違法着うた封じとしてのダウンロード違法化


前回のエントリを書いたと思ったら、日本レコード協会から以下のようなリリースが出た。

前エントリで触れた調査の2007年版である。調査結果の主なポイントとしては以下のようだという。

・ 違法サイトの認知・利用率
違法サイトについて、全体の82.5%が認知し、37.1%が利用している。また、10代において違法「着うたフル」のダウンロード曲数が大幅に増加している。
・ 違法サイトへの音楽ファイルアップロード経験率
違法サイト利用者のうちのアップロード経験率は14.0%である。
・ 違法音楽ファイルの推定ダウンロード数
年間で約3億9,900万ファイル以上と推定され、直近1年間(2006年10月〜2007年9月)の有料「着うた(R)」・「着うたフル(R)」ダウンロード数の3億2,700万回を上回る。


内容の細かい分析・批評・批判については、以下のページが大変詳しいので、私から付け加えられるところはほとんど無い。heatwaveさんは調査結果の肝である違法着うたの総ダウンロード数の算出法について疑問を呈され、慎重に調査の半数程度ではないかと推測されている。RIAJは合法な着うたの実数を別資料でも発表しているので、それとの整合性がどの程度かを査定することで、この調査のサンプリングの検定になるかもしれない。

時期的に最近のダウンロード違法化の議論の流れに合わせて出て来た調査のような気がするが、昨年の調査もほぼ同じ時期に行われているので偶然と考えた方が自然だと思う。議論に影響を与えたければ、一月程前倒しした方が効果的だったはずである。とはいえ、この調査結果で権利者側のダウンロード違法化への意思がより堅くなることは間違いないだろう。



それにしてもダウンロード違法化が行われれば違法着うたは減るだろうか?



刑事罰が無いとすれば、これは要するにユーザーの遵法精神に期待するということではある。だが、そもそも現行法制上、無許諾の著作物のアップロードは明確に違法だが、ダウンロードに違法性を問うことができないというようなことは、世間的に見るとかなりトリビアルな知識ではないか。大半の人たちが既に「違法だ」と認識した状態で行動しているのではないだろうか。未成年の喫煙に法的な可罰制が実は無いということを承知した上で煙草を吸っている高校生なんてほとんどいないということと同じように。


だとすれば、ダウンロード違法化が行われてもあまり効果は望めないということである。権利者側としては適法マークの表示などの啓蒙活動を行うとしてはいるが、同様の理由でそれが効果を上げるともあまり思えない。



だからダウンロード違法化なんて意味が無いという主張をしたい訳ではない。にもかかわらず、これほどダウンロード違法化に固執するのは何故かという話だ。


そこで「適法マーク」とやらについて考えてみる。それが単にサイト上に表示されるGIFアイコンのことであれば、そんなものの実効性はどう考えてもたかが知れているだろう。だが、それに基づいてアクセスコントロールを行うとすれば話は違う。


例えば日本レコード協会が、電子証明書の発行を行う。適法な着うたサイトに適法マークの掲示許可とともにそれを証明する電子証明書を与える。そして、携帯キャリアにはその電子証明書によって認証されるサイトからのデータだけが着うたとして登録できるような端末・ネットワークの構築を要請する。


PC主体のインターネットではこんなアクセスコントロールはほとんど不可能だが、着うたという携帯電話に閉じられた範囲なら可能だ。合法な着うたサイトには既に契約関係が存在しているから、適法マークの発行も特に手間無くできるはずである。あとはDoCoMoさんとauさんとsoftbankさんとWillcomさんお願いしますねという具合。


しかしこうした技術的な対策なら法改正は別に必要ではない。現行法制下でもできることだし、法が整備されたら実効性が上がるというものでもない。だが、こうした対策をとることに携帯キャリアが現状で消極的であるとすれば、それを説得するための材料としてダウンロード違法化は強力な梃子になるだろう。



特に根拠の無い推論なので、これ以上あまり発展させても仕方がないのだが、せっかくなのでダウンロード違法化に反対するならどういう戦術が可能かということにも触れておこう。


個人的に着うたを使用しないので冷たい言い方になるが、違法着うたについてはすっぱり諦めてしまうということが前提になる。


一つ目の戦術は、違法着うた狙い撃ちの法改正にとどめるというものだ。無許諾な着うたのダウンロード違法化については認めてしまって、しかしその範囲で限定して、PC側のインターネットには敷衍しないという痛み分けを狙うわけだ。問題は、そんな恣意的な法の構成が可能かということだが、私には分からない。


もう一つは、上記に挙げたような方法によって技術的に解決できるのだから、法改正は必要ないと主張することだ。同時にこうした対策をとるように携帯キャリアに働きかけることも必要だろう。


ただし、これによって失われるものもある。例えば、現行の音楽業界に属さないオリジナルな音源を着うたにすることはほとんど不可能になるかもしれない。あるいは、各地にある交響楽団著作権切れのクラシックを着うたにして自サイトで配布するといったこともできなくなるかもしれない。だが、私はもともと携帯電話のネットワークという閉鎖的な空間にあまり魅力を感じていないので、割にあっさり諦めがつくのである。



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