あるアメリカ人の人生とその時代



アンディ・グローブ(下)
シリコンバレーを征したパラノイア」を読む。
1968年にインテルが創業して40年。
この時期のシリコンバレーを中心とした技術史、経済史は
おそらく人類の歴史で特筆される時期になるだろう。
インテルマイクロソフト、アップル、ヤフー、グーグル。
時代をリードしてきた企業がずらりと並ぶ。
その活動の全体像の意味を
僕たちはまだ充分に把握しきれていない。


インテルはメモリからマイクロプロセッサに事業を切り替え、
生活者に直接販売するわけではないが、
手に持って触れる「製品」を作っている。
かと言ってマイクロソフトのように
OS、アプリケーションといった手で触れないデジタル情報を
売っているわけではない。
インテルインサイド」キャンペーンが
マイクロプロセッサをブランド化することに成功し
生活者にインテルが知られることで、
その後の企業間の勢力地図を塗り替える。
このあたりのくだりは、
あらためて著者テドローの分析を読んでいて
なるほどと納得することができた。
ビジネススクールの教材にはもってこいだろう。


企業と大学の関係について触れておきたい。
アンディ・グローブは20年に渡ってスタンフォード大学
戦略論を教えてきた。
自らがCEOとして指揮するインテルが岐路に立っていたときも
その習慣を変えることはなかった。
アンディ自ら既に6冊の著書を持つ。
アメリカのCEOとして異例のことである。


一方著者リチャード・S・テドロー教授の
ハーバード・ビジネススクールの同僚デイビッド・ヨフィー、
学生時代の同級生リード・E・ハントは
ともにインテルの取締役である。
この本を完成させるためには二人の協力が不可欠だった。
産学協同という概念を越えた結びつきがそこにある。


テドローはこの本を上梓するため3年間をまるまる使い、
うち1年半はシリコンバレーインテル社内に間借りし、
取材を続けた。
最前線のリーダー、アンディが自分の知見を大学に返し、
大学の頭脳テドローが
教科書を越えたビジネス領域に全身全霊で挑む。
こうした知の真剣勝負が
アメリカ社会の発展を築く土台になっている。
僕たちはこの本を読み、自分で考えることで、
最新の活きたビジネス講座に参加できることになる。


この本の原題は
"Andy Grove: The Life and Times of an American"
アンディ・グローブ あるアメリカ人の人生とその時代)
と言う。
ナチス時代のハンガリー・ブタペストにユダヤ人として生まれ
身一つでアメリカに移住し成功をおさめたアンディを思うと、
「あるアメリカ人」としたタイトルの重みが
ずっしり伝わってくる。