二 女王メリザンド パレスティナ十字軍王国は「王国」とはいえ、実態はフランス貴族の在外領地に近いものであったため、王権の継続性の担保が弱く、たびたび王統が変わっている。男性権力も脆弱であり、しばしば実権を持つ共治女王を輩出した。その最初の例が、メリザンドである。 その点、本国フランスではゲルマン時代の慣習法サリカ法により王の継承権は男子に限定されていたが、パレスティナではそうした慣習も重視されず、より実際的な独自の慣習が形成されていった。 メリザンドは、第2代王ボードゥアン2世の長女として、もう一つの十字軍国家エデッサに生まれた。ボードゥアン2世には男子がいなかったため、サリカ法によらず、メリ…