【ネタバレあり】「疾風怒涛商店街」感想

すでに公開が終了しているpixiv小説の感想をここに書くのもどうかって感じなんだけど書く。なおこの記事にはおそらくネタバレが含まれる。

この作品は愛の物語だ。実にバリエーション豊かな愛が登場する。キャプテン・遠藤の親子愛、岩淵一鉄・一成の兄弟愛、ミキヒコとの友情もそうだし、当然、ストーリーを貫いているのは新桜庭市への地元愛だ。後半になると馬場先生まで親子愛を発揮したのにはびっくりした。

やっぱり愛はモチベとして強いなあ。キャラクターがそれぞれ非常に強く動いていた。商店街がドラゴンに立ち向かう動機としてこの上ないものだった。体育会気質が強すぎるゴブリンズの面々はハッキリ言って共感からは程遠いメンツだったが、彼らは「愛すべきクソ野郎ども」なんだから仕方ない、と思わせるだけの説得力とパワーがあった。

が、それよりも何よりも、最も驚いたのは異性愛らしきものが登場した点だろう。今まで作者の引き出しになかったものだと思うし、実際ルシールの「真実」が明かされるまで、この小説には性欲と呼べるものがほとんどどこにもなかった(ミキヒコが南雲主任に惚れてたくらいだ)。ああ、なんでこいつらはこんなにも性欲から解き放たれて生きてられるんだ、とどこか遠いものを感じていたのだ。だから、ルシール真実が明かされた瞬間、俺は心の中でロケットさんに土下座しなくちゃいけなくなった。

ルシール

そんなわけでこの作品の白眉を挙げるとなるとルシールにならざるをえない。彼女は【3日目】のあの瞬間に至るまではただの控えめな萌えキャラにすぎなかった。それでも十二分に可愛くはあったが、それだけだった。

それがお前、あんな、なあ。つまりあれは惚れた瞬間からノータイムで繁殖行為に及んでたってことかよ。出会い頭にセックスかよ。性欲に逆らわなさすぎだろ。つまりメチャクチャえろい設定だった。さすがは最新鋭のオーガーだ。間抜けヅラしやがって。

あのタイミングでそれを明かす作劇の妙も卑怯だし、それでなおエピローグに隠し球を持っていたのも卑怯だ。この二度の真相開示には、二回ともすげえビックリした。作中で最も驚いた。どうせこの感想が本人に届くことはないだろうから好き勝手言うけど、今まで萌えなんかとは縁遠かったロケットさんが、無理に入れてみた要素だと思ってた。それどころじゃなかった。まさしくあいつは物語の鍵だった。

そもそもこいつはドラゴンを倒したら存在意義を失ってしまうはずで、やっぱ死ぬのかなとか、生き残ったとしてどうするんだろうな、と思っていたのだが、その疑問まで一度に解決しやがった。綺麗すぎる。

ドラゴン

バトルに関してはひたすらに泥臭かった。それがこの作品の味だと思う。いかに地に足をつけたまま現実的にドラゴンを倒すか、という綱渡りを完遂するなんて人間業じゃないと思う。ルシールの性能も絶妙にチートに至らないレベルだった。どちらかといえば及川さんのほうがよほどチートだ。しかしこれほど泥臭くても根性論一辺倒にならなかったのは、馬場先生の存在が大きかっただろう。俺ああいう小細工大好き。

ところで、不肖わたくしが【1日目】まで読んで予想したドラゴン対策があったのだが、的中しなかった。つまり、馬場先生が「銃弾はマナが通ってないから使えない、遠距離攻撃はできない」みたいな事を言ったとき、横ではヤスオが鎖鎌を振り回していた。だから俺は「魔法の鎖鎌があれば遠距離攻撃できるんじゃね」って思ったわけ。馬場先生や杉浦が鎖鎌を改造すればいけんじゃね、と。これを思いついた時の俺は、会社のトイレですげえドヤ顔してたと思うよ。でも当たらなかったね。ドヤ損だった。

総評

面白い。間違いなく面白い。特に【2日目】、ドラゴンが『ヘリオン』前に来襲して以降の展開は先が気になって仕方ないレベルだった。キャラクターは共感できなかったので(そもそも俺は性格的に杉浦側の人間だしな)、そういう意味で胸に迫る作品ではなかったのだけれど、ストーリーの熱量が読ませてくれた。ちなみに私が10万字レベルの小説を数日で読みきるのは非常に珍しいことで、大半は途中で投げてしまう。だからこれは凄い作品なのだ。

なぜ読み進められたのか、考えられる要素はいくつかある。ドラゴンを倒す方法が気になったというのもあるし、やっぱキャラクターの死をちらつかせられると気になっちゃう。死はつよいね。色んな小説で人が死ぬわけだよ。もちろんそれは、「死んだら困る」と思えるだけの個性を持ったキャラクターがいるからこそなんだけど。

「キャラクターに興味を持たせ、事件を起こし、行く末を追わせる」。これは俺が1年前くらいに思った「やっぱ小説ってこれがないとダメなんだろうなあ」という要素なんだけど、疾風怒濤商店街はまさしくこれを凄まじい高レベルでやり遂げた作品なのだ。すごいなあと思う。面白かったです。ありがとう。