あのニート君の出所となったテレビ番組のニート特集その2

yodaka2005-03-28

今日、小倉智昭氏が司会する朝の情報番組「とくダネ!」のワンコーナー「とくダネ!特捜部」においてニートの特集が20分ほど放送された。この番組は去年もニートを題材にしており、「働くと負け」という至言を放ちネット上を騒然とさせたいわゆるニート君の出所となった番組である。今回は運良く録画できたのでできるかぎり文字起こししてみる。

「先週火曜日、内閣府から驚くべき数字が発表された」というナレーションから始まり、内閣府中間報告「若年無業者に関する調査」の会議の模様が映しだされる。「学生でもなく、仕事もせず、職業訓練もしていない若者。いわゆるニートと呼ばれる人々が全国で85万人もいるというのだ」とナレーションは続く。『85万人ニートたちの本音 「働けない」「学べない」』というテロップが出ている。

ここで前回の取材の様子が流れる。来た! ニート君だ! あ、顔にモザイクかかってる。今回は前回より取材対象への配慮があったのか、その後に登場するニートな人たちにもすべてモザイクがかけられていた。「生活はどうしているんですか?」という街頭インタビューに「遊んで暮らしてます。働いたら負けかなと思ってるんで」と答えるニート君。「えっ!?」とのけぞるインタビュアー。

ニート君は顔立ちから受ける印象よりハキハキとした口調だった。つぎに雑然とした、いかにも男の子という部屋で4人の若者が寝転んで雑誌を読んだりコンビニ弁当を食べている画に「親からの仕送りに頼り、お金がなくなったら単発のアルバイトなどで食いつなぐ毎日」というナレーションがつく。ここまでが前回のVTR。

つぎに番組で集めたニート4人の座談会の様子が映る。『緊急座談会で見えてきた“ニート”たちの今後』というテロップが入りスタジオへ切り替わる。小倉氏の短いコメントのあと、ゲストとして玄田有史氏と著書『ニート―フリーターでもなく失業者でもなく』が紹介される。小倉氏もこの本を読んだらしく、「おもしろかったんですが、我々の発想とは(ニートの人たちは)ちょっと違うんだよね」とコメント。

座談会の司会をした春日由美アナが「働かない、学ばない若者たち」とニートの説明を始める。去年6月に番組で特集したときは63万人と伝えたニートが85万人に膨れ上がっていると説明したものの、ニートの定義自体が少し変わったことには触れられなかった(参照:}˜^¤ƒtƒŠ[ƒ^[”Eƒj[ƒg”‚̐„ˆÚ)。ここで玄田氏がコメント。「失業者はおよそ300万人。ニートはそこに含まれない。ニートの特徴は職探しまで至っていない。当然フリーターにも入らない。そういう人たちが85万人もいる。大きな問題です」

つぎに番組にとどいたというニート数十人のメールの一部が紹介される。「必死に働くことがばかばかしくなってしまった」(神奈川県の24歳女性)。「外に出ることや人と接することが苦手だから」(新潟県の26歳男性)。その後番組スタッフと何度もメールのやりとりをしたというニート4人と春日由美アナとの座談会が始まる。

以下、なぜ自分はニートだと思うのか伺いたいという春日アナの質問に対する参加者の回答。名前はすべて仮名。

山田さん(22歳女性)「何もやりたいことがないので、働くことも学ぶことも何もする気が起きない」
佐藤さん(28歳男性)「いい年こいて働いてないからです」
鈴木さん(32歳男性)「働きたくても周りばかりが気になり仕事に集中できない。完璧主義で周りとうまくやろうとしすぎる。人と付き合うことを優先して仕事どころでなくなってしまった。僕は環境重視なので、環境を完璧にして自分の環境のいい所で仕事がしたい」
田中さん(20歳女性)「私もそういう感じです。もし仕事で失敗しちゃったらどうしようとか。前にやってたバイトも辞めるときがすっごく辛くて、申し訳なくなっちゃうんです」

ここで取材VTRが流れる。昼間を漫画喫茶で過ごす田中さん(20歳女性)の映像が流れ、ナレーションがつく。「辞めるときのことを考えると働けなくなってしまうというハタチの女性。親に心配をかけたくないという思いから、日中はなるべく家を出るようにし、漫画喫茶などで時間をつぶすことが多い。チャット仲間たちに将来の事を相談する毎日だという」

ふたたび座談会。4人はニートである自分をどのように思っているのか、今の気持ちをフリップに書いてもらう。「止まっている感じがする」と書いた鈴木さん(32歳男性)は大学卒業後、大手繊維メーカーに就職したが仕事の環境になじめず退職。5年前からニートになった。現在は親からの仕送り5万円で生活している。

以下、「そのうち何とかなる…と思います」と書いた山田さん(28歳男性)の発言。

「最低限現状維持さえしていければ、せっぱつまるまではこのまま何とでもなるだろう。周りで働いている同じ世代の人は嫌々働いていて消耗している。どう考えても毎日辛そうで、その辛さの対価として得られる給料なり何なりがそれほど魅力的に思えないわけです。毎日ばりばり働いて消耗していくのと、ちんたら今のようにやっているのとどっちがいいのかと先を考えると今のままでいい」

「怖くないですか?」という春日アナの質問には「さすがになんとかなるだろうと楽観的に考えています」と彼は答えた。ここで山田さん(28歳男性)の取材VTRが流れる。一人暮しをしている彼の雑然とした部屋の映像が流れ、ナレーションがつく。「就職した友人たちが挫折していくのを見て、働くこと自体に疑問を持ったという佐藤さん。大学を卒業してから6年間。一度も職に就いたことがないという。生活費は親からの仕送り8万円。家賃は6万円。食費・光熱費を合わせても2万円でおさまるという生活。アルバイトをすることも一切なく、この部屋でパソコンなどをしながら毎日を過ごしている」そのあと彼の発言。

佐藤さん「働いているからといって結婚できるという保証はないです。明るい家庭を作りたいという人生設計を考えてない。ばりばり働いたからといって理想的な流れ(生活)になるとは限らないので、最初からあきらめている」
山田さん「私も佐藤さんと同じようにそれだったら最初から楽な道を選びたいという気持ちはわかります」

「何とも思わない」と書いた田中さん(22歳女性)。「気力を失った若者たち。4人に将来の展望を書いてもらった」とナレーションが入る。以下、彼らがフリップに書いた将来の展望とナレーション。

山田さん(22歳女性)ニート歴1年<主婦。幸せな家庭を持ち、家族を大切にする>
就職する気はないが、専業主婦になりたいという山田さん
鈴木さん(32歳男性)ニート歴5年<夢。社長になってバリバリ稼ぐこと>
対人関係に悩む鈴木さんの夢は自分で会社を起こすこと
田中さん(20歳女性)ニート歴2年<演劇関係。マスコミ。メディア関係>
ハタチの田中さんも多くの希望を文字にした
佐藤さん(28歳男性)ニート歴6年<現状維持>
佐藤さんが書いたのは現状維持。なぜこのままの状態を望むのか?

佐藤さん(28歳男性)「自分が生存していくための努力はたぶんさすがにすると。でも絶対に野垂れ死ぬかといえばそうではない。(親は)ふつうに働いてくれと。いつも言ってますけど、何も強制執行されないので、こちらがずるずるとぶらさがっている感じ。まあそのうちなんとかなるだろうと。ここが日本だから…」

ここで街中の映像に切り替わりナレーションが入る。「全国におよそ85万人と言われるニート。そのうち将来の就職を希望しながら現時点で職を探していない人が43万人ほど。残りの半分。およそ42万人のニートはこの先もずっと就職する気がない人たちなのである」

スタジオに切り替わる。

小倉氏「あーいう人を首ねっこつかまえて働けー! てやったって、玄田さん、働けないんですよね?」
玄田氏「働けないでしょうね。根本的には人と付き合うことに対してものすごくつらさを感じているので。じっさいニートの中にも働いた経験のある人が半分くらいいるんですよ。よく若い人が『いっぱいいっぱい』って言うじゃないですか。あれは人付き合いにいっぱいいっぱいなんですよ。無理にいっても働けないですよね」
佐々木アナ「ただ、自分の事を話すにあたってはとても饒舌ですよね?」
玄田氏「ものすごく。ただね、自分の事を正当化するんですね。人間ってほんとうに苦しくなると、べつに今のままでかまわないやって自己正当化するところがあるから、僕はあの言葉だけを鵜呑みにして、ああ働く気力がないんだなと思うのはちょっと違うんじゃないのかなと思ってます」
春日アナ「じつはこの今回の座談会に10人の方を呼んだんですが、集まってくださったのはこの4人だけで、ある意味ニートのなかでも優等生組だと思うんですね。よく来てくれたと思うんですが、話を4時間半聞いたんですが、結局なんだかよくわからないんですよ。あーいえばこーいうのくりかえしで、常に自分を自己正当化しまうので、結局つかみどころがない感じがしました」
春日アナ「そしてもうひとつ話をしていて気づいたことが、『働かない、学ばない』だけではなくて、二つのタイプがいたんですね」

この二つのタイプというのは、『働かない、学ばない』という意欲のないタイプと、『働きたいけれど働けない、学びたいけれど学べない』という自信のないタイプに分けられるのでは、という話。小倉氏「なぜこういう人たちが生まれてきたんですか? 何か社会的な背景ですか?」という質問に対して、玄田氏は大きく分けて3つほどあると述べた。

  • 雇用機会の減少による就職活動の厳しさから自信を失い、社会から必要とされていないんだなと感じる人が増えてきたこと。
  • 親や先生とほとんど付き合っていないまま育ってしまったことで、会社の中で世代も違う、環境も違う、価値観も違う人と交わることが非常に苦手。そういったことから生じるコミュニケーション能力への不安。
  • 「やりたいことを見つけなさい」とか「自分らしく生きなさい」とか行き過ぎた個性重視のせいで、「やりたいことが見つからない」「個性なんてないよ」という若者が苦しくなって迷路にはまっているのではないか。

佐々木アナ「親から仕送りされている人もいるわけで、親が豊かだからこういうことになるんですか?」
玄田氏「最近はどちらかと言うと経済的に貧しい苦しい家から(ニートが)出ているんですよ。親御さんがいなくなったあとの不安は相当大きいと思いますね」

春日アナが、今4人に何に一番関心があるのかと聞くと、全員が自分は将来年金をもらえるかということだったという。ニートは年金を払っていないということが問題になっているが、この4人は全員年金を払っているという。ここで小倉氏たちが驚く。「まじめなんです」と玄田氏。今働いていないわりには将来への不安は非常に真剣に考えているとのこと。「何がきっかけで働けるようになるんでしょう?」という佐々木アナの質問に玄田氏は、「難しいですね。ただ、何か他人の良い意味でのおせっかいがないと、自分の力で変われと言っても変われないんですよ。今はニートを支援するNPOなども増えているので、そういう中で生活習慣を改善し、『自分でもなんとかなるんだ』という習慣をつけないと変わらないですね」とのこと。

ピーコ氏「私たちからするとちょっと甘えてるのかな…。欲望がどうして原動力にならないんだろうか? という気はする」

この後もうひとりのコメントがあり、特集は終了。

「ニート」支援マニュアル

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ニート―フリーターでもなく失業者でもなく

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