全体は部分の最良の註である


いいことを読んだが、
はてどの本でどの方が書いていたのか、
数日間、思い出せなかった。
言わんとする内容は記憶していたが、
検索するにはあいまいな言葉の断片しか覚えておらず
見つからない。



同居人との共同勉強部屋「ちぐら庵(仮称)」で
杉田敏先生の「NHK実践ビジネス英語」を勉強していて
もしや、と思い手近の一冊を手にとってパラパラめくっていたら
その言葉に再会した。
田中菊雄『英語研究者のために』
第四章「英文解釈と翻訳」から引用する。


   それゆえに、本当の解釈力を養おうと思う者は、
   まったく単独の力で、原文と組打つ覚悟が最も大切である。
   ただ一に辞書を頼りとして原文と格闘(かくとう)する
   —この意力が最も大切である。
   また、どうしても解らぬ箇所は、
   そのまま疑問符を付けておいて、先を読み進むがよろしい。
   すると先に難解であったところが自然に解けるものである。


英語研究者のために (講談社学術文庫)

英語研究者のために (講談社学術文庫)

(杉田敏先生がNHKラジオ英語講座テキストブック2006年7月号で紹介。
長く品切だったがようやく復刊。英語研究者/学習者の基本書であり名著)


原文そのままではなかったが
僕が記憶していたのはこの文に続く次の一節である。


   多くの場合、後段は前段の註であり、
   後章は前章の註であり、
   全体は部分の最良の註である。
   だから難解な書物は必ず全体を読了した後に、
   さらに初めに帰って再読し、またさらに三読すべきである。
   「読書百遍意おのずから通ず」とは正にこの事である。
   (pp.31-32より引用)



(高畠素之訳『資本論』第1巻第1冊)


田中先生は英語原書を読む際の心得を書いているが、
同志社・佐藤優講座で僕が学んだ学術書の読み方がまさにこれだった。
アントニー・スミス『ネイションとエスニシティ』、
カール・マルクスフリードリヒ・エンゲルス資本論』など
その分野の基本書はこの読み方をしなくては歯が立たない。


ネイションとエスニシティ―歴史社会学的考察―

ネイションとエスニシティ―歴史社会学的考察―


逆に言えば、
田中先生、佐藤講師が推奨する読書法を
自家薬籠中のものにすれば
これまで難解に思えた英語原書、学術書、基本書を読み解くことができる。
その経験があったからこの一節が記憶に残ったのだった。


wikipedia:田中菊雄
(文中一部敬称略)