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リハ医の独白 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-07-03 はてなブログに移転しました

はてなブログに移転しました

 本日をもって、はてなブログ続リハ医の独白に移転しました。先ほど、最初のエントリーを公開したばかりです。比べてみると明らかにはてなダイアリーよりは、はてなブログの方が使いやすいことがわかりました。最近は放置状態だったのですが、少しずつ気軽にブログを書いていこうと思っています。

 なお、これまでのエントリーは全て残していきます。管理上の問題もあるので新たなコメント等は記載できないように設定しましたが、tweetやブックマークは可能です。こちらの方も引き続きよろしくお願いいたします。

2017-04-04 PT・OT・ST国家試験合格者発表2017

PT・OT・ST国家試験合格者発表2017

 理学療法士・作業療法士、言語聴覚士国家試験の合格者が発表された。国家試験合格発表|厚生労働省に合格率・合格者数が載っている。


 今年の受験者数、合格者数、合格率は以下のとおりである。

受験者数合格者数合格率
理学療法士 13,719 12,388 90.3%
作業療法士 5,983 5,007 83.7%
言語聴覚士 2,571 1,951 75.9%

 過去5年間の受験者数、合格者数、合格率を示す。

# 2016年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 12,515 9,272 74.1%
作業療法士 6,102 5,344 87.6%
言語聴覚士 2,553 1,725 67.6%

# 2015年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 12,035 9,952 82.7%
作業療法士 5,324 4,125 77.5%
言語聴覚士 2,506 1,776 70.9%

# 2014年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 11,129 9,315 83.7%
作業療法士 5,474 4,740 86.6%
言語聴覚士 2,401 1,779 74.1%

# 2013年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 11,391 10,104 88.7%
作業療法士 5,279 4,079 77.3%
言語聴覚士 2,381 1,621 68.1%

# 2012年

受験者数合格者数合格率
理学療法士 11,956 9,850 82.4%
作業療法士 5,821 4,637 79.7%
言語聴覚士 2,263 1,410 62.3%

 第1回言語聴覚士試験があった1999年から今年までの合格率は以下のとおりである。

理学療法士作業療法士言語聴覚士
2017年 90.3% 83.7% 75.9%
2016年 74.1% 87.6% 67.6%
2015年 82.7% 77.5% 70.9%
2014年 83.7% 86.6% 74.1%
2013年 88.7% 77.3% 68.1%
2012年 82.4% 79.7% 62.3%
2011年 74.3% 71.1% 69.3%
2010年 92.6% 82.2% 64.8%
2009年 90.9% 81.0% 57.3%
2008年 86.6% 73.6% 69.5%
2007年 93.2% 85.8% 54.5%
2006年 97.5% 91.6% 62.4%
2005年 94.9% 88.4% 55.8%
2004年 97.9% 95.5% 68.4%
2003年 98.5% 91.6% 42.0%
2002年 95.7% 90.6% 53.8%
2001年 96.9% 94.8% 49.1%
2000年 95.4% 97.5% 42.4%
1999年 93.5% 90.6% 87.9%

 2012〜2017年のPT受験者数を見ると、2014年までは減少を続け、11,129名となった。しかし、その後は増加傾向となり、2017年は過去最高の13,719名となっている。前年度合格率が低く、既卒者が2,998名と多かったことが影響している。新卒者は10,721名であり、前年度とほぼ同じである。合格率は持ち直し、2010年以来の90%超えとなった。新卒者の合格率は96.3%と著しく高い。既卒者も合格者数・率は、前年度の610名31.2%から2,069名69.0%と大幅に持ち直している。昨年落ちた受験者が一念発起して頑張ったのかもしれないが、おそらく前年度と比べ今年度の国試の難易度が低かったことが最大の要因と推測する。

 OTの受験者は前年度の6,102名から5,983名と微減となった。新卒者は5,303名であり、合格者・率は4,800名90.5%となっている。計算すると、既卒者は680名であり、合格者・率は207名30.4%とかなり低い。

 STの受験者数は2,571名と緩やかに増加傾向にしている。既卒・新卒の内訳はわからない。

 この間の規制緩和のなかで、リハビリテーション関連職種養成校は急増した。しかし、国家試験を新卒で受験する者の数をみると、ほぼ頭打ちとなっている。少子化進行とともに、定員割れ起こしている養成校が少なくないと思われる。各養成校が生き残りをかけて教育の質の向上に心がけた結果が合格率上昇に結びついたのなら幸いである。

2017-03-26 改正道路交通法における認知症高齢運転者対策

改正道路交通法で医師の診断書を求められる高齢運転者のほとんどは認知症のおそれありとして対応が必要

 2017年3月12日、改正道路交通法が施行された(下記警察庁のパンフレット参照)。

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 各種有識者会議等|警察庁Webサイト内に、高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議の資料がある。第1回会議(2017年1月16日)の資料7 改正道路交通法施行後の医師の診断を受ける者、講習受講者等の推計(下図)を見ると、これまでの制度では医師の診断を受けた者が約4,000人だったのが、新制度では約5万人と大幅に増加する。このうち約1.5万人が免許取消しの対象となると推定されている。

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 認知機能検査にて第1分類(認知症のおそれがある)になった高齢運転者に対し診断書提出が義務づけられたことを受け、日本医師会は、2017年3月8日付けのホームページ(かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引きについて|各種お知らせ・報告|医師のみなさまへ|日本医師会)にて、「かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引き」を公表した。本手引きの4ページ、「図1 かかりつけ医による診断書作成フローチャート」に次のような記載がある。

 運転免許センターにおける認知機能検査において第1分類に判定された人は、 *CDR1以上の認知症が強く疑われるレベルに該当しますので、医療機関受診時に行った認知機能検査(HDS-R、MMSE)が20点以下であれば、認知症の可能性が高いと考えられます。


 *CDR: Clinical Dementia Rating(米国CERAD: Consortium to Establish a Registry of Alzheimer's Disease 作成の認知症重症度の評価尺度で、0.5:認知症疑い、1:軽度認知症、2:中等度認知症、3;重度認知症 )


 警察庁のホームページ内に、認知機能検査の実施要領について(平成28年9月30日) がある。総合点の算出と結果の判定は、次のとおりとなっている。

3 総合点の算出と結果の判定


(1)総合点の算出

 総合点は、時間の見当識、手がかり再生及び時計描画の3つの検査の点を、次の計算式に代入して算出する。

 算出した総合点は、少数点以下を切り捨て、整数で表記するものとする。

(計算式)

 総合点=1.15×A+1.94×B+2.97×C

 A 時間の見当識の点

 B 手がかり再生の点

 C 時計描画の点


(2))総合点と結果の判定

 総合点によって、記憶力・判断力が低くなっている者(第1分類)、記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類)又は記憶力・判断力に心配のない者(第3分類)に判定する。

ア 記憶力・判断力が低くなっている者(第1分類)

 総合点が49点未満

イ 記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類)

 総合点が49点以上76点未満

ウ 記憶力・判断力に心配のない者(第3分類)

 総合点が76点以上


 運転免許|警察庁Webサイト内に、認知機能検査の点数配分の元になった研究、平成23年度警察庁委託調査研究報告書/講習予備検査等の検証改善と高齢運転者の安全運転継続のための実験の実施に関する調査研究 (II)がある。

 本研究は、以下の2つのカットオフポイントを設定するために行われた。

  • カットオフポイントA(第3分類と第2分類を区分する総合得点)
    • CDR0 ができる限り第3分類に分類されるという正分類予測率が大きい
    • CDR1及びCDR0.5ができる限り第3分類に分類される誤分類予測率が小さい
  • カットオフポイントB(第2分類と第1分類を区分する総合得点)
    • CDR1が第1分類に分類される、正分類予測率が大きい
    • CDR0.5 及び CDR0が第1分類に分類される誤分類予測率が小さい

 様々な案を検討した結果、カットオフポイントAは-2.7、カットオフポイントBは0と設定された(下表、下図参照)。なお、受検者に分かりやすい点数となるよう計算式を0点から 100 点にすることを検討した結果、総合点=1.15×A+1.94×B+2.97×Cという計算式と、カットオフポイント76点、49点が導き出されている。


f:id:zundamoon07:20170326185547j:image


 図を見る限り、CDR1とCDR0の判別能力は高い。表を見ると、CDR1が第1分類となる正分類率予測率は83.5%と高くなっている。一方、第1分類になる誤分類予測率はCDR0.5で21.1%、CDR0で0.4%であり、CDR0が第1分類となる確率はきわめて低い。


 以上をまとめると、認知機能検査にて第1分類と判断され医師診断書が求められる高齢運転者のほとんどは、CDR1か0.5だと判断できる。短い診察時間だけでは認知症でないと診断することは難しい。また、HDS-RやMMSEのような認知機能スクリーニング検査がカットオフポイントを上回ったからというだけで運転可と判断することにも問題がある。本来なら、認知症疾患医療センターで判断すべき課題だが、全国でわずか336ヶ所(2016年12月28日現在)しかなく、急激な紹介患者増への対応は困難である。運転免許診断書問題をきっかけに、非認知症専門医でも認知症に対し真剣に取り組まなければいけない時代となっていると腹をくくり、対応を考える必要がある。

2017-02-16 モラルの起源

モラルの起源

 今回は、クリストファー・ボーム著「モラルの起源」を紹介する。本書は、進化人類学者の著者が、「更新世後期タイプの(Late Pleistocene appropriate)」狩猟採集社会に住む「LPA狩猟採集民」の研究を軸に、道徳、良心、利他行動はどのように進化したのかを述べた書物である。


 著者の主張をまとめると以下のとおりになる。

  • 人類の祖先、「原初のチンパンジー属」の「利他指数」は、今日のボノボやチンパンジーから推定されるのと同じくらい低かった。しかし、集団による社会統制の能力が、初歩的ではあるが、顕著に存在していた。この能力はもっぱら、すぐに性向がばれて怒りを買うタイプのフリーライダー(利己的で競争心が強く、他者を利用する乱暴者)に対して発揮されていた。彼らの自制は報復への恐怖と服従の能力のみにもとづいていた。【原初のチンパンジー属の社会統制】
  • 約25万年前、大きな脳を持つ初期のホモ・サピエンスが登場してかなり後になって、積極的に大型の有蹄動物を狩りを始めた頃に、良心の進化が始まった。集団内の人々が効率よく狩りをするためには、かなり平等に肉を分け合う必要があった。この効率の良さは、気候の変化で地球の環境が厳しくなったとき、集団や地域のレベルで生存にとって不可欠だった。【集団による狩りが良心の進化のきっかけ】
  • 人間がひとたび道徳的になると、ふたつの新しいパターンが発展した。
    • ひとつは、利他的なものに有利な「評判による選択」である。生物学者のリチャード・D・アレグザンダーは「間接互恵」という理論を提唱した。人と連帯できる人は、そうでない人よりもパートナーとして選ばれやすいがゆえに、より子孫を残しやすくなる。このことが「血縁以外への寛大さ」を支える主要メカニズムと考えられる。LPA狩猟採集民のどの社会においても、血縁以外の寛大さが好まれる。また、血縁者に対する身内びいきの援助も、家族の価値を称えるものとしてどの社会でも一致して好まれている。協力、分配などの項目も好まれており、人間は必ず寛大さに関心があるということが広く実証されている。また、利他性の高いグループのほうが、同情や寛大さを示さず、協力的でないグループよりも、子孫が生き延びやすくなることが、利他性を広めることに役立ったと思われる。【評判による選択】
    • もうひとつは、フリーライダーの抑制である。フリーライダーを積極的に処罰する社会的抑制により、利他活動をより効果的に支えられるようになる。特に問題となるフリーライダーは自分がほしいものをもらうだけのアルファ(ボス)タイプの乱暴者であるが、泥棒タイプやいかさま師タイプも標的となる。LPA狩猟採集民の平等主義の進化を対象とした著者の研究では、乱暴者になろうとする人間を、コミュニティーが積極的に、場合によってはかなり暴力的に取り締まることがわかっている。社会統制の手段のなかには、死刑、追放、徹底した仲間外れが含まれており、これらの手段は遺伝子プールに影響を与えたと予想される。力を奪われたアルファは集団の女たちを生殖面で支配することは難しくなり、一夫一妻制の誕生や発展に道を開いた。良心の誕生するきっかけはグループによる社会統制であり、十分な装備で大型の獲物を狩る集団が怒って「逸脱者」を処罰することによって「社会選択」と呼べるものが生じた。なお、乱暴者も、みずからの競争する傾向を社会的に受容させる方向へ導きながら、処罰されそうな場合には表に出さないように自制できるならば、適応度を上げることが可能であり、フリーライダーの遺伝子は消え去ることはなかった。【処罰するタイプの社会選択】
  • 生物学者のロバート・トリヴァースは互恵的利他行動のモデルを作り、長期的な「見返り」の対称性が見られることを示した。互恵的利他行動とは、あとで見返りがあると期待されるために、ある個体が他の個体の利益になる行為を即座の見返りなしでとる利他的行動のことであり、「血縁以外への寛大さ」を理論的に説明できる点で魅力的なものとなっている。しかし、この理論は、血縁関係にないペアが長期にわたってずっと協力し、互いのコストがほぼ釣り合っていて、大きないかさまがない場合に限られるため、日常的な行動との一致という点で説得力はない。【互恵的利他行動モデルの限界】
  • 進化的良心とは、「耐えがたいリスクを負わずに自分自身の利益をどこまで提供できるかを静かにささやく声」である。最もよく適応した良心は臨機応変なものである。トラブルを避けながらうまく生きていけるようにしながら、あまり重要ではないルールをうまく省いて得をすることもできる。社会的によく順応した人間であるわれわれは、良心には完全に支配されていない。むしろ、良心から通知を受け、効果的に、しかし柔軟に、抑制されている。われわれは、競争社会で成功を収めるためにちょっとした道徳的妥協をしながら、それでも基本的にそれなりの評判を維持し、深刻な社会的トラブルを避けている。【良心は臨機応変】
  • 良心をもつというのは、コミュニティの価値観に個人的に共鳴することであり、これはつまり、自分の集団のルールを内面化することだとも言える。しかも、感情面でそうしたルールに結びつくのでなければならない。破ると恥ずかしさを感じ、従っていると自己満足を覚え誇らしく思うようにならなければならない。【良心の内面化】
  • 前頭前皮質に物理的ダメージを受けると、道徳観念が損なわれ、社会生活を送ろうとしても難しくなる。また、サイコパスという、生まれつき社会のルールを認めて内面化するのに必要な、感情面の結びつきを持たず、他人への共感も欠いている人もいる。MRIの研究では、サイコパスの傍辺縁系に明らかな異常があった。【サイコパス(良心のない人)の存在】
  • 初期のホモ・サピエンスが含まれる「原初のチンパンジー属」の対立をもたらすものとして、なわばり意識、よそ者嫌いがある。現代の狩猟採集民、さらに言えば人類全てに見られるよそ者嫌いの傾向に関して、注目すべき点のひとつに、「自分たちの道徳律が当てはまるのは自分の集団だけ」というものがある。よそ者に対する恐怖や侮蔑を道徳的に説明する「道徳化」というものをしだすと、自民族中心主義が生じる。この文化的に洗練された動機づけは、従来型の熾烈な戦争や征服、そしてとりわけ破壊的な大量虐殺を支持する手助けをした。【なわばり意識、よそ者嫌い】
  • われわれの最近の祖先は、第一に利己主義者で、第二に身内びいきだったが、遺伝的本性としてかなり利他的でもあった。その結果生じた血縁以外への寛大さが、具体的な公益のビジョンを心に描いて協力する必要が生じたときに、文化の土台となる重要なものをもたらした。間接互恵のシステムは、長年にわたり実に見事に実に柔軟に役立ってきた。人類の知力にこうした社会関係における建設的な側面があるために、われわれの進化のプロセスは特異なものとなった。【利他性が人類進化のプロセスに影響】
  • 平等主義は、乱暴者を用心深く積極的に抑え込むことによってしか維持できない。さまなければ、彼らはフリーライダーとして、自分より利己的でなく力の劣る他者から、公然と自分の欲しいものを奪う。LPA狩猟採集集団とは違い、現在の世界は決して経済面で平等主義ではない。我々の世界は大きすぎ、多様すぎて、危険すぎる。しかし、われわれは皆、向社会性へと方向づけられた基本的な道徳的能力を共有している。より危険の少ないグローバルな道徳的コミュニティを作り出す方向に進めるようになった場合に、この能力を必ず使うことになる。【現代社会における基本的道徳能力への期待】

 本書は、人間の本性に関するかなり刺激的な内容を含んでいる。

 人間は、まずエゴイストであり、次に身内びいきであり、そして、かなり利他的である。加えて、道徳感情に裏づけられた攻撃的な性質も持っている。人間のモラルには、利他性と攻撃性の二面性がある。

 人間を特徴づけている寛大さの問題を考える時、利己的に競い合う個体のなかで利他的なものが多数を占めていく「利他行動のパラドックス」を解決しなければならなくなる。利他的な志向を持つものが遺伝子を残すうえで有利となる可能性を明らかにしようとさまざまなモデルが考えられきたが、アレグザンダーの提唱した「間接互恵」=「評判による選択」が最も有力であることを、著者は繰り返し強調している。と同時に、フリーライダーを積極的に処罰する社会統制も大きな役割を果たしたことも力説している。

 利他性とともに発展してきたフリーライダーへの処罰感情は、なわばり意識やよそ者嫌いの感情とあわせて、人間の攻撃的な面を助長してきている。宗教の名のもとに行われる戦争が最も悲惨である。プロテスタントとカトリックの争いに端を発した三十年戦争の結果、ドイツの人口は約1600万から三分の一の600万まで減少したと言われる。イスラム教とキリスト教の争いは、形を変えながら現代まで続き、現代社会に深刻な影を落としている。インターネットの普及とともに、匿名者の「正義感」から炎上現象が生まれきている。

 一方、人間の協力行為は、小さな集団から生まれ、次第に規模を大きくし、近代国家のなかで社会保障などの形で制度化され、さらには、国の枠を超えて広がってきている。東日本大震災における国際的な援助活動は、その典型である。

 利他的でありながら、攻撃的であるという人間の心理がなぜ形づくられてきたかについて、本書は重要な示唆を与えてくれる。感情面に裏打ちされた利他的行動をするという道徳的な能力を人間本来の性質として持っていることを認識すると同時に、正義感の暴走による攻撃行動が悲惨な結果を招きかねないことを意識することが、現代社会に生きる人間として求められることではないかと思う。

2017-02-12 あなたの隣のサイコパス

サイコパスの脳

 前エントリーに引き続き、中野信子著「サイコパス」の話をする。

サイコパス (文春新書)

サイコパス (文春新書)


 中野信子氏は、共感性の欠如仮説の立場より、サイコパスの脳の特徴を次のようにまとめている。

 脳の前頭前皮質のうち、眼窩前頭皮質と内側前頭前皮質の両方の機能が低下していると、反社会的行動の危険性が高まります。

 そしてサイコパスは、扁桃体と眼窩前頭皮質および内側前頭前皮質とのコネクティビティが弱いとされています。

 大まかに、扁桃体の異常は「感情の欠如」に関わり、前頭前皮質の異常またはコネクティビティの弱さは学習や自省、情動を抑えるといった「認知」に関わると考えられます。


 実は、中野信子氏の著書の前にサイコパスについて読んだ本がある。米国の神経科学者ジェームス・ファロン著「サイコパス・インサイド」である。


 本書の概要は以下のとおりである。

 ファロン氏はPETやfMRIを駆使して、サイコパスの画像所見にある特徴的なパターンを認めることに気づいていた。しかし、ある日、自分を含めて撮った正常対照群の画像を解析中に、サイコパス特性のあるものが見つかり調べてみたところ、そのスキャン画像の持ち主が自分であったという衝撃的な事実に気がついてしまった。サイコパスの研究を進めるなかで、成功した神経科学者となった自分の人生を振り返り、三脚理論を提唱するに至った。


 三脚理論については、中野信子著「サイコパス」に次のように紹介されている。

  1. 眼窩前頭前皮質と側頭葉前部、扁桃体の異常なほどの機能低下
  2. いくつかの遺伝子のハイリスクな変異体(MAOAなど)
  3. 年少期早期の精神的、身体的、あるいは性的虐待

 この3つが揃わなければ、反社会的行動をするサイコパスにはならないと指摘しています。さらに、ファロン自身および彼の一族は1.と2.には該当する(!)ものの、3.だけがなかったということを告白しています。


Amygdala

 扁桃体は上図で赤く示されている部分である。

 扁桃体は大脳辺縁系の一部であり、快・不快、恐怖といった基本的な情動を決める。感情を伴う「熱い共感」に関わる部分であり、「他者に必要とされる・愛される」といった、より高次で社会的な行動に対しても、報酬系の一部として活性化される。しかし、サイコパスでは、扁桃体の機能が低下しており、恐怖や不安といった基本的な情動の働きが弱い。このため、情動よりは理性や知性が働きやすく、合理的な計算づくの対応を選ぶ。


Ptsd-brain


 内側前頭前皮質は上図で紫色で示された部分であり、眼窩前頭皮質はその下方の部分である。扁桃体 (amygdala)はオレンジ色で示されている。

 眼窩前頭皮質は、相手に対する共感を持つことで、衝動的な行動にブレーキをかける。一方、内側前頭前皮質は良心によるブレーキをかける。人間は成長するにつれ、このような社会性を司る前頭前皮質と、恐怖や罰を痛みとして受け取る扁桃体のコネクションができてくる。サイコパスは、恐怖や罰から社会的文脈を学習して、罪や罰の意識を覚えることができない。いわば、良心というブレーキがない脳を持っている。サイコパスは、自分の特徴にどこかの時点で気づく。サイコパスも良心の呵責や罪悪感を口にすることがあるが、「自分が悪いと感じているように見せる」ことが有効な処世術だと理解しているだけである。

 なお、勝ち組サイコパスと負け組サイコパスとでは、背外側前頭前皮質の厚さ、体積が違うことがわかっている。背外側前頭前皮質は、計画性や合理性、論理性を司る領域であり、「いまこれをやったら、あれが台無しになる。だからやめておこう」という冷静な判断を行う。このため、短絡的な反社会的行動を起こしにくい。


 サイコパス研究の結果、共感と良心に関係する脳の領域が明確になってきているといえる。失語症研究のなかで、言語野が特定されたのと同様の経過である。

 大多数の人間は情動と良心を結びつけることのできる脳を標準装備として生まれてくる。そして、社会のルールを身につける過程を経て、共感し人のために行動することに喜びを感じる脳を作りあげていく。原始的な脳である大脳辺縁系と人間らしさの特徴となっている前頭前皮質が、出生後の脳の成熟の過程を経て強固に結びつく。人間の特徴である向社会性に関する生物学的基盤の説明として、納得できる興味深い仮説ではないかと思う。

あなたの隣のサイコパス

 難しい脳科学をわかりやすく解説することで定評がある中野信子氏の著書「サイコパス」について紹介する。なお、本エントリーの表題「あなたの隣のサイコパス」は、本書の「はじめに」から引用したものである。

サイコパス (文春新書)

サイコパス (文春新書)


 私が重要だと思うところを箇条書きにまとめると次のようになる。なお、脳科学について触れた部分については、次のエントリーにまとめた。

  •  サイコパスは、猟奇的な犯罪や連続殺人を犯しやすい反社会的人格を説明するものとして定義された概念である。精神医学では、「反社会性パーソナリティ障害」という診断基準が最も近い。近年の脳科学の発展のとともに、そのサイコパスの実態が明らかになってきている。
  • サイコパスは尊大で、自己愛と欺瞞に満ちた対人関係を築き、共感的な感情が欠落し、衝動的で反社会的な面を持つ。また、無責任な生活スタイルを選択する傾向がある。
  • ただし、すべてのサイコパスが犯罪者予備軍ではない。「サイコパス=犯罪者」というレッテル貼りは非常に危険である。
  • サイコパスはグレーゾンを含め、おおよそ100人に1人の割合で存在する。
  • サイコパスは、共感性が低いが、相手の目つきや表情からその人が置かれている状況を読み取る才能が際立っている。サイコパスは人の弱みにつけこみ、コントロールする技術に長けている。
  • 悪意をもったサイコパスに利用されないように、サイコパスを見抜く力が求められる。
  • サイコパスには、「勝ち組サイコパス(成功したサイコパス、捕まりにくいタイプ)」と「負け組サイコパス(悪事が発覚し捕まりやすいタイプ)」がある。「負け組サイコパス」は共同体から排除され子孫を残すことは困難である。
  • 一方、歴史上の人物には、排除されずにのし上がった「勝ち組サイコパス」と思われる者も散見される。織田信長、毛沢東、ロシアのピュートル大帝などが疑わしい。ジョン・F・ケネディやビル・クリントンなど何人もの米大統領がサイコパス特性を示している。アップルのスティーブ・ジョブスは、世界で最も洗練された「勝ち組サイコパス」ではないかと考えられる。
  • サイコパスは、遺伝的要因と後天的要因との相互作用で発現するが、前者の影響の方が大きいと想定される。一方、幼少期の虐待、母性の剥奪、劣悪な養育環境といった負の刺激がが引き金となって反社会性が高まる可能性があることも指摘されている。
  • サイコパス、すなわち「良心を持たない人たち」の存在は、人間がなぜ良心を持っているのか、良心は何のためにあるのかを改めて気づかせてくれる、格好の比較対象になる。
  • サイコパスの倫理観や道徳観念を変えようとする努力は無駄である。暴力や破壊行為に直接結びつくリスク要因に照準を定めた介入が適当である。
  • 自分がサイコパスかもしれないと思った場合、サイコパス向きである仕事を見つけ、それに邁進することが最も現実的な手段、選択肢である。

 サイコパスである可能性があるのかどうかを推測する指標として、「PCL−R(The psychopathy Checklist-Revised)」がある。

  • 対人面に関する項目
    • 口達者/表面的な魅力
    • 誇大的な自己価値観
    • 病的な虚言
    • 偽り騙す傾向/操作的(人を操る)
  • 情動面に関する項目
    • 良心の呵責・罪悪感の欠如
    • 浅薄な感情
    • 冷淡で共感性に欠ける
    • 自分の行動に対して責任が取れない
  • 生活様式に関する項目
    • 刺激を求める/退屈しやすい
    • 寄生的な生活様式
    • 現実的・長期的な目標の欠如
    • 衝動的
    • 無責任
    • 放逸な行動
  • 反社会的な面に関する項目
    • 行動のコントロールができない
    • 幼少期の問題行動
    • 少年非行
    • 仮釈放の取消
    • 多種多様な犯罪歴
    • 数多くの婚姻関係

 本書の最後に、ケヴィン・ダットンの調査によるサイコパス度が高い(サイコパスが多い)職業ベスト10と、サイコパス度が低い(サイコパスが少ない)職業ベスト10を紹介されているので、引用する。なお、原著は主要参考文献に上がっていた以下の書籍と推測する。ケヴィン・ダットンはイギリスの心理学者であり、上記結果をそのまま日本に当てはめることは慎重にしなければならないが、なんとなくうなづける結果となっている。


サイコパスの多い職業トップ10

  1. 企業の最高経営責任者
  2. 弁護士
  3. マスコミ、報道関係(テレビ/ラジオ)
  4. セールス
  5. 外科医
  6. ジャーナリスト
  7. 警官
  8. 聖職者
  9. シェフ
  10. 公務員

サイコパスの少ない職業トップ10

  1. 介護士
  2. 看護師
  3. 療法士
  4. 技術者、職人
  5. 美容師、スタイリスト
  6. 慈善活動家、ボランティア
  7. 教師
  8. アーティスト
  9. 内科医
  10. 会計士

 歴史をひもとくと、権力者の交代に伴い残虐行為、大量粛清が繰り返されていることがわかる。権力を握る過程のなかで、サイコパス特性のある者が優位となる可能性があることが理由として考えられる。一方、個人主義の欧米と比べ、集団主義の日本ではサイコパスの発生率が低いのではないかということも指摘されている。平清盛は悪名高い人物だが、序列を乱された公家からの評判が悪いだけで、源義朝の子供たちを助けたことからわかるように、対立者を根絶やしにするようなことはしていない。平安時代には長期間死刑が行われなかったことも、世界史上特筆すべきことと言われている。ただし、戦国時代のように残虐な刑罰が行われていた時代もあり、日本人にサイコパスが本当に少ないかどうかについては留保が必要である。


 現代の世界情勢をみてみると、残虐行為を平然と行う為政者が少なからずいる。反対勢力の大量処刑を行っているとアムネスティーから批判されているシリアのアサド大統領や、政権幹部を含め反対勢力と見なされた者を残虐な方法で処刑していると伝えられる金正恩は、サイコパスではないかと私は思う。現米大統領のトランプ氏もサイコパス傾向がかなり強い人物ではないかという危惧をいだく。本書にも以下のような記載があるが、よく当てはまる。

 口がうまく、主張や態度をコロコロと変え、自己中心的で支配欲が強く、おのれの過失の責任は100%他人にあるような物言いをし、誇大妄想に取り憑かれているように見える。この人はいったい何をやりたいんだろう、何が楽しくて生きているのだろう、というふうに疑問を感じさせる著名な政治家や実業家が、誰にも幾人かは思い浮かぶのではないでしょうか。


 サイコパス特性を持つものが反社会的行為を行わないようにするために、遺伝子検査をして排除するのではなく、幼少時の環境を調整することによって反社会性の発現を抑えたり、適正のある職業に就くように促したりした方が良いという著者の主張は適切であると思う。ただし、医療職に関しては、やや違う意見を持つ。例えば、サイコパスは、一般人では不安や痛みを感じてしまいとても手を出せないようなことでも平気でやりとげることのできる才能を持つという意味で外科医の適性があるとなっている。ただし、日本の場合は手術だけをしている外科医は少なく、術後管理や患者・家族の心理的サポートもしなければならない。人間関係を築くことが不得手で、この人大丈夫かなと思う外科系医師は確かに存在するが、サイコパスは外科医に向いていると勧めるのは適当ではない。なお、リハビリテーション医は、上記リストには含まれていないが、介護士、看護師、療法士などと同じ範疇に入る。共感を感じることのできない人間には不向きな職種である。