『同人王』一日で全部読んだ

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新都社時代に楽しみにしていた連載のひとつ、同人王。完結をこの目で見てはいなかったのですが、まさか大手サイトで日の目を見ていたとは(新都社も大手っちゃ大手だが玉石だし)。とりあえず深夜の脳味噌ですが感想します。

「漫画や絵の上達論の面白み」「劣等生の葛藤や人生観の面白み」「超シュールな画面作りによる全裸面白み」など非常に多角的でバリエーション豊かな面白みがシンプルなネームに凝縮された、怪作にして傑作でした。作者さんは構成マニアを自称していましたが、それこそ松井優征先生レベルの超ネームだと思います。

肉便器先生はいわゆる「理想的ヒロイン」の超究極型ですね。ダメダメな主人公を励まし、性的にも誘惑し、創作の指導をし、何より主人公を必要としてくれる。これだけ書くと「御都合主義ヒロインFUCK!」と中指立てたくもなるものですが、絵の指導に甘さがなかったり、彼女自身のバックボーンに厚みがあることで嫌味が全然ない。このヒロインの特徴は滝本竜彦著『NHKにようこそ!』のヒロインにも酷似していて、実際滝本先生などはダメな主人公に理想のヒロインをくっつけただけで全てが解決してしまい困ったという(それゆえ作品が失敗作になったとも彼は語っている)。「理想像のヒロイン」の類型、その答えに近いものが肉便器先生にはあると思います。

献身的な妹の存在も含め、主人公のタケオは一部の人間にとって夢のような環境にいたと言えるでしょう。「理想郷もの」ジャンルに数えてもいい作品かもしれません。それでいて彼がほとんど常に鬱々としているのも共感を呼ぶ。彼が「世界の美しさ」に興味を持つ流れも自然だと思います。世界が美しいなら僕だってそれを知りたい。満足できない人生だからこそ、美しさに惹かれるものだ。

しかし、そんなタケオが最終話では結実を迎えハッピーエンドになったのは、それまでの葛藤と努力が報われた形とはいえ、僕などは嫉妬してしまい素直に前向きな気持ちで読み終えることができなかった。いや、「努力したから幸せになれた」わけではあるまい。その基本にだって、この作品は疑問を投げかけていた。全てはきっかけ次第なのか。そんな結論を思わせるラストだった。……まあそれも、この作品の言葉を借りれば、僕が「世界が見えていない」からかもしれない。いっぺん車にでも轢かれてみるかね?