「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメンvol.1」アラン・ムーア、ケビン・オニール

zeroset2004-07-18

ISBN:490231424X
 アラン・ムーアによるアメコミ・レーベル「アメリカズ・ベスト・コミックス」より、初の訳書がジャイブから出た。
 時に1898年、繁栄を謳歌するヴィクトリア朝イギリス。謎の男、Mの指令を受け「怪人連盟」が結成された。メンバーは、ミナ・ハーカー(吸血鬼ドラキュラ)、アラン・クオーターメイン(ソロモン王の洞窟)、ネモ船長(海底二万マイル)、ジキル博士とハイド氏、そして透明人間!怪人同盟に与えられた最初の使命は、悪の天才フー・マンチューより重力遮断物質ケーバライトを取り戻すことだった。しかし、その使命には、もう一人の「悪の天才」による陰謀が潜んでいたのだった・・・。
 古典的冒険・怪奇小説の主人公たちがヴィクトリア朝イギリスで大活躍するシリーズ・・・といえば「ドラキュラ紀元」シリーズを思い浮かべる。しかし本作の場合、古典小説の主人公も皆どこかイカれているのが、アラン・ムーアらしいところ。麻薬中毒のクオーターメイン。「切り裂きジャック」ばりに娼婦ばかりを「モルグ街の殺人」の様に虐殺して回るハイド氏。透明人間ホーレィ・グリフィンは、寄宿舎に忍び込んで、女学生をレイプ・妊娠させる(被害者にポリアンナ・フィティア@少女パレアナまでいるのが笑える)。一応これでも主人公なのである、彼ら。
 アラン・ムーアというと、「WATCHMEN」などの印象から、暗くシリアスなムードと、複雑で凝った構成、という印象が強い。しかし本作の場合、どこかオフビートで、全体的に人を食ったような(ブラック)ユーモアにあふれているのが楽しい。ホラ話ってのはこうでなくちゃね。もちろんムーアらしく、19世紀イギリスの細かいディテールもばっちりで、モブシーンの通行人に至るまで小ネタもいっぱいにつまってる。ちょっと高い(3200円)けど、こういう話が好きな人は、絶対買って損は無いと思いますよ。

「トンデモ本?違う、SFだ!」山本弘

トンデモ本?違う、SFだ!
 「と学会」で有名な山本弘による、初心者向けのSFガイド本。もっとも、この手のガイドブックに良くあるよう、総花的に様々なタイプの作品を紹介しているのでは無く、「SFの本質はバカである」という考えで選出された作品だけを紹介している(また、有名作品はあえて除外してある)。賛否色々意見があるだろうが、個人的にはこういうスタンスでのガイド本もあって良いと思う。「SF初心者にブラッドベリを薦めるのは良くない。SFでは無く『ブラッドベリの小説』を好きになる可能性が高いからだ」という様な言葉を聞いたことがあるが、初心者だからこそ、SFのエッセンス濃厚な作品のみガイドするというのも一つの方法だと思う。もっとも、ニュー・ウェーブやサイバーパンクを諸悪の根源の様に書いてあるのには、かなり抵抗があるが・・・。
 個人的には、こういうタイプのSFは好きなつもりだったのに、本書に取り上げてある本で読んで無いものが結構あり、ちょっとショックだった。特に古典作品は、ある程度数をこなした後では、かえって読まなくなってしまうからなぁ・・・。本書を読んで、レンズマン・シリーズとか改めて読んでみたくなった。