「百まいのドレス」(エレナ・エスティス)

百まいのドレス

百まいのドレス

百まいのきもの

百まいのきもの

 1954年刊行の石井桃子訳による名作「百まいのきもの」の50年ぶりの改訳新版が出ました。なにより石井桃子がまだ現役だということが驚きです。彼女はこの3月で100歳の誕生日を迎えることになります。いつまでも長生きしてもらいたいですね。
 「百まいのドレス」を持っていると言い張り、学校でからかわれているまずしいポーランド移民の少女ワンダの物語です。ですが、物語はワンダ学校へ来なくなるところからはじまり、主人公不在のまま進みます。
 ワンダをからかっていた側にいた少女マデラインは、そのきっかけになった出来事を思い出します。それはあまりに些細な出来事で、からかいが日常化するにはたくさんの悪意は必要ありませんでした。
 実はこれが一番やっかいな問題です。いじめにしろ差別にしろ加害者の側が悪意を持ってやっているのであれば話はわかりやすのですが、人間は悪気なしにこういう事ができてしまうのです。
 加害者の側に立ってしまった少女の心の動きを追いつつ、低学年の子供にもわかる平易な言葉で問題をときほぐしていくことに成功した貴重な作品です。改訳を機にさらにたくさんの読者を得られますように。