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2015-03-30 PT・OT・ST国家試験合格者発表2015

PT・OT・ST国家試験合格者発表2015

 理学療法士・作業療法士、言語聴覚士国家試験の合格者が発表された。第50回理学療法士国家試験及び第50回作業療法士国家試験の合格発表について|厚生労働省第17回言語聴覚士国家試験の合格発表について|厚生労働省に合格率・合格者数が載っている。


【関連エントリー】


 今年の受験者数、合格者数、合格率は以下のとおりである。

受験者数合格者数合格率
理学療法士 12,035 9,952 82.7%
作業療法士 5,324 4,125 77.5%
言語聴覚士 2,506 1,776 70.9%

 過去5年間の受験者数、合格者数、合格率を示す。

# 2014年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 11,129 9,315 83.7%
作業療法士 5,474 4,740 86.6%
言語聴覚士 2,401 1,779 74.1%

# 2013年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 11,391 10,104 88.7%
作業療法士 5,279 4,079 77.3%
言語聴覚士 2,381 1,621 68.1%

# 2012年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 11,956 9,850 82.4%
作業療法士 5,821 4,637 79.7%
言語聴覚士 2,263 1,410 62.3%

# 2011年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 10,473 7,786 74.3%
作業療法士 5,824 4,138 71.1%
言語聴覚士 2,374 1,645 69.3%

# 2010年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 9,835 9,112 92.6%
作業療法士 6,469 5,316 82.2%
言語聴覚士 2,498 1,619 64.8%

 2010〜2015年の受験者数を見ると、PTは9,835→10,473→11,956名と増加傾向だったが、2013年に初めて11,391名と減少し、2014年には11,129名とさらに減ったが、2015年は12,035名と増加している。一方、OTは6,469→5,794→5,821→5,279→5,474と減少傾向だったが、今年5,324名と再び低下した。STは2,498→2,374→2,263→2,381→2,401→2,506とやや増加傾向になっている。

 養成校急増の一方、PT・OTは受験者数減少というねじれ現象が生じていることを考えると、全国規模で養成校の定員割れが生じているのではないかと推測する。


 第1回言語聴覚士試験があった1999年から今年までの合格率は以下のとおりである。

理学療法士作業療法士言語聴覚士
2015年 82.7% 77.5% 70.9%
2014年 83.7% 86.6% 74.1%
2013年 88.7% 77.3% 68.1%
2012年 82.4% 79.7% 62.3%
2011年 74.3% 71.1% 69.3%
2010年 92.6% 82.2% 64.8%
2009年 90.9% 81.0% 57.3%
2008年 86.6% 73.6% 69.5%
2007年 93.2% 85.8% 54.5%
2006年 97.5% 91.6% 62.4%
2005年 94.9% 88.4% 55.8%
2004年 97.9% 95.5% 68.4%
2003年 98.5% 91.6% 42.0%
2002年 95.7% 90.6% 53.8%
2001年 96.9% 94.8% 49.1%
2000年 95.4% 97.5% 42.4%
1999年 93.5% 90.6% 87.9%

 PTは、2010年を最後に90%を割り込んだままとなっている。OTは、最近は70%台後半となっている。STは2回続けて70%台となった。国試の難易度が変化したのか、それとも受験者の質が変わったのかは本データだけでは不明である。


# 追記:社会福祉士の合格率

 [社会福祉士国家試験]過去の試験問題:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター内にある資料をみると、社会福祉士の合格率は、今年を含めた過去3年間で、18.8→27.5→27.5%と推移している。受験者は約4.5万ときわめて多いが、合格率は著しく低い。社会福祉士をもっているMSWは難関をくぐりぬけてきていることを、他の医療職は理解してあげて欲しい。

2015-03-08 聴覚障害認定方法見直し(佐村河内改訂)、4月1日より適用

聴覚障害認定方法見直し(佐村河内改訂)、4月1日より適用

 聴覚障害の認定方法が、平成27年4月1日より見直される。身体障害者手帳 |厚生労働省に詳細な通知改正等の資料がある。

 具体的な中身は、第6回疾病・障害認定審査会身体障害認定分科会 資料 平成26年12月15日資料3 検討会のとりまとめを踏まえた見直し内容について(PDF:41KB)にある。

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 聴覚障害の場合、2級(両耳全ろう)がもっとも重度である。1)聴覚障害に係る身体障害者手帳を所持していないものがいきなり最重度の認定を受けることはほとんどないことを受け、その場合にのみ、オージオメータだけでなく、ABR等他覚的聴覚検査等を実施することが義務づけられたこと、および、2)指定医の専門性を担保するために、聴覚障害に係る指定を新規に指定する場合は、原則として、日本耳鼻咽喉学会専門医を要件とすること、この2つが主な改正点である。


 聴覚障害認定方法の見直しが実施された背景は、聴覚障害の認定方法に関する検討会(第1回)資料 平成26年3月26日資料(PDF:905KB)に詳しく記載されている。

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 S氏とは、全ろうの作曲家としてマスメディアに取り上げられ、その後ゴーストライターの新垣隆氏に経過を暴露されたことで話題となった佐村河内守氏のことである。2014年3月26日 第1回 聴覚障害の認定方法に関する検討会議事録をみると、次のような論議がされている。

○森岡課長補佐 それでは、今回の佐村河内氏の事例につきまして、先に御説明させていただきます。

 資料4の6ページ、7ページ、佐村河内氏ということですけれども、S氏ということで略して説明させていただきたいと思います。


 障害認定の経過については、以下のように記載されている。

 まず平成14年1月に書かれた診断書をごらんください。そちらでは、障害名につきまして「聴覚障害」となっております。

 2原因となった疾病・外傷名としては、感音性難聴となっております。

 3疾病・外傷発生年月日ですけれども、左については昭和60年、右については平成9年ということになっております。

 4参考となる経過・現症でございますけれども、24歳時に左の聴力が低下。34歳時に右の聴力が低下。病院で加療するも改善なしということでございます。

 5の総合所見としては、右が101デシベル、左が115デシベルで、身障2級に該当するとされております。

 将来の再認定については不要となっております。

 結論としては、身体障害者福祉法、別表に掲げる障害に該当するということで、2級相当ということで診断書が作成されております。

 裏側に参りまして、こちらが平成26年2月に作成されました身体障害者診断書・意見書でございます。3の疾病・外傷発生年月日については不明ということになっております。

 4参考となる経過・現症の欄に検査結果が詳しく記載をされております。純音聴力検査で、右が48デシベル、左が51デシベルということになっております。語音聴力検査では、最高明瞭度で右が71%、左が29%ということになっております。

ABRの閾値につきましては、右40デシベル、左60デシベルにおいてV波が確認されたこと。DPOAについては両側とも反応良好であったこと。ASSRの閾値につきましては、右が60デシベル、左は50デシベルということになっております。総合所見としては、上記の結果により聴覚障害に該当しないとの診断となっております。


 障害の有無と障害認定基準に合致するかは別であるということに注意する必要がある。佐村河内氏の場合には、聴覚障害はあるが、再検査の結果、最も低い6級の基準には達していないと証明され、障害者手帳を返上した。

 以下、次のような議論が続いている。

○森岡課長補佐 聴覚障害を装ったような事例について、我々に情報提供があったというものはこれまでございません。我々の対応としましては、もちろん必要に応じてABR検査等を実施していただくということにしておりますし、また認定基準でも、両検査とも詐病には十分注意すべきであるということで、認定基準の中におきましても注意喚起をさせていただいているところでございます。

○小川構成員 恐らく今回のような事例というのは、どちらかというとまれな事例ではないかと思いますので、こういった特異な事例が起こったということで、根本的にその認定の方法を変えていく。例えば他覚的な検査を全例で取り入れるとか、そういうような、いわゆる認定方法の変更というのは余り現実的ではないかなという気がします。

 普通は恐らく突然2級に該当する申請が行われるということは、比較的まれなのではないかと思うのです。例えば6級から始まって聴力がだんだん進行してそれが3級になって2級になるというような、こういう経緯の中では、こういった不正が行われるということは余り考えにくいかなという気がします。ですので、そういった時間経過の中でも実際には不正を15条指定医がしっかりと否定をしているというような現実もありますので、余り大きな変更というのは実際には必要ないかなと私は思っております。

 あとは本当に先ほど石川先生がおっしゃられた、いわゆる詐病ということですね。この聴力の中で恐らく詐病ということで一番問題となるのは、あくまでも聴力の検査は自覚的な聴力の検査ですので、例えば80デシベルという聴力を不正で示すということは、何回もやれば必ず変動するわけですね。ところが、一番難しいのは2級に該当するような、全く聞こえない。つまり、全く応答しないというようなときに、それが本当に聞こえていないのか、あるいは全く押す意思がないのか、その辺が一番問題となるのかなという気がしますので、もし今までの認定方法に少し何か加えるというようなことになると、恐らく2級に該当するような、そういうところの認定に際して何か加えるというようなことが必要になるのかなという感じで、3級以下に関しては、恐らくこれまでの認定の方法でそんなに問題はないのではないかと私は思います。


 詐病は、聴覚障害以外の身体障害診断でも問題となる。佐村河内氏の案件を教訓としてくみとる必要がある。リハビリテーション科が最も係る肢体不自由の場合には、次のような対応がなされている。

  • 脳卒中や骨折のような、急に起こりその後回復が期待できる疾患の場合、症状固定まで3〜6ヶ月間の経過をみることが義務づけられている。さらに、この期間にリハビリテーションを含む十分な医療が行われていることを診断書に明記することが望ましいとされる。
  • 神経筋疾患や骨関節疾患のような慢性的な経過をたどる場合は、医療機関で継続して治療を行っており、機能障害レベルでの改善がないことを証明する必要がある。
  • 主治医が明確でなく、身体障害者診断書記載を求められる場合には、初診段階で診断書は記載せず、客観的な指標となる検査を行い、機能障害の状態を確認することを心がける。

 簡単に言うと、主治医がおり、長期間にわたり経過を追えている場合には、よほどのことがない限り、ごまかしはできないということである。ただし、上記のうち、第3項に関しては、意識して対応する必要がある。私が最近経験した事例は以下のとおりである。


 以前軽度の障害があるという身体障害診断書を記載したことがある患者が、等級をあげてもらいたいと久しぶりに診察に来た。最近はどこにも通院していないとのことだった。

 身体所見をとってみると、前回の診断書に記載していた機能障害が消失している一方、反対側の筋力低下を訴えていた。診察室には杖なしで歩行してきていたが、MMTをとってみると、膝伸展筋力がゼロだった。不可解な結果だったため、MRI等の精査を他院で行うことを勧めたが望まれなかったため、診断書記載をしなかった。

 その後も、知り合いの政治家を頼って圧力をかけたり、役所に診察拒否だ、応召義務違反だと訴えられたりしたが、検査のために紹介はするが診断書は記載できないという原則的な対応を続けた。未だに診療情報提供書依頼はなされていない。


 ごく稀に不心得者がいることに専門家が留意しなければならない。耳鼻咽喉科医は、今後、障害認定時にABR等を行う理由として佐村河内氏の事件を説明することになる。佐村河内氏は作曲者としての名を残すことはできなかったが、障害認定見直しの原因を作った人物として末永く語り継がれることになった。

2015-02-08 平成27年度介護報酬改定のポイント(メモ)

平成27年度介護報酬改定のポイント(メモ)

 平成27年度介護報酬改定に関する答申が出た。介護給付費分科会審議会資料 |厚生労働省に、2月6日に行われた第119回社会保障審議会介護給付費分科会資料が示されている。なお、個々の介護報酬改定の内容は、諮問書(PDF:7,284KB)に詳しく載っている。

 今回の介護報酬改訂内容は、参考資料1 平成27年度介護報酬改定に関する審議報告(PDF:809KB)資料1−1 平成27年度介護報酬改定の概要(案)(改)(PDF:892KB)に具体的に記載されているが、資料1−2 平成27年度介護報酬改定の概要(案)骨子版(PDF:2,508KB)の方がより簡潔にまとめられている。今回は、この骨子版をもとに、平成27年度介護報酬のポイントをメモ代わりに整理した。


# ポイント1: 大幅なマイナス改訂

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 改訂率は、−2.27%である。しかも、処遇改善、介護サービスの充実分プラスを除くと、−4.48%にもなる。「持続可能性」という言葉は、社会保障制度における給付切り下げの時に必ず使用される魔法の言葉である。言い換えれば、放置すると制度自体が破綻するから多少のことは我慢しろ、ということを意味している。介護事業者が生き残ろうとすると、その痛みは介護職員や利用者に降りかかる。一方で給付を引き下げながら、同時に介護職員の待遇改善と利用者のサービス向上が図ることが可能という厚労省の主張は欺瞞に満ちている。


# ポイント2: 軽度者の介護保険からの切り離し

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 中重度の要介護者や認知症高齢者への対応強化が目標と述べているが、実際は、軽度者に対する給付引下げの方が主目的である。

 諮問書の中身を精査するとわかるが、在宅は軒並み引き下げられているが、特に、介護予防通所介護と介護予防通所リハビリテーションの引下げ幅が極端である。

  •  介護予防通所介護(1月あたり): 要支援1 2,115単位 → 1,647単位(−22.1%)、要支援2 4,236単位 → 3,377単位(−20.3%)。
  •  介護予防通所リハビリテーション(1月あたり): 要支援1 2,433単位 → 1,812単位(−25.5%)、要支援2 4,831単位 → 3,715単位(−23.7%)。

 介護予防事業は、通常の介護事業と一体として運用される。今後、要支援1、2の利用者は敬遠される。週2回の利用が週1回に、週1回の利用が隔週ないし利用終了に追い込まれることになりかねない。


 地域における医療および介護の総合的な確保の促進に関する法律の施行を受け、要支援1、2に対する介護予防訪問看護と介護予防通所介護は、順次、市町村が運営する総合事業に移管することが決まっている。第111回社会保障審議会介護給付費分科会資料内にある参考資料1−1 介護予防・日常生活支援総合事業 ガイドライン案(骨子)(PDF:1,326KB)には、下図のようなスケジュールが提示されている。現在のサービスと比べ、総合事業がより低い水準にとどまることが予想される。


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# ポイント3: 目標と期間を明確にし終了を前提としたリハビリテーションの推進

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 リハビリテーション関連報酬には、新設項目が目立つ。 高齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな在り方検討会 |厚生労働省で議論された内容が介護報酬改定に反映されている。

 個々の内容については、要件について読み込んで精査する必要がある。ただし、関連職種が集まるリハビリテーション会議を定期的に開催し、目標とそれに到達する期間を明確にし、リハビリテーション終了を前提としてその後のサービスも考えるという姿勢が強調されていることだけは、はっきりしている。感染症や転倒などを原因として容易に要介護状態となってしまう虚弱高齢者や、神経筋疾患・認知症などのように緩徐進行するタイプの疾患では、長期にリハビリテーション専門職が関わる必要性がある。リハビリテーションは一定期間の後に終了しなければならないということだけが強調されると、リハビリテーション専門職のサービスを継続して受けたいという利用者のニーズに応えられない。


# ポイント4: 施設での看取り機能の強化

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 今後、死亡者数は119.2万人(2010年)から159.7万人(2030年)へと急増すると予想されていることを受け、厚労省は病院以外での看取り場所の確保に躍起となっている。診療報酬改定での対応に加え、介護保険施設でも看取りを行うことを推進しようとしている。


# ポイント5: 口から食べる楽しみへの支援として観察と会議を評価

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 経口維持加算に関して変更があった点は、摂食・嚥下機能に配慮した経口維持計画という表現が、多職種による食事の観察(ミールラウンド)や カンファレンス等の取組のプロセスの評価となっているところである。嚥下内視鏡などより詳細な嚥下機能の評価は施設では求められておらず観察評価のみとなっているが、より多職種が関わる必要が生じている。一方、以前は28単位/日となっていたが、今回は400単位/月となっており、大幅な切り下げになっている。これでは、口から食べる楽しみの支援の充実とは言えない。


# ポイント6: 減収のなかで介護職員待遇改善が可能かのように見せる加算要件

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 介護職員処遇改善加算の算定額に相当する賃金改善を介護事業所は行わなければならない。ある程度の余裕がある事業所は対応することは可能かもしれないが、赤字体質の経営体の場合には不可能である。そもそも、低い介護報酬のため介護職員の待遇が悪くなっているが根本要因である。大幅なマイナス改訂のなかで介護事業所の経営は苦しくなる。人件費増加分のみに使用できる加算で介護職員の待遇改善が可能かのように宣伝することはきわめて問題である。


# ポイント7: サービス適正化という名の介護報酬切り下げ

 サービス適正化という名のもとに以下の項目に関する切り下げが行われる。

  •  集合住宅に居住する利用者へのサービス提供に係る評価
  •  通所事業等において送迎が実施されない場合の評価
  •  訪問リハビリテーションにおける短期集中リハビリテーション実施加算(1月以内)
  •  訪問看護ステーションにおけるリハビリテーション

 その他、訪問リハビリテーションおよび通所リハビリテーションを同一事業者が提供する場合の運営の効率化、各種サービスにおける人員配置基準の緩和も行われる。


 細かな部分に関して読み込まなければいけないし、今後提示されるであろう疑義解釈等の資料も見なければいけないが、今回の介護報酬改定が事業者および利用者に与える衝撃は著しいものがあることは間違いない。各種サービスを一体として運営している保健医療福祉複合体では、連携の再構築のなかでマイナス部分を少しでも緩和できるが、単体のサービスしか提供していない小規模の介護事業所は存続の危機に立たされる。介護保険制度は様々な問題をはらみながら、介護サービスの基盤整備という面では一定の評価がされてきた。今回の改定において、介護サービス供給量の停滞ないし減少を生じた場合、急速な高齢化に対応できなくなる可能性がある。診療報酬のマイナス改定が医療崩壊の一因となった。同様に、今回の介護報酬マイナス改定の影響で介護崩壊が生じてもおかしくはない。

2015-01-03 未知性が偏見や差別を引き起こす理由

未知性が偏見や差別を引き起こす理由

 先日のエントリーで「未知の漠然とした不安が、偏見や差別を引き起こす」ことを指摘した。このことに関し、少し掘り下げてみる。

【関連エントリー】


 偏見や差別は、心の二重過程理論における「自律的システム」によって生じる認知バイアスに関係している。リスク認知バイアスの進化心理学的な解釈(小松秀徳ほか)の要約に次のような記載がある。

このリスク認知バイアスの多くは、人間が持つヒューリスティクス(直観)に起因するものと考えられる。進化心理学では、ヒューリスティクスを含む、現在の人類が持つ一般的な心理的傾向は、我々の先祖が石器時代の環境に適応した結果得られたものと考えられている。このような進化心理学的な解釈に基づき、ヒューリスティクスのみに頼っていると発生してしまうリスク認知バイアスについて、その発生起源を理解し、さらに熟慮によってリスク認知バイアスを解消する制度・組織を確立し、より合理的な意思決定を可能とすることが期待される。


 本文の方では、Slovicの研究をまず紹介している。リスク認知バイアスを因子分析にかけ、恐ろしさ(Dread risk)と未知性(Unknown risk)の2つの因子にまとめられることを示している*1。なお、筆者は、先行研究をふまえて作成されたCovello によるリスク認知バイアスのリストの方を用いて、議論を行っている。このなかで、「なじみ」と「理解」に関しては、次のような説明を行っている。

 「なじみ」と「理解」は、進化心理学の一般的な説であるエラーマネジメント理論(Haselton, 2000)に基づいて解釈可能と考えられる。エラーマネジメント理論とは、対象物が危険であるかどうかが不確実である場合、実際には危険であるものを危険でないと間違えるより、危険でないものを危険であると間違える方が生存上有利であったため、リスク忌避的な判断を下す性向が進化した、という理論である。例えば石器時代では、ただの木の枝を蛇と間違える方が、蛇を木の枝と間違えるより、生き延びる確率は高かっただろう。「なじみ」がない、あるいは「理解」できないという状態は、対象物が危険であるかどうかが不確実である状態に対応し、エラーマネジメント理論と整合すると考えられる。反対に、対象に「なじみ」がある、または対象を「理解している」場合は、リスク忌避的に振舞う必要はない。このように、「なじみ」と「理解」は、個人の適応度管理の問題に帰着できると考えられる。


 未知性が恐怖を増大させる。外国人恐怖症xenophobiaという言葉がある。狩猟採集生活では、人間関係は血縁関係の小集団に限られている。それ以外の人間は敵対関係にあると直感的に判断した方が適当である。肌の色や言葉が異なる他者に嫌悪感を抱き、近寄ること自体が拒絶される。攘夷思想は、日本特有のものではない。

 血縁関係の集団は最大でも150人程度までと言われている。この数値をダンバー数、この集団を氏族(クラン)と表現する。古くからの狩猟採集生活を行う氏族同士は、お互いのことをほとんど知らず、空間的にも心理的にも距離が大きい。隔絶された集団同士が、やむをえず、距離感を縮めざるをえない状況になった時、先入観が偏見をともなって大きくなり、軋轢が増幅し、争いごとの原因となる。

 未知の他者との接触を意識的に心がけ、類似点や相違点を理解する機会を増やすことが恐怖心をやわらげることになるが、慎重な対応が必要である。そこで、仲介役という重要な役割を務めるのが対象者に日常ふだんに接している専門家である。障害者差別の問題を考える時に、その役目を果たすのは、職業的代弁者である医療関係者となる。

 知らないことは恐怖を生み、恐怖は差別の誘因となる。差別はいろいろな原因で生まれるが、未知性と恐怖のサイクルが重要な位置を占めていることを忘れてはならないと思う。

2015-01-02 障害者の社会復帰政策と施設コンフリクト

障害者の社会復帰政策と施設コンフリクト

 わかりあえたら:不寛容時代に/1 住民、漠たる不安 住宅街の障害者ホーム建設 「暮らし壊される」、過熱した反対運動 - 毎日新聞という障害者差別について考えさせられる記事があった。

【関連エントリー]


 集会所の置き時計がむなしく時を刻んでいた。2014年3月30日、川崎市北部の住宅街に移転を計画する精神障害者のグループホームと、約20人の地区住民の話し合いは平行線のまま、3時間がたとうとしていた。


(中略)


 同じ町内の老朽化した一軒家から1キロ離れた新築アパートへ移る予定で、工事は終わりかけていた。だが、話し合いからまもなく、さらに大きなショックが待っていた。工事業者から連絡を受け、駆けつけた青野さんの目に飛び込んだのは、10本近いのぼりと横断幕だった。「精神障害者 大量入居 絶対反対」。夕闇の中、赤い文字が揺らめいていた。


 障害者施設をめぐっては各地でトラブルが起きている。障害者ホームの設置に“壁”|特集まるごと|NHKニュース おはよう日本では、このような事例を「施設コンフリクト」という用語で紹介し、その実態を次のように示している。

井上記者

「そうなんです、こうした反対運動のことを『施設コンフリクト』と言うんですが、NHKが全国の自治体に聞いたところ、この5年間でこうした反対運動が、少なくとも58件発生していたということなんです。

そして、障害がある人の家族会にも聞いたところ、その発生件数は60件に上るということでしたので、つまりどちらに聞いても、60件程度は発生しているとみられるんです。」


近田

「双方から聞いた数字から、だいたい60件ぐらいと。」


井上記者

「そうなんです。 この60件のうち、設置を断念したり、予定地を変更したりしたケースは36件に上っていたんです。 研究者は、こうした反対運動には一定の傾向があると指摘しています。」


大阪市立大学 野村恭代准教授

「古くからの住宅街ではなくて、どちらかというと新興住宅街で多く、“施設コンフリクト”が確認されている。障害者にこれまで接する機会が無かった方々が非常に多いので、どうしても障害者が怖いのではないかと判断される傾向が強い。」


 施設コンフリクトに関しては、大阪市立大学 大学院 生活科学研究科・生活科学部、研究だより VOL17 :施設コンフリクトとリスクコミュニケーション(人間福祉学科 准教授 野村 恭代)に詳しく記載されている。この文章内に次のような記述がある。

「施設コンフリクト」とは、いわゆる「迷惑施設」に対する地域住民と施設建設者側との紛争や闘争等を表す言葉です。迷惑施設にはさまざまなものがあります。近年、問題となっている原子力発電所や米軍基地なども迷惑施設として認識される場合が多くあります。ごみ処理場や火葬場などに対しても、地域住民からの反対運動等が起こることは多々あります。また、社会福祉施設に対しても、施設コンフリクトが起こることがあるのです。


 迷惑施設に関わる反対運動のことを、NIMBYと表現することがある。NIMBYとは、理念としては必要だが、我が家の裏庭にはお断り(Not In My Back Yard)という意味である。NIMBY 研究の動向と課題(鈴木晃志郎)では、マネジメントの視座からNIMBYが取り上げられるようになった背景として、エコロジーの台頭と、障害者の社会復帰政策があるということを述べたうえで、後者に関しては、次のような指摘をしている。

スティグマは(1)傷跡、肥満などの外的な徴、(2)アルコ ール中毒や薬物依存などの個人的性向による逸脱、(3)民族、国家、宗教などの差異に基づく集団的スティグマの 3 つに大別され、Link and Phelan (2001)によれば、社会的弱者の立場に置かれた人々は、(1)区別と差異によるラベル貼り、(2)優占的な立場の文化的信条による、逆の属性に対しての結びつけ、(3)結びつけられた人々に対する差異化、(4)差異化によってもたらされる不平等な状況の創出(地位喪失や差別の感覚)の4 つの段階を経て差別化される。社会はこうした烙印づけにより、逸脱行動を周知せしめることにより成員にそれを抑制させる機能を持っているというのである(ゴッフマン 2001)。


(中略)


NIMBY 現象は「社会空間的スティグマ化」(Strike et al. 2004: p. 271)の過程と解釈され、NIMBY を引き起こすのは、社会的弱者を排斥できる立場にいるその他大勢の「ノーマルな」関係者である。

脱施設化にともなって NIMBY 現象が起きることは以前からも知られていた。1896 年のニューヨークで、犯罪者の社会復帰支援施設(希望の館)の立地に対して起こった反対運動は、その好例である(Welty 1961)。

この研究領域は迷惑施設のみならず、そこに収容される人への NIMBY を含むため、前述したスティグマ論と論点が重度に重なる。


 施設コンフリクトとNIMBY現象はほぼ同様の課題を扱っていることがわかる。どちらの用語がより適切かということになるが、NIMBYに反対住民を揶揄する響きがあることを考慮すると、施設コンフリクトの方がより望ましいように思える。いずれにせよ、ノーマライゼーションを推進し障害者の社会復帰を進めるうえで、この課題は避けては通れない。


 施設コンフリクトに関する文献的研究については、施設コンフリクト研究の課題 野村恭代により詳しく記載されている。このなかで、障害者施設でのコンフリクトを解消するためには、障害者や施設への理解を求めることが重要であるという「理解重視アプローチ」を展開する必要性を強調したうえで、合意形成のために必要な要因をいくつか指摘している。そのなかで、私がより重要なものと感じているのが、接触体験と地元有力者や信頼できる第三者の介入の2つである。


 未知の漠然とした不安が、偏見や差別を引き起こす。かつては、認知症高齢者施設も同様の問題を生じていた。しかし、高齢化の進行に伴い、むしろ、家族の居住地近くに施設があることが望まれるようになり、トラブルが表面化することは減っているように思える。この背景には、認知症患者が増えその実態が理解されるようになったことがある。一方、知的障害者・精神障害者施設は、未だに施設コンフリクトが生じ続けている。先行研究をみても、実際に障害者と接し理解を深めていくことがもっとも基本的で重要な手段であることが強調されている。

 地元有力者や信頼できる専門家が第三者として介入することも、施設コンフリクトを未然に防ぐことやトラブルの解決への道筋をつける。心理学の世界で、しばしば取り上げられる「権威」の利用が、この問題でも効果的である。逆に、「権威」あるものが、反対運動の中枢を担うと対立は先鋭化する。冒頭にあげた記事では、地元の小児科院長である女性医師が主導的な役割を果たしたことが指摘されている*1。医師という権威を利用して、精神障害者に対する偏見や差別を助長したことを考えると、この女性医師の対応には大きな疑問を持つ。


 未知を既知に変えていくためにも、「権威」として施設居住者と地域住民との橋渡しをするうえでも、医師をはじめとした医療関係者の役割は大きい。障害者が同じ街に暮らしていることが当たり前の世の中になっていくことを心から願いたい。


福の神になった少年―仙台四郎の物語

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 今日から、仙台は初売りである。