児童書読書日記

2017-01-20

[]2016年の児童文学 2016年の児童文学を含むブックマーク

日本児童文学のアンダーグラウンドに脈々と流れる暗黒ファンタジー・暗黒SFの系譜。そのなかでも芝田勝茂の『夜の子どもたち』(福音館土曜日文庫・1985)は、独特の存在感を放っています。夜間外出禁止条例のある不穏な空気の町で信仰されている〈カレルピー〉と呼ばれる宗教的存在の謎にカウンセラーの青年が迫るという、斬新な設定の作品でした。1990年に装丁・イラストが一新された福音館創作童話シリーズ版が刊行され、1996年には大幅な加筆訂正が施されラストも大きく変化したパロル舎版が刊行され、話題を呼びました。そして2016年、「せたたま小学校」シリーズ第3作として『夜の子どもたち』の第4形態が姿を現し、アングラ児童文学ファンを驚かせました。

この『戦争ガ起キルカモシレナイ』では、『夜ノ子ドモタチ』という本は作中の作家が事実を元に書いた小説だというメタな設定が導入され、現代の子どもがまた別のアプローチで謎に挑むことになります。30年以上前の作品が何度もアップデートされているということ、ある有名な心理学者をモデルとした人物が悪役として登場すること、戦争児童文学であること、ファンタジーであること、ジュヴナイルSFであること、さまざまな読みの可能性を秘めています。「語られるべき」という観点でみれば、これが2016年の最重要な作品です。

出れば必ず年間ベスト級の傑作になることが約束されている福音館祖父江関西SF作家シリーズ*1田中啓文が登場。文章のリズム感がすばらしく、紙の上で落語の酩酊的な笑いの世界を再現することに成功しています。、

なりたて中学生 上級編

なりたて中学生 上級編

ひこ・田中の「なりたて中学生」三部作が完結。進学に不安を抱いている小学校高学年の子どもに向けて中学校生活をシミュレーションしてみせるという趣向の作品です。と同時に、集団行動や部活動の不気味さ、組体操で子どもを苦しめて喜ぶ保護者といった、学校の闇に鋭く斬り込んだ社会派児童文学にもなっていました。拒否することのできない「おまけ」という観点からの部活動についての考察には、納得させられます。

社会派児童文学といえば、菅野雪虫の「女神のデパート」シリーズにも注目する必要があります。老舗デパートの社長が倒れたため小学生の娘が社長に就任させられるという設定で、衰退社会になってしまった現代日本の姿が描かれます。異世界や過去を舞台にしたファンタジーの形式で社会派児童文学を書き続けてきた菅野雪虫が、現代を舞台にどのような物語を展開していくのか、先が楽しみです。

百年後、ぼくらはここにいないけど

百年後、ぼくらはここにいないけど

地理歴史部という地味な部活で百年前の渋谷のジオラマ作りという地味な活動をしている地味な中3男子の物語。この作品は地味であることが肝で、その地味さのなかからドラマ性を発掘するテクニックがうまいです。地味な日常に倦んでいる中学生男子にアピールできる貴重な作品です。

梨屋アリエの久しぶりのYAは、連作短編『きみスキ』の続編です。新キャラの思いこみの激しいストーカー少女を暴走させ物語はコミカルにスタートしますが、だんだん他人の内面のみえなさといういかんともしがたい闇に踏み込んでいきます。主役を務める善良な中高生たちの抱える悩みや問題が根本的に解決されることはありません。ハッピーエンドを迎えることなくそれぞれの日常は続いていきます。この苦いリアリズムが、読者の胸を刺します。

飛び込み台の女王 (STAMP BOOKS)

飛び込み台の女王 (STAMP BOOKS)

スポーツエリート校に通い飛び込み競技に取り組んでいる女子を主人公としたドイツの児童文学。主人公のナージャは飛び込みの天才であるカルラに心酔していて、カルラに隷属しているかのような行動をしています。しかし、カルラが飛び込みに行き詰まったことから、ふたりの関係は破綻していきます。死の気配が濃密に漂う学園のなかで緊張感たっぷりに描かれるふたりの関係性の危うさに、読者は圧倒されます。

お笑い芸人志望*2の中学2年生すいすいが、昭和アイドルみたいな奇抜な格好をした転校生のるりりと組んで芸能界を目指す話。コンビであっても、相手のことを100%理解することは不可能です。るりりの家庭環境などを知って自分はるりりのことをなにもわかっていなかったということを理解してから、すいすいはさらにるりりを求めるようになります。軽妙なギャグとシリアスな背景を一体化させ関係性の機微を描く、令丈ヒロ子の職人技が凝縮されたような作品になっています。

心に闇を抱えた文学少女東堂ひびきが、福の神の弟子として人助けに勤しむ話。大切な友だちとの出会い、大人の敷いたレールへの反抗、善意と幸福感に満ちた世界と、正統派児童文学に求められる善きものがたくさんつめこまれた作品です。もっとも注目すべき2016年の新人は、にかいどう青で間違いないでしょう。

ところで、にかいどう青はライト文芸レーベル講談社タイガで、「ふしぎ古書店」シリーズとリンクした『七日目は夏への扉』という作品も発表しています。講談社タイガでは講談社YA! ENTERTAINMENTと連携した石川宏千花作品も刊行されています。児童文学ともっと上の年齢向けの小説を繋ぐ試みがこれから広がっていくのか、今後の動きを見守っていく必要があります。

七日目は夏への扉 (講談社タイガ)

七日目は夏への扉 (講談社タイガ)

2016年5月28日、末吉暁子が亡くなりました。ファンタジーの形式で母と娘の確執を描いた『星に帰った少女』(偕成社・1977)やシングルマザーの自立をユーモラスに描いた『ママの黄色い子象』(講談社・1985)など、時代をリードする記念碑的な作品をたくさんものした作家でした。

忘れてならないのは、がんこちゃんという国民的人気キャラクターを育てた功績です。2016年の大晦日に「『ざわざわ森のがんこちゃん』放送20周年スペシャル エピソード0〜ざわざわ森とさばくのひみつ〜」が放映されました。

『ざわざわ森のがんこちゃん』が人類滅亡後の砂漠化した地球を舞台にしたポスト・アポカリプスSFだというのは有名な話ですが、この「エピソード0」は、タイムスリップしたがんこちゃんが人類滅亡寸前の砂漠でふたりきりで暮らしている兄妹に出会う話となっています。厳しい環境で生き残るために感情を持たないように教育された子ども、砂漠の砂となって消えていく人類*3といった、日本児童文学の闇を凝縮したような恐ろしい物語に大晦日のお茶の間は凍りつき、2016年の締めくくりとなりました。

*1福音館書店から出ていてブックデザインの祖父江慎タイポグラフィ芸を炸裂させていて関西SF作家が執筆している、『どろんころんど』『鈴狐騒動変化城』『シンドローム』あたりの作品群を指す。だれか、いい略称を考えてください。

*2:このほか、青い鳥文庫で継続中の「温泉アイドル」シリーズ、著者初の一般向け小説『ハリネズミ乙女、はじめての恋』(KADOKAWA)と、家族とお笑いをテーマにした作品がいくつも刊行されました。2016年は令丈ヒロ子を語る上で重要な年のひとつになりそうです。

*3:参考資料『砂のあした』

2017-01-17

[]『ふしぎ古書店4 学校の六不思議!?』(にかいどう青) 『ふしぎ古書店4 学校の六不思議!?』(にかいどう青)を含むブックマーク

孤独な文学少女だった東堂ひびきは、用意された運命に反逆して大切な友だちと居場所を守りきりました。これで東堂ひびきの試練は一区切りついたので、しばらくは読者の胃を痛めるようなつらい展開はないはず。楽しい楽しい「ふしぎ古書店」シリーズ、第4巻で実質第2部スタートとなりました。

シリアス展開はひとまず終わったので、第4巻は楽しい方面のシリーズの魅力が増強されています。そのひとつは、読書の楽しさ、物語の楽しさを子どもに伝える「沼」としての側面です。

4巻第1話は、学校の七不思議をめぐる謎を解く、暗号ミステリです。読者をミステリ沼に引きずり込むために緻密に設計された、優秀なミステリになっています。みんなでわいわい言いながら暗号を解く探偵団ごっこを愉悦を、ひびきと親友秋山絵里乃ともうひとりの軽妙な会話で、疑似体験させてくれます。ひびきを絶対的な探偵役とせず、最後の詰めを甘くして犯人当てを外させたのも、親しみやすさを出すためにはいい演出です。読者の方にはかなり印象的なヒントが与えられているので、探偵役を出し抜く楽しみまで味わわせてもらえます。ここで紹介される本が、テキストとビジュアルで初歩からミステリの楽しみをレクチャーしてくれる『くろて団は名探偵』であるのも、いつもながらみごとなチョイスです。

また、怪談は「つくり話」であるとしてその功罪について考察している点も、物語というものの奥深さを伝えるいい材料になっています。

4巻第3話は、逃亡した金魚妖怪をおびき寄せるため、友だちを集めてミニ百物語をする話。ちょうどハロウィンの時期だったので、ひびきは『魔女の宅急便』のキキ、絵里乃は『ふしぎの国のアリス』(の二次創作の『おとぎの国のエリノちゃん』)のコスプレで参加して、愉快なハロウィンコスプレ怪談パーティーになります。

この金魚妖怪の正体は、山東京伝の『梅花氷裂』の藻之花です。福の神のレイジさんは、「少々、刺激が強いお話ですので」と言って、その詳細を語りません。でも、いまの時代インターネットを使えばすぐに情報を得ることができます。これは作者から読者への、「知りたければ自分で調べよう」という目配せにほかなりません。こうやってさりげなくちょっと辛口なお話に誘導し、物語の「沼」に引きこもうとする手口のいやらしいこと。

「沼」への誘導と並ぶ4巻の魅力は、幸福を描く児童文学であるという点です。怪談パーティーのあと、絵里乃はひびきに、自分はいま幸福の絶頂にいるのだということを告白します。

「今日のあたしは、明日には消えちゃうと思う。明日のあたしは、もう今日のあたしじゃいられない。(中略)でも、今日があるから、明日があるわけで、だから、『今日』をなくしちゃいたくない。大事にする。明日の『今日』も、明後日の『今日』も……。っていうか、こんなすごい『今日』を体験してる小学生、ほかにいないよ。こんなの、小説みたいじゃん。あたし、いま、アリスみたいだもん。東堂ひびきは、まるで、キキみたいだし、これ、すごいことだよ。」

(p228)

異常にテンションの上がったふたりは、「わーっ!」と叫んで駆けだしてしまいます。『今日』は失われることを前提としていながらも前向きな、かなしいまでの幸福感。大人になることを前提としている絵里乃とは言っていることは正反対ですが、ピッピとトミーとアンニカが大人にならないことを誓いあったあの「ピッピ」シリーズのラストシーンが髣髴とされます。ここまで痛切に哀切な読後感を残す児童文学はめったにありません。

さて、このまま楽しく幸せな物語が続くのか、それともまた新しい試練が訪れるのか。どちらにせよ、このシリーズが青い鳥文庫史上・児童文学史上に残る重要な傑作になることは、すでに確定しています。

2017-01-13

[]『14歳』(小林深雪/他) 『14歳』(小林深雪/他)を含むブックマーク

14歳 1 (ビッグコミックス)

14歳 1 (ビッグコミックス)

じゃなくて、

〈YA! アンソロジー〉の新刊。特におもしろかった作品をいくつか紹介します。

「つくし薬局のカレーパン」安田夏菜

歴史ある女子校の園芸部の生徒が地面を掘り起こしていたところ、何十年も熟成された黒歴史を発掘してしまいます。それは肝油ドロップの箱に入った、サナトリウムに入院することになったお姉さまにあてたラブレター。エス小説ワールドが現代によみがえります。

現代で起こる事件も、学園の王子さまが零落するという、ベタといえばベタな物語です。しかし、この時代を越えたふたつの虚構のあわいには、吉屋信子が仕込んだ真実の毒が継承されています。すなわち、同性愛は異性愛の代わりではないということ。ここをはっきりと明言して政治的正しさを確保していることが、この作品の成果です。

「ぼくと師匠の夏」如月かずさ

厳しい受験勉強に倦んでいた少年が、神社でジャグリングをしているお姉さんと出会う話。子どもを新しい世界に導き、自由をもたらしてくれるものはなんなのか、それは「勉強」にほかなりません。あまりに当たり前すぎておおっぴらに語りにくいことをきちんと語ってみせた誠実さに好感が持てます。

2017-01-10

[]『まっしょうめん!』(あさだりん) 『まっしょうめん!』(あさだりん)を含むブックマーク

まっしょうめん! (偕成社ノベルフリーク)

まっしょうめん! (偕成社ノベルフリーク)

海外赴任中の父親が人気取りで「自分の娘はサムライガールだ」という適当な嘘をついてしまったので、証拠写真を撮るために無理矢理剣道を習わされることになったかわいそうな小6女子の話です。

主人公の成美が入った剣道教室の監督は、勝ち負けにこだわらない方針でした。スポーツは勝敗を競うものと思いこんでいた成美は、監督のいう勝ち負け以外の価値観や「必死さとはちがう強さ」をなかなか理解できず、試合で相手の反則を誘って勝とうとしたり、一本取ったらガッツポーズをしてしまって一本取り消されたりと、空回りします。

「剣道は、武道なんだ。もとは、武士が真剣、つまり本物の刀で斬りあいしていたのを、いまは竹刀でおこなっている。おまえは、相手が血まみれで自分の足もとに横たわっていても、ガッツポーズができるか?」

(p98)

この作中における剣道は、少なくとも成美の通っている道場においては、勝ち負けのない世界で子どもを守り育もうとする大人が管理している、優しい世界になっています。しかし、この世界はそんな優しい世界ばかりではありません。

能天気に海外生活を満喫しているようにみえる父親のいる大人の世界は、剣道の優しい世界とは違います。父親の仕事が〈カイゼン〉であることは、序盤から明かされています。つまり業務の効率化であり、人件費削減・人員削減です。偽物のサムライガールの父親が実は本物の人斬りであったという冗談は、笑うに笑えません。辛辣なブラックユーモアのセンスを持った新人の登場を歓迎したいです。

また、大人ばかりでなく子どもであっても、自分が安全な世界にいると感じられなければ、弱肉強食の世界に身を投じざるを得なくなります、成美は以前、そんな子どもの被害者になった経験がありました。このエピソードが、被害者側に立っても加害者側に立ってもリアルに痛くて、読者はかなりいやな気分にさせられます。

成美の一人称語りはゆるいのですが、成美が現在いる優しい世界と厳しい世界は容易に交錯しうるという現実が徐々に明らかになるので、作品世界には絶妙な緊張感が漂っています。この緊張感は、子どもの置かれている現実をうまく反映しているように思えます。

2017-01-06

[]『あやしの保健室1 あなたの心、くださいまし』(染谷果子) 『あやしの保健室1  あなたの心、くださいまし』(染谷果子)を含むブックマーク

おいでなさいまし。だれもおりませんことよ。わたくしと、あなただけ。さあ、聞かせてくださいましな。話したいことが、おありでしょう? うふっ。

新任の養護教諭という設定の正体不明の妖怪奇野妖乃(あやしのあやの)先生が、悩みを抱えた児童に副作用つきの妖怪アイテムを投与するという話。

奇怪なお嬢様言葉を使いこなす妖乃先生のキャラクターが楽しいです。妖乃先生の目的は子どもたちの「やわらかな心」を収集することです。なので、基本的に子どもの悩みを解決してやろうという親切心は持っておらず、行動原理は愉快犯のそれです。妖乃先生は学校に通った経験がなく、ただ人間ごっこ・教育者ごっこができるのが楽しくてたまらないようです。「うふ、我ながら教育者らしいセリフですこと」とか「あら、教育者らしからぬ発言でしたかしら。でもたまには、本音もよろしいですわよね」とかいった無責任発言が、彼女の得体の知れなさを印象づけます。

妖乃には、子どもどうしで遊んだり、けんかをした経験がない。学校には行けなかったし、他人がこわかった。だけど、いや、だからこそ、あこがれた。むきだしの、やわらかな心に(p173)

第1話で妖乃先生は、ダンスのうまい親友に嫉妬する女子から嫉妬の火種が具現化したニワトリを奪い取ります。女子はすべての悩みから解放されて涅槃の境地に至り、「もう、なにも、ないよ。」で締めくくられるハッピーエンド。この第1話で、妖乃先生はかなりたちの悪い妖怪ではないかという疑惑を、読者は植え付けられることになります。

第3話は、同調圧力の比喩としてメトロノームの同期現象を使った作品で、かなり怖いです。擬音が効果的に使われていて、メトロノームのリズムで幻想世界に引きこんでいく技巧がうまいです。

最終的に妖乃先生の思惑に関係なく子どもたちは勝手に育っていって、妖乃先生の方も心を奪い損ねたことにさほど執着していないようなので、結果だけをみれば妖乃先生は悪い妖怪ではないようにみえなくもありません。しかしその真意はまだよくみえないので、今後の活躍が気になります。

HIZGIによる、適度にハイセンスで適度にバッドセンスなダークkawaiiイラストも魅力的です。

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