【本】藤田達生『信長革命 「安土幕府」の衝撃』

信長革命 「安土幕府」の衝撃 (角川選書)

信長革命 「安土幕府」の衝撃 (角川選書)

安易な改革者待望論の落とし穴について考えさせられる本。もちろん、目から鱗な解釈がたくさんあり、戦国時代の歴史小説が好きな人はかなり楽しめる本です。

≪それにしても、苛烈だった。信長の改革とは、現代でたとえれば次のようなことを強制するものだったのだから。
 地域社会のために親子何代にもわたって貢献し、屋敷の周囲に美田を広げ、信用と名声を獲得していた名望家たちから、不動産を根こそぎ取り上げ、新たに建設した地方中核都市への移住を求めたのである。しかも指定された屋根は、自分のものではなく官舎だったのだ。農村社会のリーダーから官僚へ転身させられた彼らは、こののち国家の命令ひとつで、全国どこにでも出張と転勤を繰り返さねばならなかったのである。(中略)
 近年、改革者信長の人気はうなぎ登りである。しかし、これほどまでの改革を不退転の決意で開始したとは、誰も想像さえしなかったであろう。現代においても、「無謀!」「非常識!」といった指弾どころか、危険思想の持ち主として社会的に抹殺されかねないほどの人物だったのだ。同時代人としては、とても共感しずらい政治家だったといってよい。≫(271頁)

国や会社への不満や閉塞感は誰もが感じることと思います。改革者と言われる人の胸をすくような言動をみると、この人なら不満や閉塞感を払拭してくれるのでは、という期待は誰もが持ってしまうものだと思います。国レベルですと、自民党をぶっ壊すとおっしゃった元首相や、大阪の方にいらっしゃる方とか。会社ですと、再生請負人と言われる方の言動など(例えば、『V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (日経ビジネス人文庫)』)。


例えば、織田信長みたいな人が会社の上司だったら……。残虐なイメージについては当時の時代背景を肌感覚ではわからないので視野の外に置くとしても、怠惰で勘が鈍く頭の回転の遅い私はすぐ解雇されそう(苦笑)。それはともかく、仮に、自分が、信長さんに見どころがあると評価された「名望家」だったら、信長さんという上司は、はっきり言って嫌ですねえ。完璧に使い捨てですもんね。


本当に抜本的な改革は、これくらい苛烈なことを貫徹しないとできないのかもしれません。また、これは会社の話ですが、素晴らしい経営戦略の要諦は「バカな/なるほど」と言われているように、「バカな」つまり平凡な頭では「一見」賛成できないものでないと、真の改革にはならないのかなと思います。少しまとめますと、改革の本質とは、(1)多くの人が一見賛成しかねる内容で、(2)これを苛烈に貫徹することを要するものなのかなと。


こんな改革を行っている最中は、別の不満や閉塞感が生じてしまうのかもしれません。そうなると、(a)改革者が出る前の不満や閉塞感と、(b)改革者が出てきて改革を行っている最中の不満や閉塞感と、どちらがマシなんでしょうか? 


座して死を待つよりは前向きにという方は(b)の方がマシなんでしょうし、苛烈なのがお嫌いな方や賛成できないことを無理やりやらされるのが嫌な方は(a)の方がマシなんでしょうが、改革の内容や自分の置かれている立場によって変わってきそうです。


私は、座して死を待つなら前向きにというタイプですし、苛烈なのが結構好きなタイプですから、どちらかと言えば(b)かなあとは思います。ただ、賛成できないことをやらされるのもつらいですね。その意味で、一見賛成しかねることでも、骨髄反射的に反対するのではなく、何か「なるほど」と思えるメンタリティーでいたいものです。


この本はさらに、似非改革者の条件というものも教えてくれます。苛烈でない人やブレブレの人は、わかりやすいですが、耳触りの良い賛成しやすいこと「しか」言わない人は似非改革者なのかもしれませんね。耳触りの良い賛成しやすいことしか言わない人が苛烈な改革を行うと、国や会社は変な方向に行くでしょうし、苛烈な改革で体力は消耗するでしょうから、そんな似非改革者に騙されぬよう目を光らせたいものです。