機動戦士ガンダムAGE 第7話「進化するガンダム」

     ▼あらすじ


 ザラムのドン・ボヤージの下へ捕えられてしまったフリットは、そこでグルーデックを見つけて驚く。そして、グルーデックもまたUEに家族を殺された事を知る。艦長はUEの「巣」を発見したこと、それを叩くために戦力を集めている事を告げ、フリットに「我々は同志だ」と共闘を求めるのだった。
 そんな中、ザラムとエウバの戦闘が再び発生。だがそこにUEの新型が現れる。AGE−1で挑むも歯が立たず苦戦する中、AGEシステムが新しいガンダムの「進化」形を作り上げていた。


      ▼見どころ


   ▽ドン・ボヤージ


 ファーデーンで行われている旧国家間戦争を引きずった小競り合いですが、ザラム側を指揮しているのは前回グルーデックと兵器の取引に臨んだ髭の小男、ドン・ボヤージでした。



 ∀ガンダムとも張り合えそうな立派なお髭



 手が短すぎて届いてませんよボヤージさん


 そしてこの人、側近として人物を二人連れています。名前はともかく、何度も聞かされたセリフは印象に残った方も多い事でしょう。


「イエス! ドンの言うとおりです!」


 このセリフを二人でことあるごとに繰り返す様子や、ドン・ボヤージのコミカルな外見もあいまって、ガンダムの登場人物というよりは、昔の子供向けアニメの憎めない悪役に近いキャラメイキングのように見えます。タツノコアニメ、たとえば『ヤッターマン』あたりの敵キャラに近い演技とスタイルで、たとえ乗ってるマシンが爆発しても、全身真っ黒で煙とか吐き出しながら、捨て台詞残して元気よく去っていきそうな、そんなコミカルさを感じさせます。
 キャラクターメイキングのリアリズムでいえば、バルガスあたりと同じ、昔のロボットアニメに出て来そうな造形です。


 そうであればこそ、この後の話でドン・ボヤージたちの描かれ方、シリアス具合がどのように推移していくかを良く見ておいていただきたいのです。恐らく、この人たちが作中で見せる変化を追うのが一番分かりやすいでしょう。フリット編の大きな物語上の背骨である、「ガンダム以前のリアリズムで描かれる物語が、だんだんと“ガンダム”になっていく」というダイナミズムを一番感じられる人物たちだと思います。



   ▽ザラム、エウバとフリット


 そして、今回その戦いの相手である、エウバの勢力も顔を見せます。



 エウバ側のリーダー、ラクト・エルファメルさん


 このシーンだとパイロットスーツなので分かりませんが、のちにそのセンセーショナルなヘアスタイルを我々の前に披露してくれます。
 で、この方、「エウバの騎士」なのだそうです。
 ご存知の方はご存知の通り、歴代ガンダム(特に宇宙世紀)において、騎士を自称しちゃうような人にはあまり真っ当な方がおりませんでして……。推して知るべし、であります。


 そしてこの両勢力の戦いが始まりますが、手投げ爆弾のような物騒な武器も使うものの、ドン・ボヤージとラクトの戦いは基本的に“どつきあい”です。ところどころ冴えたアクションや決めポーズなんかもとったりするのですが、基本的にはコミカルな描写がされます。
 フリットがノーラでUE相手にしていた戦いや、ウルフがUEの戦艦と遭遇した際に見せた機転などに比べると、明らかに緊張感のない戦いです。しかし同時に、一歩間違えばエミリーやバルガス、子供たちに大きな被害が出かねない戦いでもありました。
 フリットはここに、割って入ります。



 仲裁に入るフリット


 ここでフリットが両者にする説得は、二重の意味で興味深いものです。この場面で、フリットという人物がどのような言葉を選ぶのかという点において。そして、アセム編以降のフリットを見てからこのシーンを見ると、逆の意味での面白さがあります。この時点でフリット自身が言っていたセリフが、全部後年の自分に刺さっていくからです。
 しかし、その点が鮮明になるのは次回なので、今回は軽く流します。
 むしろ、フリットが口にしたセリフの、こんなフレーズに少し反応しておくことにします。



「部外者の君に何が分かる?」
「分かんないよ! 人を不幸にするだけの歴史なんて!」


 ここで「歴史」という抽象的で固い言葉が出てくるのも唐突に思えます。もちろん、過去の戦争、因縁といった表現はここまでも出て来ていましたが。
 これも、作中のレベルで必然として出てきた言葉というより、暗喩を込めた言葉選びのように感じます。
 あまり詳細に語るのは野暮になってしまうので軽く言及だけしますが……読者の方も、ここ数年の日中、日韓関係のニュースあたりをつらつら思い返せば、「人を不幸にするだけの歴史」にはいくらでも思い当たるだろうと思います。
 現在、ガンダムを視聴している人たちはほぼ間違いなく「過去の戦争」の時代には生まれてもいなかったのですが、未だに我々は「歴史」に祟られ続けているかのような有様です。


 富野由悠季監督の長編ガンダムの現時点での最新作である『∀ガンダム』が「歴史」を大きなテーマにしていたのも、やはり同じ違和感と危機感があったからなのでしょう。
 まだ、この第7話の時点ではほとんど片鱗も見る事は出来ませんが、私は『ガンダムAGE』が上記『∀ガンダム』の問題意識もきちんと整理し、継承する意志を見せたのだと思っています。抽象的な話が多くなってしまいますが、AGEの話の進行に合わせて、少しずつ語っていく予定です。



   ▽グルーデック・エイノア


 この回で、グルーデックがフリットに初めて自身の意図を明かします。エミリーに続き、やはりディーヴァクルーより先に本心を明かした形です。
 さらに、UEに家族を殺された同じ境遇の「同志」として握手を求めます。この時のセリフがまた、非常に過激です。



ガンダムパイロットはお前だ。そしてそれを一番うまく指揮する事ができるのは、この私だ」


 熱烈なアピールです。そしてここでも、少しズルい論法が使われています。
ガンダムパイロットはお前だ」という事を最初に保証してやる事で、フリットガンダムに対するこだわりを利用する形になっています(もちろん、以前ウルフとガンダムパイロットの座をかけた揉め事があった事も考慮に入れた発言でしょう)。
 第5話の解説で述べた、ウルフがフリットに「これからも戦う」という宣言をさせたのと同じ、ガンダムをダシにした論法が使われている事がわかります。


 さらに戦闘の最中、ドン・ボヤージとフリットの口論を聞いたグルーデックの呟きも、少しどきりとさせられます。
 お前たちも過去に囚われて戦っているじゃないか、というドン・ボヤージの指摘に対して、フリットは「そうかもしれないけど……!」と反論の言葉が見つけられない状態なのですが。
 通信を聞いていたグル―デックは、



フリットをお前らと一緒にするな」
 とポロリと口にするのです。
 このセリフを、グルーデックのフリットへの信頼とか、そういったプラスの意味だけで解釈して良い物でしょうか。ウルフがフリットに「戦いの興奮が忘れられない」自分と同じ価値観を期待したように、グルーデックもまた自分と同じ価値観で行動を共にしてくれる事を期待している、もしくは自己投影してしまっている、そんなニュアンスが感じられる気がします。


 もちろん、だからグル―デックがフリットにとって迷惑な人だという一面的な評価はできません。むしろ、彼はこの後、フリットにとって頼りがいのある存在としての側面を強めていきます。ウルフも同様です。
 しかし――結果的にフリットは、民間人の少年として扱われる事無く、なし崩し的に戦いの同志という立ち場に引き込まれていく事も確かです。
 フリットを「ただの男の子」だと等身大に評価しているのは、エミリーだけです。


 このような経緯で戦いに関わっていった事は、後年のフリットの性格や考え方を成り立たせるうえで、少なくない影響を与えているのだと思います。



    ▽ラーガン奮戦


 特に解釈を述べるべき何かがあるわけではないのですが、この回の見どころといえば、ラーガンの駆るジェノアスの奮戦があります。


 ウルフが不在の今、ガンダムの換装にかかる時間を稼ぐために動けるのはラーガン機のみ。ここまであまり良い所のなかったラーガンが、ここで意地を見せてくれます。もちろん機体性能的にもかなわないのですが、それでも値千金の足止めをして見せてくれました。
 ファーストガンダムがそれ以前のロボットアニメと一線を画した要素は色々ありますが、ザコメカにも感情移入できる余地を作った点も理由の一つ。


 フリット編をファーストガンダム周辺へのオマージュと見た場合、UEという敵勢力の設定のせいで、最初期のガンダム人気を支えたMSV的な「ミリタリー戦記的魅力」が抜け落ちてしまっており、そこがフリット編(そしてAGE全体)が苦戦した理由の一つなのですが。
 しかしこうして、量産MSが主役を食わない程度に活躍するシーンも入れた事は、そうしたシナリオ的な制約の中で精一杯できる事をやっているのかなと思えます。



   ▽タイタス登場


 ラーガンが時間稼ぎをしてくれている間に、ガンダムは新しい換装パーツを身に着けて再登場、今まで歯が立たなかったUEの新型を弾き飛ばして見せます。



 ガンダムAGE−1 タイタス


 それにしてもこの姿、何だか別なガンダムを思い出させるデザインです。



 ↑これとか



 あと、シルエット的にはこちらのイメージも入ってるかも知れません



 ↑マッシブなボリューム感とか似ている


 ここでGガンダム的なデザインが出てくるのは唐突なようにも思えますが。しかし、何度か書いたように、ガンダムAGEのフリット編が「マジンガーZのようなガンダム登場以前のロボットものから、段々とガンダムになっていく物語」であるとするなら、Gガンダムが一番雰囲気的に溶け込めるのはこの段階、という事になります。ご存知のようにGガンダムの設定や世界観は、ちょっと特殊なので。



 ただし、AGEのスタッフはただGガンダムの形だけ真似たわけではありません。むしろ非常にディープな、マニアックな形でGガンダムへのリスペクトを織り込んでいます。
 次回、その辺の事について、こってり長々と語りたいと思います(笑)。



『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次