「インセプション」 "Inception" 2010年 アメリカ

 「メメント」「ダークナイト」のクリストファー・ノーラン監督の最新作。これは間違いなく傑作だ。
 「メメント」で一気にブレイクしながら、次作「インソムニア」がずっこけてしまい、一発屋というか大物俳優を使えないか大作が撮れない監督という印象を持ってしまったが、新バットマンシリーズで見事に大作を撮り切れるようにレベルアップしたノーランが、本来の味である「時間をバッサバッサ切り貼りしてみるものの記憶力に喧嘩を売る」スタイルが大作にうまくアレンジできて爆発した感じがする。
 「メメント」を見た時のように、「インセプション」を観た日はそれ以外考えられなくなる。それほど強烈に印象に残る作品だ。
 ディカプリオや渡辺謙も出ているので要チェック。ディカプリオは「シャッターアイランド」と役柄が若干似ているが、こっちの方がよっぽどいいね。
 映像よし、アイデアよし、俳優よし、脚本よしと見事な作品だ。


 あらすじ
 コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、人の頭の中に入り込み頭の中からアイデアを盗みとる能力を使って企業スパイ業を営んでいた。しかしある日サイトー(渡辺謙)からアイデアを盗もうとしたときに捕まってしまう。サイトーはコブに対してライバル会社のトップの頭に入り込み、アイデアを盗むのではなく、間違ったアイデアを植えつけること(インセプション)はできないかと持ちかける。
 インセプションには危険が伴う。しかしサイトーがコブに提示したある条件によりコブはインセプション計画の実行を決心する。
 <ここからネタバレの可能性あり!!>
 コブはインセプションの為に、ロバートの頭の中に入りこむ。それも通常の夢のなかではなく、夢の中の中の中まで入り込もうとする。中まで入り込むことでより抽象化されたイメージとなり、自我の中でもより中心であり、根本である部分なため、そこに植え付けられたイメージは本人にとって無意識に、しかしイメージの源泉であるがために逃れられなくなるのだ。
 なぜそれを実行できると思ったのか?それはコブ自信が妻のモルに対して実行したからだ。モルとコブは昔、夢の中でふたりだけの理想的な空間を作り続けた。実際の世界を作り出すことは、現実と夢の境界をなくしてしまうため非常に危険なことだった。結果、モルは夢の世界と現実の世界が逆転し、現実の世界を生きることが辛く、常に夢の世界に閉じこもろうとしてしまう。
 それを救うべくコブはモルのさらなる奥の夢まで潜入し、インセプションを実施した。それはいつも夢か現実化を区別するためにモルが使っていたアイコンを利用したもので、「これは現実ではない」というイメージを植えつけたのだ。その作戦は成功し、モルは夢から覚めるために夢の中で自殺した。
 しかし、夢からさめてもインセプションは有効に働いてしまい、現実に戻っても「これは現実ではない」という思いに押しつぶされ、ついに現実の世界でも自殺をしてしまう。それ程にインセプションとは強烈なものだった。
 ロバートは夢の中でアイデアを盗まれることを防止するための特殊な訓練をとっていたため、苦戦し、またサイトーの負傷により時間がなくなってしまったことから、予定よりもさらに奥へと向かうことになってしまった。無事作戦は成功し、ロバートはオヤジとの和解する。それは自立心の芽生えであった(しかしそれはロバートの企業の分裂・崩壊の始まりを招くためのトラップであることに気づかずに)…
 作戦は成功し、サイトーによってロブは無事にアメリカに戻れたかに思ったが、ふと回したコマは止まらなかった…
 このコマは果たして本当に止まらないのか、どうなのかはハッキリとは描かれない。つまり観たほうが自由に判断しろということなのだろう。でもそれがどういう意味を成すのか。もしこれが夢だとするとディカプリオが単純に虚無に落ちただけではなく、サイトーをはじめロバートまで無事に戻れたかどうかの保証までなくなってしまう。どちらを信じるかは見るもの次第。でも、最後のあのシーン。何年もたって、あの家に家族が住み続けるものだろうか?あそこにたどり着いたのは、それが唯一ロブが帰りたい場所だったから、つまりそれはイメージなんじゃないかという気がしてならない。