Hatena::ブログ(Diary)

リハ医の独白 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2015-05-31 ネパール大地震と脊髄損傷

ネパール大地震と脊髄損傷

 第52回日本リハビリテーション医学会で、「災害とリハビリテーション」というテーマでシンポジウムがもたれた。その中で、2015年4月25日に発生したネパール大地震にて多数の脊髄損傷者が生まれ、リハビリテーションニーズが急増していることが紹介された。


 Nepal quakes: Treating the spinally injured - BBC Newsにネパール大地震における脊髄損傷者の状況が紹介されている。2015年5月26日付のブログとなっており、最新の数値である。

On 25 April the first devastating earthquake struck Nepal causing 8,500 deaths, 16,000 injuries and 300,000 homes were destroyed. Nearly three weeks later I witnessed a second quake which caused another 141 fatalities and 3,000 injuries. Another significant statistic is that there have already been more than 173 spinal injuries resulting from the earthquakes. This number is predicted to rise to 400.


(中略)


I work for Livability, a UK disability charity partnered with the Spinal Injury Rehabilitation Centre (SIRC), the only centre of its kind in Nepal. Based in Sanga near the capital Kathmandu, it is currently under more pressure than ever before.


(中略)


The centre's normal maximum capacity is 50 beds - it's currently more than double that figure, at 110 beds. The patients are in corridors and every other piece of available space.


 数値だけ取り出すと以下のようになる。

  • 死者:8,500人
  • 負傷者:16,000人
  • 家屋倒壊:300,000件
  • 脊髄損傷者数:173人以上、推計値400人

 以上の脊髄損傷者をネパール唯一の脊髄損傷センターSpinal Injury Rehabilitation Centreで受入れており、通常は50床の最大収容数が、現在は110床まで増加している。写真を見ると、収容能力の限界を超えているためテント下での医療が余儀なくされている。


 WHO | WHO mobilizes funds for long-term spinal cord treatment after Nepal earthquakeの方を見ると、次のような数字が記載されている。こちらは5月2日付の数値である。

Among the estimated 14 000 injuries incurred as a result of the April 25 earthquake, which measured 7.8 on the Richter scale and has so far resulted in 6200 recorded fatalities, approximately 1 in 3 (or around 4700) will require follow-up rehabilitation treatment. Of this number, approximately 12 percent have damage to their spinal cord.

 比率に注目して数値を抜き出すと、リハビリテーションニーズが急増していることがわかる。

  • 推計14,000人の負傷者中、およそ3分の1(4,700人)に引き続くリハビリテーション治療が必要である。そのうち約12%が脊髄損傷を負っている。

 Medical Rehabilitation After Natural Disasters: Why, When, and How?では、大規模災害時に、脊髄損傷、四肢切断、頭部外傷に対するリハビリテーションの重要性が増すことを強調している。参考文献をみると、カシミール地方で発生したパキスタン大地震(2005)に関する論文が紹介されている。リハビリテーション医学会講演では、ハイチ大地震(2010)年でも同様だったとのことである。また、フィリピンを襲った台風Haiyan(2014)でもリハビリテーションニーズが急増したと報告された。


 発展途上国で大地震が起こると、建物の脆弱性などが要因となり、多数の重症外傷者が発生する。一方、リハビリテーション医療を提供できる医療機関は少なく、退院後の生活環境整備も不十分である。以上の認識に立ち、国際協力が進められている。

 不幸中の幸いだが、ネパール脊髄損傷センターは、国際協力のもと、2002年に設立され2008年に現在地に移転した。本センターがなかったら、さらに脊髄損傷者の医療は悲惨な状況にとどまっていたことになる。その意味で、ネパール大地震の経験は、今後の大規模災害時の国際協力のモデルとなりうる。


 日本では、阪神淡路大震災の教訓を受け、耐震基準が強化されている。東日本大震災時にも家屋倒壊に伴う重症外傷者は少なかったという認識がされている。しかし、油断は禁物である。阪神淡路大震災のような人口密集地帯の直下型地震では、多数の外傷者が発生する可能性がある。The International Society of Physical and Rehabilitation Medicine(ISPRM)では、早期より脊髄損傷などの重症外傷者のリハビリテーションニーズに対応するDisaster Acute Rehabilitation Team(DART)という概念を提案している。また、日本リハビリテーション医学会などが中心となって設立した大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会では、さらに引き続くリハビリテーションニーズに対応するために、Japan Rehabilitation Assistance Team(JRAT)の整備を進めている。DART、JRATいずれも特別なものとは捉えず、日常診療のなかに災害時リハビリテーションを位置づけ、自分自身の課題として備えをすることが大事であると、私は考える。

2014-04-27 要介護認定率が原発事故周辺自治体で急増

要介護認定率が原発事故周辺自治体で急増

 東日本大震災から3年が過ぎた。原発事故周辺自治体において、震災関連死の増加が問題となっている。同様に、要介護高齢者も急増しており、対策が必要な課題となっている。


【関連エントリー】


 介護保険事業状況報告 月報(暫定版)|厚生労働省に、保険者(市町村)別の要介護認定者の情報がある。震災前の2010年12月のデータと3年後の2013年12月のデータを比較した。第1号被保険者に占める要介護(要支援)認定者数の割合を比較した。なお、全国の要介護認定率は、16.8%(2010年12月)→17.9%(2013年12月)と1.1%増となっている。

 要介護認定率の差を市町村ごとに図示した。茶:4.6%以上、赤:3.6〜4.5%、橙:2.6〜3.5%、黄:1.6〜2.5%、緑:0.6〜1.5%、青:0.5%以下、と色分けした。


# 岩手県

f:id:zundamoon07:20140427164631j:image

 岩手県全体では、1.6%増(16.5→18.1%)となっている。盛岡市など内陸部の人口密集地域で緑(0.6〜1.5%)となっており、要介護認定率の増加は全国平均並である。沿岸部と山間部、県南、県北で要介護認定率増加が目立つ。特に津波被害にあった沿岸部と県南地域で顕著である。最大は、赤(3.6〜4.5%)で示した田野畑村の4.0%増(15.8→19.8%)である。


# 宮城県

f:id:zundamoon07:20140427164632j:image

 宮城県全体では、1.6%増(16.5→18.1%)となっている。仙台市及び周辺地域では、緑(0.6〜1.5%)ないし青(0.5%以下)となっている。沿岸部と県南、県北で要介護認定率が増加している。特に津波被害にあった沿岸部が顕著である。赤(3.6〜4.5%)で示されているのは、女川町の4.3%増(15.1→19.4%)と南三陸町の4.3%増(14.7→19.0%)である。宮城県第2の都市石巻市では、3.0%増(15.9→18.9%)となっている。実数でみると、6,952名より8,043名と1,091名の大幅増となっている。


# 福島県

f:id:zundamoon07:20140427164630j:image

 福島県全体では、1.9%増(16.9→18.8%)と全国の倍近い増加となっている。福島市や郡山市がある中通りで緑(0.6〜1.5%)となっている。会津では一定の傾向がなく、下郷町3.6%増、三島町4.5%増、昭和村4.6%増と高い値を示しているところもあれば、只見町0.3%のように低い値のところもある。

 原発事故のあった双葉郡と周辺自治体で、要介護認定率増加が顕著である。双葉郡8町村でみると、広野町3.4%増(15.9→19.3%)、楢葉町5.0%増(14.4→19.4%)、富岡町5.9%増(15.3→21.2%)、川内村5.7%増(16.9→22.6%)、大熊町8.8%増(15.8→24.6%)、双葉町9.0%(17.3→26.3%)、浪江町8.8%増(16.0→24.8%)、葛尾村9.8%(17.9→27.7%)であり、平均7.3%増(15.9→23.2%)となっている。要介護認定者も2,823人から4,150人と1,327人増えている。飯館村は8.1%増(17.7→25.8%)、南相馬市は3.6%増(14.4→18.0%)となっている。南相馬市の要介護認定者は、2,674人から3,445人と771人増となっている。


 被災3県とも、全国値と比べ、要介護(要支援)認定率の増加が目立っている。なかでも、福島県双葉郡およびその周辺自治体の増加が顕著である。長期化する避難生活のなかで心身のストレスが増え、体調を崩している高齢者が少なくない。コミュニティーが寸断され、仮設住宅で閉じこもりがちの生活が続き、生活不活発病になっている者もいると推測する。遠方に避難していない場合でも、医療機関や介護事業所が被災し、サービス自体を受けることが困難になっている。

 岩手県・宮城県では津波被災地において、認定率が増加している。震災関連死に至らないまでも、健康状態や生活機能を維持することが困難になっている。

 地震、津波、原発事故といった複合災害が、高齢化が進む医療・介護過疎地域を襲った。介護保険情報を解析した結果をみる限り、静かに、しかし、深刻化しながら進む健康問題について、国が積極的に対策をとっているとは思えない。

2013-10-13 ずる 嘘とごまかしの行動経済学

震災関連自殺が福島で増加

 今年になって震災関連自殺が福島県で増えていることが、本日新聞報道された。


【関連エントリー】


 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に関連する県内の自殺者が増加傾向にあることが内閣府のまとめで分かった。今年は8月末現在で15人に上り、昨年1年間の13人、一昨年の10人を既に上回っている。岩手県の5倍で被災3県で最も多い。専門家は古里を離れての避難の長期化が精神的な負担を増大させていると指摘。増加傾向に拍車が掛かる懸念があり、対策が急務となっている。


(中略)


 23年からの累計の市町村別では、いわき市が8人で最も多い。南相馬市が7人、福島市が5人、相馬市が4人と続いている。津波被害を受けた沿岸部や仮設住宅を数多く抱える中通りに集中している。死亡時の居住地を基に積算しており、双葉郡から避難し、いわき市の仮設住宅で自殺した場合はいわき市に計上される。

避難長期化で自殺増 県内1?8月 被災3県で最多15人 古里離れストレス | 東日本大震災 | 福島民報

 報道のもとになった資料は、404 Not Found - 内閣府最新の震災関連自殺者数(PDF形式:307KB)である。下記表が、福島民報の都道府県別表に一致する。なお、本資料を読むと、基礎資料は警察庁から自殺分析班に伝達され、プライバシーに配慮して、全国または都道府県別等の形式にて公表することになっている。したがって、今回、福島民報が市町村別の資料を公表したのは、同社が事前に分析班から自殺対策推進室・警察庁・厚生労働省に相談し、了解を得たものと推測する。

f:id:zundamoon07:20131013223427j:image


 「東日本大震災に関連する自殺」とは、次のように定義される。

  1. 遺体の発見地が、避難所、仮設住宅又は遺体安置所であるもの。
  2. 自殺者が避難所又は仮設住宅に居住していた者であることが遺族等の供述その他により判明したもの。
  3. 自殺者が被災地(東京電力福島第一原子力発電所事故の避難区域、計画的避難区域又は緊急時避難準備区域を含む。)から避難してきた者であることが遺族等の供述その他により判明したもの。
  4. 自殺者の住居(居住地域)、職場等が地震又は津波により甚大な被害を受けたことが遺族等の供述その他により判明したもの。
  5. その他、自殺の「原因・動機」が、東日本大震災の直接の影響によるものであることが遺族等の供述その他により判明したもの。

 例えば、1)遺書等に東日本大震災があったために自殺するとの記述があった場合

     2)生前、遺族等に対し、東日本大震災があったため自殺したい旨の発言があった場合


 404 Not Found - 内閣府第3章 平成24年中における自殺の分析(3)を見ると、福島県の自殺者数が全国と比べ、特に多い訳ではない。平成23年度データとその前年と比べてみても同様である。

f:id:zundamoon07:20131013225814j:image


 第3章 平成24年中における自殺の分析(1)をみると、全国的には自殺死亡率は平成22年頃より低下傾向にあり、平成24年は15年ぶりに3万人を下回っている。

f:id:zundamoon07:20131013225815j:image


 大規模災害後には、メンタルヘルスケアが問題となる*1。自殺統計だけをみる限りは、震災関連死としての自殺が増加しているかどうかは明らかではなかった。しかし、震災関連自殺に的を絞って調査してみると、福島県のみ異常な推移を示していることがわかってきた。

 原発事故収束が見えないなか、住み慣れた故郷を離れ、長期にわたって避難生活を続けていることのストレスが問題となっている。うつ病、アルコール依存症、閉じこもりによる孤立など、多種多様なトラブルが被災者を襲うことをあらためて認識しなければならない。

*1:参照:no title

2013-05-13 地震の日本史

地震の日本史

  本書に巻かれた帯に刻まれていた次の文言にひかれ、本書を購入した。

 「平安時代に起きた東北巨大地震の18年後には、南海大地震が起きている!


地震の日本史―大地は何を語るのか (中公新書)

地震の日本史―大地は何を語るのか (中公新書)


 本書の著者の寒川旭氏は、「地震考古学」の提唱者である。「地震考古学」とは、地震学と考古学をあわせ持つ学問であり、遺跡にある地震跡の調査と、歴史資料の地震に関する記述との照らし合わせによって、発生年代の推定や将来の地震の予測を行う、新しい学問分野である(Wikipediaより)。日本は世界有数の地震国であり、過去千数百年に及ぶ文字記録が残されている。この記録と考古学的遺跡とを照らし合わせ、地震の起きた年代を推定することができる。

 地震は、プレートの境界から発生するものと活断層が原因のものとに大別される。活断層は、「長い静寂」と「一瞬の活動」を繰り返している。活断層を掘り下げ、様々な年代の地層の食い違いを観察する方法を「トレンチ調査」という。この調査によって活断層型地震の発生時期が推定される。本書は、縄文時代から21世紀にいたるまでの地震記録を年代ごとに丹念に記録しながら、地震の実態を明らかにしていく。


 歴史記録をみると、東日本大震災と同様に仙台平野を巨大津波が襲ったことが2回あった。貞観地震(869年)と慶長16年に起きた地震(1611)である。それぞれの地震の前後、日本全体で地震が相次いでいた。本書をもとに時系列で表すと、次のようになる。トレンチ調査で震源と推定された活断層を記す。津波を伴うものは、推定されるプレートを提示する。一部、寒川旭氏のコラムをリンクする。


# 貞観地震前後

 818年、関東地域北部。

 830年、秋田県。

 841年、長野県中部(糸魚川−静岡構造線断層帯)。伊豆半島(北伊豆断層帯)

 850年、秋田県。

 863年、富山・新潟両県。

 864年、富士山の火山活動が活発化し、青木ヶ原を形成。

 868年、播磨地震(兵庫県、山崎断層帯)。

 869年、貞観地震が起き、陸奥国を巨大津波が襲う(太平洋海底プレート)。

 871年、鳥海山噴火。

 878年、関東南部(伊勢原断層)。

 880年、島根県出雲。

 887年、仁和南海地震が起き、摂津や淡路を巨大津波が襲う(南海トラフ)。東海地震も発生した可能性あり。


# 慶長16年に起きた地震前後

 1586年1月18日、天正地震が起き、中部地域から近畿東部を巨大地震が襲う(岐阜から愛知にかけ、庄川断層帯、阿寺断層帯、養老―桑名―四日市断層帯が連動)*1。この地震の際、豊臣秀吉は琵琶湖沿岸の坂本城にいた。大阪城へ避難する途中、琵琶湖のナマズが奇妙な行動を起こした。1592年末、秀吉は伏見城の普請を担当した前田玄以に出した手紙の中で「ふしみのふしんなまつ(鯰)大事にて候」と書いた。この手紙が地震を鯰と表現した最古の史料である*2

 1596年9月1日、別府湾周辺の大地震。同年9月5日、伏見地震にて伏見城倒壊などの大被害発生(大阪平野の補北縁から六甲山地の北に続く有馬ー高槻構造線活断層系、六甲・淡路島断層帯が連動)。四国の中央構造線断層帯も活動した可能性が示唆されている。

 1605年2月3日、房総半島から静岡、四国に及び太平洋沿岸の広範囲に津波が押し寄せる(南海トラフ)。揺れが小さく、津波だけが押し寄せる津波地震だった。

 1611年9月27日、会津地震(会津盆地西縁断層帯)*3。同年12月2日、三陸沖で地震が発生し、三陸沿岸から北海道東岸にかけて広範囲の地域が津波被害を受けた(太平洋海底プレート)。

 1646年6月9日、仙台内陸部で地震。

 1659年4月21日、栃木、田島宿で地震。

 1662年6月16日、寛文近江・若狭地震(琵琶湖西岸、花折断層)。同年10月31日、日向の外所(とんところ)地震が起き、津波が襲う(日向灘海底)。

 1666年2月1日、新潟、高田地震。

 1683年6月17、18日、日光地震(関谷断層)。

 1703年12月31日、元禄関東地震が起き、津波が襲う(相模トラフ)。

 1707年10月28日、宝永地震が起き、静岡から四国にかけての広範囲を津波が襲う(南海トラフのほぼ全域)。同年12月16日、富士山の宝永火口から噴火。


 俯瞰してみると、貞観地震、慶長地震前後で、日本全体にプレート型巨大地震と活断層型地震が連鎖していることがわかる。南海トラフを震源とする津波を伴う巨大地震は90〜150年の間隔で発生している*4。1854年には安政東海地震と南海地震が連続して生じた翌年に安政江戸地震が起こった。1923年の大正関東地震から20年あまり後の1944年、1946年に東南海地震と昭和南海地震が生じた。大地震は連鎖すると考え、備えをする必要がある。

 本書を読んで気になったことがもう一つある。近畿地方には、活断層型地震が多いということである。琵琶湖周辺には多くの活断層が分布している。特に琵琶湖西岸活断層帯は活発に活動を続けている。琵琶湖は断層活動のたびに沈降し湖水を蓄える。湖に流れ込む土砂の埋め立てよりも沈降量が上回り続けるため、巨大な湖として存在し続ける。鴨長明が嘆いた1185年の大地震は、琵琶湖西岸の堅田断層が震源と推定されている。1596年に起こった別府湾の大地震、4日後に生じた伏見地震、文献記録はないが活動したと推定される四国の中央構造線断層帯、そして、1622年に生じた花折断層の地震のルートを見ると、九州北東端から四国と京阪神を経由して、琵琶湖西岸を通り、若狭湾へとつながる地震のコースが浮かび上がる。人口密集地帯を直下型地震が襲う危険性が高いことを念頭に入れた防災対策が求められる。

2013-04-14 神社は警告する

神社は警告する

 「神社は警告する-古代から伝わる津波のメッセージ」という本が面白く、一気に読み終えてしまった。


【関連エントリー】


 震災直後の2011年4月6日、神社の名前に託した大津波に対する先人からの警告についてエントリーを書いたことがある。浪分神社と蛸薬師をとりあげたが、この2つの神社が特殊なものではなかったことを本書は示している。多くの神社が津波浸水域に沿うような形にギリギリの場所に並んでいるという不思議な現象についての疑問から始まっている。

神社は警告する─古代から伝わる津波のメッセージ

神社は警告する─古代から伝わる津波のメッセージ


 福島県の新地町から相馬市、南相馬市沿岸部にある84の神社のうち、67社が無事で17社が被害を受けていたという事実が明らかにされる。津波で流された神社は、移転の歴史があるものが多いのに対し、無事だった神社は来歴不詳の村社がほとんどである。相馬市にある「津(つのみつ)神社」では、津波の神様として地元では知られており、そこまで逃げれば助かるという言い伝えが残されていたことが聞き込みで明らかにされる。

 東北地方を襲った大津波としては、貞観津波(869年)と慶長津波(1611年)が知られている。「延喜式」(927年)には、朝廷から官社として認められた神社が一覧表になっている。ここに載った神社は「式内社」と呼ばれ、福島・宮城・岩手には「陸奥国百座」という神社がある。このうち、今回の震災で破壊されたのは3社のみだった。しかも、その3社とも移転されたか忘れ去られた歴史の後に後継社として定められたものであったということが明らかになった。貞観津波が神社立地に影響を与えていたことが推測された。また、宮城県や福島県沿岸部にある神社や街道は、慶長津波の浸水域に沿ったものが多い。

 東海地方の神社をめぐると、近世になってからも繰り返し大地震と津波の被害にあった神社が鎮座する場所を移した経緯がみてとれる。神社は、自然の猛威と人びとの運命を”記憶”として宿すランドマークであると同時に、「災害時の避難場所」であり、「防災教育・訓練の場所」でもあった。


 丹念な調査をもとに古代から伝わる津波のメッセージが浮かび上がる。良質のミステリーを読む味わいがある。昨日取り上げた「末の松山」のことも、本書を読んで初めて知った。福島第一原発事故がなぜ起こったかについても言及している。今後、東日本大震災と同じような大災害が日本のどこでも起きる可能性がある。被害をできる限り少なくするためにも、過去からのメッセージを謙虚に受け止めることが必要である。