいといえば説教くさいです。しかし、思いやりを漠然としたものとせず、具体性を持たせているので説得力は高いです。すなわち、アレルギーへの配慮であったり、食べられる量の違いへの配慮であったり。人はみんな違う人間なのだというところに目を開かせる教育性は重要です。

ギャグとシリアスの配分がうまく、直球のメッセージを巧みに娯楽として落としこんでいる、得難いエンターテインメントです。

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